君はただ指で何かを操っていた。
そこにある、空想の、非現実の何かを操っていた。

だから、私は言ってやったんだ。

「夢の消えた毎日を繰り返していたって意味などないよ」

って。

「なんで私の世界に夢がないだなんて言えるの?」

君は非現実が好きだった。顔も声もない人とつながっている、そんな何かを感じていたらしい。

「じゃあ、君は『非現実を愛してます』だなんて言える?」

だって、君は指ではそうかもしれないけど、実際に口からは何も言ってないもんね。



≪人造エネミー【自己解釈】≫



そんな、何かを感じていたってそれは相思相愛じゃないよ。君はそう思っていたかもしれないさ。けれど相手はそう思っていたのかな?

そんなことを続けて君は一日を過ごしていった。私は何も言わないけど心配していたんだよ。生きたようなフリをして、眠る君を、眺めて辛かったんだ。

だから。だから。

決めたんだ。

君がいなくなってから。

私は決めたんだ。

「ああ、つまらないな」と世界に目を背けたとしても、目隠ししたとしても。

閉じることだなんて、私には出来ない。そんなことは解っているさ。

けど認めたくない。だから画面の奥にいる、プログラム通りに動く『私』を厭らしい顔で見つめていた。

開発は成功した。けど、これを見て君はどう思うんだろう?

最善策じゃないことは、きっと君も知っているはずだ。

だけど萎んだ暗い毎日に溺れていた君は、嘘じゃない現実が解らないままだった。

なら、

一緒に人が造りだした、箱庭かもしれない。

けれど、そんな世界で生きるのも、いいんじゃないかな?

だって、だってさ。

君を否定する場所だなんて、いる意味が無いじゃない。

もう全てスイッチを切ってしまいたい。

私だけを見て欲しい。





――



「ああ。実験は成功した。
 博士の開発した装置のおかげですよ。
 ……ただ、8月14日と15日にバグが生じたのは居た堪れないですがね」

「そうですか」私は静かにそう呟いた。

あれから、何年か経っただろうか。

私は気づくと政府だかなんだかは解らないが、そういう組織に雇われることとなった。私の研究がそんなに素晴らしいものらしい。

私が虚ろな目で見ると、誰かが走り出してきた。

私が作り出したニンゲン。私が彼女そっくりなデータ媒体から造りあげたモノ。

そして、私は遠くにいた研究員に声をかけられ、

「ああ。実験は成功だ。撤退の準備を整えてくれ」

私はその言葉しか言うことができなかった。

また、救うことができなかったのだ。

例え、モノであろうとも、機械であろうとも、救いたかったこの箱庭を。

私はただ、喋るだけだったんだ。

この計画を始めてから、私はパソコンにも触れたのは殆どない。だって、私の理論をもとに仮想箱庭を作り上げてしまったのだから。

私は小さく裾にあるマイクに、

「ごめんね」

と呟いた。

「こんなの全然わかんないよ!!」

叫んだ彼女に私は、

「……喋るだけの玩具はもう、飽きたんだ……」

と言った。






そして――世界は再び暗転した。





何度目になるだろう。

8月14日が、始まる。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

人造エネミー【自己解釈】

本家様;http://www.nicovideo.jp/watch/sm13628080

今更ながらかかせていただきました。

閲覧数:7,488

投稿日:2012/04/01 19:14:32

文字数:1,356文字

カテゴリ:小説

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