私とリンとが仲良くなって数日たったある日。
私は偶然、懺悔室の前を通りかかった。懺悔室の扉は少し開いていて、その中は幻想的でどこか厳かだ。穢れを寄せ付けない神聖さの様なものが有る。
薄暗い室内に目を凝らす。暫くそうしていると、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。か細く今にも消え入りそうな声。―それは紛れもない、リンだ。
私は、励まそうとした。
そう。励ましてあげようと―した。
「ごめっ……なさ……い」
―それは嫌でも逃れられない真実。
嗚咽交じりに聞こえてくる、彼女の口から漏れる真実。
私とリンは何処か似ていると、感じていた。時々悲しげな笑みを浮かべることも、誰かを想うような横顔も。
―逃げ出したい。早く、ここから。
時々縺れそうになる足を必死に動かす。両手で耳を塞いで。
じわじわと―私が今まで感じたことの無い感情が、私の心を蝕む。
ああ、彼女は正に――
―悪ノ娘―
*
ギュッ。
私は服の上からそれを握り締める。
町外れの教会の近くの港に佇むリン。私はリンのその背中を見つめて、意を決した。
―ごめんね、ミクちゃん。
私がここまで人を憎むと言う感情が有るとは思っても居なかった。
私はリンに気付かれないように、なるべく足音を立てないで歩き始める。鼓動が早鐘を打つように早くなって、握り締めた手が汗ばんでくる。
私はそっと……懐からナイフを取り出した。
一歩一歩彼女の背中が近付く。
私はナイフの柄を力強く握り締めた。
そして、彼女の背中に視点を合わせて、そしてそこへ目掛けて――
ナイフを振り上げた―――
ゴーン、ゴーン、ゴーン………―。
教会の鐘が、三時を告げた。
私は窓から港を見つめた。いつか復讐を決心した港。
甘い匂いが鼻を擽る。もうすぐリンのブリオッシュが出来上がる。最近リンは料理の腕が少し上がった。前まで黒こげだったり生焼けだったりしたブリオッシュも丁度いい加減で出来上がっているのだろう。
私は自然に顔が緩んだ。
私は何故、あの時リンを殺せなかったのか。それは――リンが昔の私に似ていたからなのだと、今にして思う。
一人で生き続ける事、それはとても寂しいという事を私は良く知っているから。だから―私はあの娘の一番の理解者になろう。
「ハク、上手く焼けたよ!」
そんな明るい声と扉の開く音が背後から聞こえてきて、私は微笑んだ。
そこにいるのは、無邪気に微笑むリン。私は、微笑みを崩さないまま席に着いた。
「そういえばリンは何でブリオッシュに拘るの?」
「ん?ん~……秘密!」
「えー?」
そういえば―
あの時あの海辺で一瞬見えた幻覚。
あのリンに似た少年は一体―
誰だったのかしら?
―END―
白ノ娘 ―5(最終話)―
コメント1
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ご意見・ご感想
華龍
ご意見・ご感想
初めまして、華龍と申します。
harunaさんの文章を初めから読ませていただきました。
とっても、分かりやすくそれでいて主人公達の感情が伝わってくる
文章力がすごいなと感じました。
「未熟な文才」と紹介されてますが、とんでもないです!!
そんなことありませんよ、素晴らしいです^^
アドレサンスとか2828させられましたよ~ww
ボーカロイドの日常も素晴らしいですね(≧∀≦)ノシ
主人公の感情表現がホントにお上手です!!感動しました!!!
とりわけ、白ノ娘とか最高でした!!!タグも最高でしたwww
そんなわけで(どんなわけ???)
harunaさんをユーザーブクマさせてもらいます!!!
これからも、2828かつ感動的な文章頑張ってください!!
影ながら応援してます!!|∀・).。oO(・・・) では!!
2010/02/27 02:32:10
haruna
華龍様>
?(゜Д゜)
こ、コメントが!
…と、こんな感じでした(笑)
私の文章を初めから!?有難うございます^^
文章力がすごい……ですと?
作者がパソ前でニヤニヤしましたw
いえ、他の作者様方から比較すればまだまだ「未熟な文才」ですよ^^;
アドレサンスは私自身ニヤニヤしながら書きましたからね(笑)それが読んで下さる方々にも伝播したのでしょうか……?
あれははっちゃけ産物小説ですよw
感情表現は特に大切にしてますからねー、とても嬉しいです^^
白ノ娘は衝動書きみたいな。私は考えて書くのではなく執筆しながら文章を考えるので……タグ会話は作者自身びっくりして、そして思わず「ぷっ」と吹いてしまいましたから(笑)
ゆ、ユーザーブクマ!私、初です!
はい、これからも頑張って皆様を2828頑張ってさせますw
暖かく見守ってやって下さい(´`)
2010/02/27 10:17:53