キィーーン………

空港から飛び立つ飛行機の音がこの季節らしく聞こえる今日。


僕はうだるような暑さの中を、歩いていた。

この、擬似東京の街を。

「あっつ…」

暑い。暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い。

「こう…アイスとかがものすごく欲しくなるな」

「…ァ、アイス…」

隣で夜南榎(ヤナカ)がボソッと呟く。

「アイス。アイスアイスアイスアイスアイスアイスアイスアイスアイスアイス」

「ちょっ…静にしろっ!」

「ァ、AisU」

ヤバいな。夜南榎の意識が飛びそうになっている。
このままだと何時僕をアイスと見間違えて喰いついて来るか分からないな。
ここは一回コンビニでも見つけて立ち寄るか。

しかし、今年は暑い---。





ここは、擬似東京(ギジトウキョウ)。
東京であることには変わりはない。ただ、僕達が勝手にそう呼んでるだけ。

今日は7月2日、午前10時30分。
太陽の光が容赦なく降り注ぎ、アスファルトから上がる熱気で遠くの景色が歪んで見える。

「アイスッ♪アイスぅー♪」

今日は幼なじみと街に繰り出してきている。
さっきからアイス、アイスと僕の隣ではしゃいでいるのが、肩にかかるくらいの長さの髪に何処か眠そうな目が特徴の僕の幼なじみ、河村 夜南榎(カワムラ・ヤナカ)だ。

「分かった分かった。とりあえずコンビニかどこかでアイス、買おうか」

「…うんっ♪そうするー♪」

ふぅ。やっと静かになったな。まぁでも僕もアイス食べたかったし、ちょうどいい。
さっさとコンビニという冷房天国へ向かうとしよう。


それからしばらく、僕達は歩き続けてきた…はずだった。

「おかしい…まだコンビニが見つからないなんて。仮にもこの街で」

「アイスまだー?」

「大丈夫、きっともうすぐ見つかるさ」

大丈夫…そう言い続けてもう30分は経っただろうか。
あぁ、腹も減ってきたな。更にそれによる疲労を太陽光線が加速させる。

「今何時だ…?」

「…?10時33分みたいだゆ?………あれ?」

「はぃ?10時33分?…たった…?」

まだ3分しか経ってない…?

あぁ、暑さで時間の感覚まで麻痺してきたか。

「ほら、夜南榎。きっとあの角を曲がればコンビニが見える…かもしれない」

「…うん」

夜南榎はずっと下を向きながら歩いている。

さぁ、あとはこの道を進んで角を曲がるだけ。

きっとその先に、コンビニがっ!!


そして僕達は、角を曲がる---。












ドンッ
ズサーッ…

僕は角を曲がると同時に何者かにぶつかり、しりもちをついた。

「イテテ…な、誰だ?」

ぶつかったであろう相手を見るために顔を上げる。
そこには僕と同じ様にしりもちをついている、いつも後ろ髪がはねている友人の姿があった。

「あいたたた…って夜南榎達か。というか街に来てたのか。言ってくれれば家に呼んだのに」

「あっ、久しぶり、真乃(マナイ)君っ♪」

そう言って夜南榎が僕の後ろからピョコっと顔を出した。

「久しぶり、って昨日学校で会ってるだろっ」

そう言って真乃は夜南榎の頭に軽くチョップをいれた。

「あぃたっ」

夜南榎はチョップされた所に手を当てて真乃の事を見ていた。

「で、夜南榎達は何をしてたんだ?まさか、デーt…」

そんな事を言おうとしている真乃の言葉を遮り夜南榎が一言言った。

「アイスッッッ!!」

「???」

真乃が豆鉄砲を食らった鳩の様な顔をしてこっちを見ている。その顔は僕に助けを求めているのか?

「真乃。僕が悪かった。きちんと順を追って説明するよ」

そう言って僕は今日の午前中の今までの事を説明し始めた---。

説明が終わるまで約1分。
真乃は僕の説明をよそ見しながら聞いていた。

「…というわけで。分かったか?真乃」

「…ぁあ、だいたい分かったよ。要はお前が夜南榎と街に来ていたって事だろ?」

「それは今こうして僕が夜南榎と一緒に居るのを見れば分かるだろ?………お前、やっぱり聞いてなかったか」

僕がため息混じりに真乃に返事をする。

「だって暑いじゃん…他人の話を聞いてる余裕なんか無いよ…」

「まぁ分かるけど…ハァ、それにしても暑い。」

僕は空を見上げる。
雲一つない快晴。
照り付ける太陽。
奪われる体力。
駄々をこねはじめる夜南榎。


「なぁ、コンビニ行こうぜ?」

真乃がそう提案してくる。

「あぁ、そうしてた所だ。お前はコンビニが何処に在るか分かるか?」

「さっきここに来る途中立ち寄って来たから分かる。よし、行くか」


「案内頼むよ」

「やっとアイスに会えるのね!?やったぁ♪」

夜南榎はやっとアイスが食べれる事がかなり嬉しいみたいだ。
ふぅ。やっとこれでコンビニに行けるのか…。

そこでふと、さっきの疑問を思い出す。

「…ところで真乃。今何時だ?」

「今…?えっと、10時59分…ちょうど今11時になった」























ピンポーン…

コンビニの入店と同時に聞き慣れた音が店内に流れる。
それと同時に冷たい冷気が、僕達を包んだ。

「いらっしゃいませ~」

店に入った僕達に向かって店員がお決まりの挨拶をする。

さて、アイス売場はっと…。

「何っ!?」

「どうしたのっ?」

いきなり驚愕の声をあげる僕。それを聞き付けて駆け寄ってきた夜南榎。
予想はしていた。これだけ暑ければこんな事態、起こってもしょうがない。

「アイスが、売り切れだ。」

「えぇっ!?」

その瞬間、隣で夜南榎がヘロヘロと弱々しく崩れ墜ちた。

「どうする夜南榎。近くのコンビニでもここから2Kmか3Kmはあるぞ。」

僕達の傍に来た真乃が言った。
前に来た時はもっと近距離間隔でコンビニが建っていた気がする。
ここ数年の不況の影響で潰れたんだろう。

………?おっ?

「…夜南榎、アイス一個あるぞ?」

「ホントっ!?」

僕からは見えづらかったが、アイスボックスの中にある仕切り板の後ろに確かにアイスが一個、残っていた。


「あぁホントだ。ほら」

僕はアイスをボックスから取り出す。
…ピザ味?(照り焼きロースト風味)

「あ、それ前に食べたことあるー☆結構美味しいんだよ♪」

「えぇっ!?これが!?このピザ味(照り焼きロースト風味)のアイスが!?」

「うんっ♪」

思わず聞き返してしまった。というかそれではまだこの驚きを表現しきれていない気がする…のは僕だけか?
しかし味が気になる。いったいピザ味(照り焼きロースト風味)ってどんな味がするんだろう。
きっとピザ味(照り焼きロースト風味)の味がするんだろう。

「…あ、食べたいの?だったらあげるよ♪この味の素晴らしさに気づいてほしいから♪」

たぶん僕の舌ではその素晴らしさに気づけないだろう。
確かに食べてみたいというの気持ちもある。
だけどここは答えは決まっている。

「夜南榎にやるよ」

「えっ?いいの?本当にいいの?」

「あぁ、夜南榎が食べたいんだろ?だったら食べていいよ。その代わり、貸し一つな?」

「えー」

夜南榎は頬を膨らませてみせた。

「じゃあ…」

そう僕は小さく呟いた。

「じゃあ?」

夜南榎が僕の言った事を真似する。

「じゃあ、あとでそのアイスの味の感想を教えてくれ。それで貸し借り無しだ」

夜南榎の頬から空気が抜け、その顔が笑顔になった。

「うんっ!!ちゃんと感想教えるよ!」

「出来るだけ詳しく、な?」

「りょうかーい☆じゃあ買ってくるね♪」

そう言って夜南榎はレジに向かった。

「お前、殺したいほど妬ましい。特に理由は無いけど」

夜南榎がレジに走り出すのと同時に真乃が僕にそう言ってきた。

「理由が無いなら妬むなよ」

「まぁまぁ、本人が気づいていないだけで恨みを買うことなんて以外と多いからさ。俺はそれを教えようとしただけさっ」

「何のことだかさっぱりだ」

僕はそんなことを真乃と話しながら、このあとどうするかをボンヤリと考えていた。

「…『街空室』(マチアイシツ)に行くか…どうする、真乃?」

僕はそう提案してみた。

「あー、俺もそうしよっかな。暇だったし。夜南榎も呼ぶんだろ?」

「そのつもりだ」

「じゃあ決まりだな。このあとは街空室で」

僕と真乃でそう予定が決まりつつあるとき、ちょうど夜南榎も戻ってきた。

「お待たせ」

「あぁ。このあと街空室に行くけど、夜南榎も来るだろ?」

「あ、街空室?行くいくっ!」

僕の質問に夜南榎は即答した。
やっぱり、いつものメンバーが揃ったな。

「じゃあ行くか」


「うんっ♪」

元気の良い夜南榎の返事。

「あぁ、行こうか」

少し疲れたような真乃の返事。


ピンポーン…

「ありがとうございましたー」


もわっ とした熱気が、コンビニから出た瞬間、僕達を包んだ。一気に夢から現実に引き戻された気分だ。

「あっつぅ…」

真乃はもうすでに弱音を吐いていた。こいつには我慢という単語が一番似合わないな。

「ア・イ・スっ!ア・イ・スっ!」

「さっそく食べるのか。……見た目はオレンジ味みたいな綺麗なオレンジ色か」

夜南榎がアイスを袋から取り出した。
色は綺麗なオレンジ色だが、うっすらとピザの匂いが漂ってきた。

「うわっ、ホントにピザの匂いがするっ」

真乃がそう言いながらアイスを眺める。

「えへへー♪」

何故そこで夜南榎が照れるんだ。

さて、ここから街空室までは歩かなくちゃいけない。

「飲み物を買っとくべきだったか…」

コンビニをでて50mくらいの所でそう思った。

「どうしたの~?」

「早く来いよー」

「???」

気がつくと僕は歩くのを止めて、立ち止まっていた。30mくらい先に二人がこっちを向いて立っている。

「どうしたの~?早く来てよ、キアラぁ~♪」

「そうだぞ、早く来い輝雲(キアラ)」

「分かったからその名前を大声で呼ぶなっ!!」

僕は二人に向かって走り出した。






「ハァ…ハァッ…」

やっと二人に追いついて、膝に手を置いて休んでいると、二人が話しかけてきた。

「キアラ速ーい♪すごいね~」

「あれ?輝雲お前走るの遅くなってないか?」

せめて二人で言うことだけは統一してくれないか?
僕が困るじゃないか。

「たぶん前と変わってないから」

僕は歩きながら、今まさに水を欲するノドを使い答える。ノド、痛いなあ。

「あ、そうだ、アイスの感想まだ言ってなかったね?ではでは今から夜南榎さんこと私による演説を始めたいと思いますっ」

そう言って夜南榎が僕達の前へでた。

「えー、まず口に入れると濃厚な肉の味わいを閉じ込めた様な奥の深い味わいが口の中に広まって、それからデミグラスソースを思い出させる独特の風味が口の中いっぱいに…」

「ぐぺぁっ」

くっ、このタイミングでその話をされては僕の口内の砂漠化が急速に進むじゃないか!!

「それでー……焼かれた野菜が……旨味を…であるから…」

今はなるべく聞かないようにしていても話し声が耳に聴こえてくるっ…!

あー、僕は街空室に無事に辿り着けるだろうか。


それから僕は多くの試練を乗り越え、街空室まであと1kmくらいのところまできていた。

「ハァ…の、乗り切った、のか…?」

「はい、ご静聴ありがとうございましたー♪」

「勝った…!!」

僕は両手をあげてガッツポーズをとった。

「?何に勝ったの?」

夜南榎が鋭い質問をしてくる。なんというか、良心が痛む。

「…僕の中の悪魔…いや、天使かもしれない」

「そうなんだ~」

歩きながらのアイス演説会を全て聴ききった僕は、ぶっちゃけかなり疲れていた。

「街空室はあと1kmくらいか?」

真乃が質問してくる。

「たぶんな」

適当に返事を返す僕。
それから真乃は黙ってしまった。
当然と言えば当然だ。こんなにも暑いんだから。

「今日は街空室で何しようか?」

僕が唐突に質問してみる。

「たぶん、またぐだぐだと過ごして終わりじゃね?それかまた『ノイズ探し』とか」

真乃がそう答える。

「あーなるほど、その手があったか」

「「………」」

会話が長続きしない。

それにしても『ノイズ探し』なんてちょっと久しぶりかもしれない。

「よし、そうと決まればさっさと街空室に行こうかっ!」

「おぉー♪」

真乃が元気よく喋る。
そしてそれに夜南榎も調子を合わせてきた。



このままの調子で歩けば街空室まではあっという間かな。


僕はそう考えながら、街空室までの道のりを歩いた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Eternal Noise COUNT.00-偽世界の始まりのプロバビリティ

こう、なんとなく書きためていたものの、一部。

もし載っけていけるようだったらもう少し載せてみようかなぁ、なんて。。。

舞台は東京(?)です。

閲覧数:88

投稿日:2011/04/30 03:18:27

文字数:5,264文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました