え、何?こんなにおいしい物作るならパティシエになれって?僕が?冗談じゃない。僕はただ単に作りたいから作っているだけであってお客さんとかに出せる代物じゃないよ。それにほら、僕のアイアンディティーであるマフラーを外さないといけなくなるのだけは絶対にごめんだね。これは命の次に大切な物なんだ。
 パティシエを止めてる理由が知りたい?まぁ、話しても良いんだけど少しばかり長くなるよ。それでも良いなら。って、ミクには前話したんだと思うんだけどなぁ…。まぁ、いいや。リンちゃんいるし。


 そう、あれは僕がここへ来る少し前の頃。僕がまだ単純にパティシエになる夢を持っていた頃さ。僕の家には同居人がいてね。僕そっくりの姿をしたアカイトっていう人がいてね。まぁ、なんだ。彼はすごく辛党なんだ。僕?もちろん甘い物が好きだよ。リンちゃん、言っておくけど僕は甘党じゃないからね。甘い物が好きなだけだからね。…話逸れちゃった。とにかく彼と仲良くしていたわけでして。え?先が読めた?…まったくもってその通りだよミク。僕は彼と些細なことでケンカしちゃったんだ。彼は所謂激辛料理人になりたがっていたんだ。それである日。何だったかなぁ、何かの材料が足りなくなってそれを買いに行かないといけなくなったわけでして。車で飛ばしたのは良いんだけど帰りに事故に遭っちゃってね。見てみる?生々しいけど。

 そういって彼―カイトはコートで隠れている右腕を見せてくれた。義手だ。よっぽど酷い事故に遭ったのだろう。

 殆どこれのせいだよ。僕が夢を諦めてしまったのは。彼は無事なのかって?彼は確か運が良かったんだ。手に痣が残るだけだったような…。ごめん、覚えてない。ここ何年か会ってないし。でもあまり酷い怪我じゃなかったことは覚えているよ。…もうこの話は止めようか。リンちゃん真っ青だし。
 まぁ、とにかく。その一件のおかげだったのかな。ちょっとは仲直りできたんだけど。彼は出て行ってしまった。リハビリ施設に通う僕を残して。ん?今も少しは通っているよ。時々だけど。…そういえば。…あ、あったあった。これがその時の置き手紙。

 その手紙はくしゃくしゃで若干読みづらいがこう書かれている。
  すまない。オレの所為でこうなった。オレはちゃんと料理人になってお前の面倒までみれる男になって帰ってやる。
 最後の方は涙を流したのだろうか、水滴の跡がくっきりと残っている。あと少し辛い匂いもする。

 たったこれだけの文だったけど、僕はすごく嬉しかった。でも反対に悔しい思いもしたよ。これの所為で僕らは別れてしまったんだって思うと今でも悔しいよ。だから僕は彼としたある“約束”を守るんだ。え、ごめん。これだけは言えないんだ。ホントにごめんね。でもそれのおかげで僕はこれ(青いマフラー)を形見放さず持っているわけ。実はこれが“約束の証”なんだけど…。深く言うと夜になりそうだからここまでにしておくね。 またメイコさんや大家さんに怒られちゃうし。ほら、子供はもう寝る時間だよ。


 そう言われてカイトお兄ちゃんの家から弾き出されてしまった。…でもみかんアイスおいしかったからいいや。ミクお姉ちゃんと一緒に二階まで帰った。それからおやすみって言って自分の号室に入ると鏡張りの部屋の電気をつける。レンが映る。
『今日は遅かったね。』
 カイトお兄ちゃんの所にいたって言うとレンは意外な反応をした。
『アカイト兄のこと話したでしょ。』
 え、なんで知ってんのさ。
『だってあの人、“こっちの住人”だし。』
 それとどう関係あるのさ。
『リンに見つかる少し前に“青いそっくりさん”と話したって聞いたし。』
 …!カイトお兄ちゃんそんなこと一度も言ってないよ?!
『そっちのカイト…だっけ?は知らねぇんだろ。“ここ”があることとか。』
 なんか納得。だって“普通の人”は『鏡の裏側の世界』なんて知らないもの。知っているのはあたしとミクお姉ちゃん、あとルカさんぐらいしか思い当たらない。あ、そうそう。ルカさんの部屋にあの後連れて行ったのはミクお姉ちゃんだ。相変わらず節約生活してるのねって言いながら目的の部屋に連れて行ってたのは今でも覚えている。
 そういえば、“約束の証”って何?
『マフラーのことだろ。信じられねぇと思うけど前は“逆だった”んだ。』
 つまり、アカイトさんのマフラーが青で、カイトお兄ちゃんが赤ってことで良いんだよね。
『まぁ、そういうことだな。“そっち”から言うと。』
 “そっち”だってそうでしょ?って言うとくすくすと笑われた。なんかバカにされた気分。
『でもまぁ、そっちの奴そんなこと言ってたんだ。アカイト兄に言っとこ、後で。』
 なんでよ。
『こういうの罪悪感?って言うのか?がアカイト兄にあるんだよ。オレの所為で片割れが~って言ってたし。』
 ふぅん。そんなこと言ってたんだ。って、片割れ?!
『ほら、もう寝ろ。明日学校だろ?』
 い~だっ!レンが話すまで寝ませんよ~っだ!あ、何か鏡に書き込まれた。ね、眠い…。『おやすみ、リン。』
 電気付けっぱなしだけど…。あたしは眠気に勝てなくてそのまま寝てしまった。

 朝、起きたら何故か電気が消してあった。なんで?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

とあるボカロ荘の一日 カイトの過去編 【亜種約一名います】

ということで青いお兄さん編でした


まぁ、レンの話は追々書くと思いまする

閲覧数:85

投稿日:2010/08/07 16:28:17

文字数:2,164文字

カテゴリ:小説

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