第十章   

普段通りの生活の中で、彼が私を抱き締めてくれた香水や
優しく触れた心地よさは忘れられなかった。
2日経ったお昼頃にようやく彼からの連絡が入っていた。
「ごめん、少し忙しくて」そんな事を言っていた。
人にはそれぞれ時間配分があるし、予定もあるだろうし
「大丈夫だよ」そう答える事にした。
彼と会うまでの3週間は私も私のペースで過ごしていた。
なるべく、家事を頑張る様に、だらけてしまわない様に。
夜は毎日の様に彼と連絡を取り合い、なんでもない事を連絡する日々。
主人とは毎日接したくもない笑顔で接し、
自室へと戻れば疲れてしまう日々だったが、なんだか楽しかった様な気がする。
あっという間に3週間は過ぎ、彼と会う日になっていた。
彼との待ち合わせの最寄り駅へと歩く足取りが軽い。
それから、彼と合流し彼の部屋へと向かった。
随分と寒くなった季節だったが、彼の笑顔に私はホッとし
心が穏やかだった。
2度目の彼の部屋、「どうぞ」と招き入れられて
まだ部屋が綺麗だった事に私は違和感を覚えたが、
まぁ、気にする事でもないと思う様になっていた。
彼と話していると心地が良い。
ゆっくりと話すぺースや私に向けてくれる笑顔でさえも。
ちょこちょこと煙草を吸いにベランダへと出させて貰った。
「私を必要としてくれている」そんな風に感じながら煙草に火を点けた。
最近ではお互いに笑い合って話す事が増えて来た様に感じている。
時間もそろそろ夕陽の出てくる時間になって来たからなのか、
主人が頭の中を過ったからなのか分からないが、
「そろそろ帰らなくちゃ」そう、私は彼に伝え「なんだか寂しくなるよ」と
返事が返って来た。
「ごめんね、帰らなきゃ」私は少しだけ分厚くなったコートを羽織り、彼へと振り向いて
「瑠偉、それじゃあ…」またねそう言いかけた時に彼は私を正面から抱き締めてくれていた。
優しくもあり、強い感覚も感じ取れる様に。
彼の香水の香りに包まれて。
彼はゆっくりと「彩、キスしても良い?」そう私に問いかけた。
私は彼以上にゆっくりと考え、「うん」そう答えていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

煙の行方

あっという間の3週間。
また彼の部屋へと向かっていく主人公。

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投稿日:2024/02/25 07:50:43

文字数:884文字

カテゴリ:小説

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