朝の通勤ラッシュの光景はいつ見ても悲惨なものである。将来の安定のために会社に、学校
に、それぞれの職場に向かう人、あるいは単に遊びに向かう人。とにかくそういう諸々の事情
を抱えた他人達が押し合いへし合いしながらぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られるのだ。夏場の
車内なんかはもはや生き地獄といえるだろう。
 しかし、世の中にはそんなことを考えず、常人とは違う発想の持ち主というのがいる。
「いやー、今日は大収穫だったぜ。」
 たった今満員電車から降りてきた少年は、そんな意味不明な発言をした。
「一正……俺にもその馬鹿な頭分けてくれないか?どうしたらこのすし詰め状態の電車から降
りてそんな満足そうにしてられるんだ。」
 至極真っ当な発言である。だが、一正といわれた少年は
「わっはっは、そんなに褒めんなって。そんなことよりさ、今日はなかなかの巨乳ちゃんがす
ぐ横にいてさ……」
 と、皮肉にも気づかずに本日の「収穫」について猛烈に語りだした。
 彼の名前は久賀原一正。こんな頭の悪い発言をしているが、”国家保安官養成学園”という
名門エリート校に通う生徒である。ちなみに学園の名前は長いのでだいたい”保安学園”と略
して呼ばれている。
 そして、彼の横でひたすらエロトークを呆れ顔で受け流しているのは會澤零次。一正と同じ
保安学園に通う生徒で、メガネの知的さの似合う落ち着いた雰囲気の青年である。のだが、何
の因果か、一正とは家がそこそこ近くて小学校のときからの腐れ縁で現在もこうして一緒に登
校したりとよくつるんでいる。
「……でさ、その時いつもの鋭いカーブでその娘が俺の方によろけて」
「分かったから、とりあえず声をもう少し小さくしてくれ。横にいるのが恥ずかしい。」
「んだよー、つれないな。お前だって男だろ?なんでこの興奮が伝わらないかな。」
「あいにく、僕はあんな生き地獄で興奮するほど飢えていないんでね。」
 そう、零次はその大人びた空気と知的さで、クラスを問わず学年中の女子から人気があり、当然のごとく彼女もいる。(その彼女がまた可愛い子だから絵になるというものだ。)
「飢えてなくとも腹いっぱいってことはないだろ?可愛い女の子はどれだけ多く見ても幸せに
なれるじゃないか。」
「人類みんながそんな考え方なら世界は平和になりそうだな。」
 と、そんな感じで2人がいつもの他愛のない会話をしながらいつも通る道に出て歩いていると
「きゃーーー!ひったくりよ!!」
 という悲鳴が路地の奥から聞こえてきた。
「ひったくりだってさ。行くぜ、零次!」
「言われなくとも!」
 言うが早いか、2人とも悲鳴の方向へと駆け出した。
 狭い路地の先に20代くらいの女性がしりもちを着いたような感じで転んでおり、その先にひったくり犯と思われる男が走っていくのが見えた。
 一正は女性に手を差し伸べ、立ち上がるのを手伝った。
「大丈夫ですか、お姉さん。でもこの俺が来たからには必ず犯人を捕まえてみせますよ。」
「いいから早くひったくりを追っかけて!」
「一正!さっさと来い!」
「……」
 2人から言われてちょっとしょんぼりしつつ一正も走って零次に追いつき追跡を再開する。
「おい、ひったくり野郎!おとなしく逃げるのやめて捕まっちまえ!俺らの脚力なめんなよ?」
「今ならまだ謝れば許してあげますよ?」
 それを聞いても犯人は逃げるのをやめず、そのままどんどん狭い路地へと入っていった。
「なんだあいつ?道知らないのか?これじゃどんどん追い詰められてくだけじゃねーか。」
「確かに。こういう場合考えられるのは2つ。1つはお前の言うとおり道が分からないただの馬鹿。だがもしそうでないとしたら……」
 と零次が言いかけたとき、犯人が急に足を止めた。行き止まりにぶつかって進めなくなったのだ。
「へへっ、言わんこっちゃ無い。さーて、大人しく捕まってもらおうか。」
 しかしそこで犯人はにやっと笑い、
「めんどくさいガキどもめ、こいつを出す気は無かったが仕方ねぇ。」
と言って、ポケットから何かのスイッチを出した。
「!?」
 2人はとっさに脇に転がり込んだ。その瞬間、犯人がスイッチを押し、横にあった壁が吹き飛んだ。
 その向こうには5mほどの大きさの人型のロボがおり、犯人はその胸部のコクピットに乗り込んだ。
「スタンドロイドか……やっかいなやつだ」
 スタンドロイド。通称「SR」とは、現代の世界において最早生活に欠かすことのできないロボットの総称である。日常の家事手伝いのロボットから軍事用兵器まで、様々な場面でSRは活躍している。そのため、比較的簡単にパーツなどが手に入り、こうして犯罪者に悪用されることも多くある。
「ったく、ちょっと走って捕まえて懲らしめてやってお姉さんに感謝されてうはうはってつもりだったのに」
「最後のほうは余計だが、ホント、めんどうなことしてくれる。おい、一正。」
「分かってるって。」
 そう言って一正は腕時計のような携帯端末”リンカー”を操作してコールする。
「……使用目的をどうぞ。」
 聞き慣れたナウンスの声。この声を聞くたびこの美声の持ち主は誰なのかと軽く妄想してしまう。
「ひったくり犯の確保。犯人もSRに乗っている。」
「了解しました。位置確認。シールド有効時間は」
「5秒だろ?わかってるって!」
 そういって通話を切るとすぐに目の前に光の粒子が集いだす。腕、足、胴体、頭と次々にパーツを形成し、ややあってそこに一機のSRが出現する。白を基調としたカラーに無機質な流線型のボディ。一正のカスタマイズSR”ガリレイ”だ。
 出現してすぐ、一正は走り出す。
「乗らせるか!!」
 と叫び、犯人がSRのハンドガンを放ってきた。だが、一正はすばやくそれをよけてガリレイの背部に回り、器用に飛び乗って搭乗する。当然そのまま敵はガリレイを攻撃するが、最新鋭の対物バリアの有効時間内ではダメージを与えることもできない。
「さーて、SR戦なら負けねーぜ!!」
 システム起動を終え、コントロールレバーを握る。
「一正、敵の兵装はあのハンドガンのみのようだ。楽勝でいけるな?」
「余裕だっつーの!」
 零次からの通信を聞きつつ敵に向けて突っ込む。しかし、敵の反応もなかなかのもので最初の突進はかわされる。
「へー、意外と動けるじゃねーか。んじゃ、どんどんいくぜ!」
 そう言って一正は続けざまに突進するが、敵は背を向けて逃げの体制に入った。
「けっ、勝負なんかしてられるか。逃げさせてもらうぜ。」
「こんにゃろう、逃がすか!」
 敵はそのまま爆破したのとは反対の壁を突き破り、再び路地を逃げ出した。一正もガリレイでその後を追う。時折振り返って撃ってはくるが、巧みにそれを避けて徐々に距離をつめていく。そして、
「今だぁぁぁ!!」
 と叫び、ガリレイを斜めに飛ばせて壁をけって犯人に体当たりをかます。今度は犯人も避けられず、まともに食らって壁にたたきつけられた。
「くっそう、こんなはずじゃなかったのに。」
「俺に見つかったのが運のつきだな。」
「一正……なんかその台詞雑魚敵っぽいぞ……」

 犯人を確保して警察に引き渡した後、被害者の女性に盗まれたカバンを渡しに行った。
「ありがとうございます! この中には大切な書類が入ってて。」
「いやーお安い御用ですよ。お礼はちゅーしてくれるぐらいでいいんですって。え?家に来てほしい?いやでも俺学生だしなー。でもどうしてもって言うなら今からでも……」
「はいはい、べらべらしゃべんのはそこまで。流石に引いてるから。」
 ドン引きしてた。いつの間にか白い目で見られてる。
「ったく調子に乗ってエロ精神出さなきゃもう少し感謝されるだろうに。ほら行くぞ。お姉さんも、大事なカバンは盗られないように気をつけてくださいね。盗まれたときはいつでも取り返してあげますけど。」
「あ、はい! あの、本当にありがとうございました!」
 そういって女性は熱い視線を零次に送ってから通りへと走っていった。
「あーあ、結局お前ばっかいい目見やがって。うらやましいやつだぜ。」
「……お前も結構いいポジションにいると俺は思ってるんだけどな。」
「え?なんの話だ?うわっ! んなことより時間やべーじゃん! 遅刻しちまう!」
「本当だ! 遅刻してまた校庭走らされるなんてごめんだぞ。」
「人助けしてましたって言ったら見逃してくんないかな?」
「駄目だろう。やつにそんな言い訳が通用するとは思えん。」
 生徒指導の石山はとても厳しいことで有名だった。
「とにかく急ごうぜ! 走れば間に合う!」
そう言って2人は今日も国家保安官を目指して駆け出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【超短編】久賀原一正の日常【試し】

初めて書こうと思っている小説の主人公を主役にした短編です。
まあキャラはこんな感じかなっていうのと作文練習のつもりで書きました。表現がおかしいと思ったらコメントください。

閲覧数:55

投稿日:2011/09/11 05:52:47

文字数:3,585文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました