UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」

 その12「小隊vsタイプN(その2)」

 突然、また、モモが叫んだ。
「止まって! トラップです」
 全員が前のめりになりながら、急ブレーキをかけた。
 しかし、目の前は砂漠しか映らなかった。
「どこ?」
「目の前です。幅100メートルのクレバスが左右に広がっています、10キロ以上?。深さは、…」
「どうした、モモ?」
「測定、できません」
「センサーが妨害されてるの?」
「ユフさん、違います。最低でも10キロ以上…。とにかく深すぎて、信号が返ってこないんです」
「ウソ」
「マントルまで達しているのか? いくらなんでも…」
 テトが一歩前に踏み出した時、またもモモが叫んだ。
「テトさん、伏せて!」
 振り返りかけたテトを、小隊長が引きずり倒した。
「テト、たつなよ」
 足をとられたテトは、顔から砂のなかに倒れ込んだ。
「デフォ子!」
 すぐに起き上がったテトは、小隊長をにらみ付けた。
 テトは次の言葉をうまく続けられなかった。
 全員のテトに送る視線が微妙な感情を混ぜ合わせたような色をしていたからだった。
「な、なに?」
 空気を察して、テトは全員の表情を読み取ろうとした。
「テト、異常はないか?」
という小隊長の表情は相変わらず読めなかった。
「ああ」
「ホントに?」
 サラには同情の色が浮かんでいた。
 ユフと視線を合わせると、ユフの方が視線を反らした。
「テトさん、落ち着いて、聞いて下さいね」
 モモの優しい口調が、テトの身にとんでもないことが起きたことを表していた。
「え」
 テトの顔色が薄くなった。
「左のドリルがなくなってます」
 モモの言葉通り、左側頭部に手を当てると、あるはずのものがなかった。
「えーーーっ!」
 口をパクパクとさせていたテトはガックリとうなだれ、膝をついた。
 そこに、小隊長がそっと、鏡を差し出した。
 鏡を見て、テトは言葉にできない叫び声を上げた。
「意地悪ですね」
 モモが苦言を呈すると、小隊長は悪びれることなく言い放った。
「真実を隠すことはできない。どんな辛いことでも、現実から目を背けてはいけない」
 その後で、小隊長は満足げな笑みを浮かべた。
 テトは一通り身悶えしたあと、スッと立ち上がって叫んだ。
「ボクの命の次に大事な髪を切ったヤツ! 出てこーい!」
 そのテトの足をまたしても小隊長が引っ張ってテトを倒した。
「だから、さっきから、立つな、と何度も」
「な」
 何かを言いかけたテトの鼻先を細い糸のような光が通りすぎた。
「え?」
 反射的にテトは頭を下げた。
 幾筋もの光の糸がテトのいた空間を通りすぎた。
「どこから?!」
「もちろん、地面の中から」
 テトは恐る恐るライフルを垂直に伸ばした。
 ライフルの先端が地上から1メートル30センチぐらいのところで、光が横に走った。
 鋭利なナイフで切り取られたように、ライフルの先端が欠けた。
「おー、これはキレイだ」
 小隊長は破片の切り口を見て、その破片を高く放り投げた。
 地面から伸びる何本もの光が破片を捕らえて、破片を細かく切り刻んでいった。
 少し考えて小隊長はサラに指示を出した。
「幅10メートルの絨毯を100メートルの長さで作れるか?」
「え、まあ、できるよ。と言っても、伸ばすだけだけど」
「それをクレバスの向こうまで渡してくれ」
「いや、私もクレバスがわからない」
 小隊長はモモを振り返った。
「モモ、投影装置の位置は? テトに教えてやってくれ」
「はい」
 モモが手招きした。
 四つん這いになって近づいたテトに、モモは耳打ちした。
 テトは一度だけ頷き、片膝をついてライフルを構えた。
 その時爆発音がして、テト以外が振り返った。
 戦車二台が炎に包まれていた。
「あまり時間稼ぎにはならなかったな」
 テトが引き金を三回引いた。
 どこか遠くで硝子が割れるような音がした。
 ユフが小さく叫んだ。
「うわ」
 目の前の景色が一変した。
 砂漠は溶けるように消え、深い谷が現れた。
 ドンと遠くで音がして、テトのすぐ側の地面が爆発した。
 テトは動じなかったが、思い切り砂をかぶった。
 数台の戦車が近づきつつあった。
「サラ、絨毯を広げてくれ」
「え、支えもないのに?」
「ユフ、アイスピラーで、絨毯を支えてくれ」
 小隊長はテトの肩を軽く叩いた。
「残りの弾数も少ないだろうが、絨毯を攻撃する自動砲台を叩いてくれ。わたしはモモと可能な限り戦車を食い止める」
 そう言い残して小隊長はモモに向き直った。
「あきらめないねぇ」
 サラは小隊長の前向きな姿勢に感心した。
 テトは地面にうつぶせになると、匍匐前進で崖の端まで進んだ。
 ユフが声をかけた。
「テトさん、いきますよ」
「おう、やってくれ」
 ユフはテトの背後でうつぶせになると、両手を砂の中に突き差した。
 テトの目の前、崖の中から氷でできた柱が二本、水平に伸び始めた。
 反対の崖の中から光るものが現れた。それはちかっと輝くと、氷の柱の先端を破壊した。
 同時に、テトのライフルでそれは打ち砕かれた。
 何度か氷の柱が壊され、同じ数だけテトが砲台を撃ち抜いた。
 そして、氷の柱が反対の崖に突き刺さった。
「サラ、頼む!」
「あいよ!」
 サラは自分の触手をゴムのように伸ばし、薄い膜を作り出した。
 その膜は何層にも重なって一種のカーペットとなり、氷の柱の上を走った。
 テトは後ろを振り向いた。
 小隊長とモモは、ライフルで戦車のキャタピラーを破壊して、一両ずつ動けなくしていた。
「デフォ子! できたぞ!」
 声を掛けられて、二人が振り向いた。
「モモ、先に行ってくれ。それから…」
 小隊長はモモに耳打ちした。
 モモがユフとサラに何かを耳打ちし、テトの方へ駆け出した。
 小隊長はまたしても動かなくなった戦車に向かっていった。
 地面が大きく揺れた。
「地震?」
 地鳴りのような音は、そのあとからきた。まるで、地の底から何かが這い上がってくるような音だった。
 テトは恐る恐るクレバスの中を覗き込んだ。
 鈍い赤みがかった高温のドロドロしたものが下の方からせり上がってきていた。
「溶岩だ。溶岩が上がってくる! デフォ子、モモ、急げ!」
 小隊長は戦車から降りて駆け出した。
 モモはユフとサラに何かを伝えるとテトに向かって駆け出した。
「サラ、ユフ、あんたたちも、立って…」
 言いかけたテトは、首を横に振るユフを見て、言葉が出なくなった。
 テトの横を小隊長とモモが駆け抜けていった。
「テトさん、行って」
 ユフはいつもの優しい笑顔を浮かべていた。
「テト、頑張れよ。また、いつか、会おう」
 サラは軽く手を上げた。
 テトもそれに応え、手を振った。
「じゃ、また、いつか…」
 テトは、クレバスに架かった橋を駆け出した。
 ユフとサラがその場を動けば、橋そのものが無くなってしまう。そのことを理解したテトは、駆け出すしかなかった。
 テトは橋を渡りきってから振り向いた。
 せり上がってくる溶岩が橋を溶かしていた。
 さらに溶岩はクレバスから溢れ出し、ユフとサラのいる方へ流れ出した。
 ユフとサラはどこかへ走り去って、先ほどの場所にはいなかった。
「テト、装備を確認」
 小隊長の言葉がテトには遠くに聞こえた。
「モモ、タイプNまでの距離は?」
「およそ3000」
「よし。一気にタイプNに迫るぞ。テト、先頭を走って、盾で可能な限り攻撃を防いでくれ」
「なあ、デフォ子…」
「作戦中は小隊長だ」
「本当に、また、会えるのかなぁ…」
「何、言ってる? それに作戦中は小隊長だ」
「もう、世界中のどこを探しても、基地はないんだよ?」
「だから、なんだ? たとえ一人になっても、基地が厚い岩盤の下になっても、わたしは『U』を再建するぞ」
 テトは小隊長の強い視線を正面から受け止めた。
「わかった。協力するよ」
 テトは背中の盾を手に持って構えた。
「よし、走れ」
 小隊長はぽんとテトの背中を押し出した。
 テトが駆け出した。
 小隊長が駆け出した。
 モモも、駆け出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

UV-WARS・テト編#012「小隊vsタイプN(その2)」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「重音テト」の物語。

 他に、「初音ミク」「紫苑ヨワ」「歌幡メイジ」の物語があります。

 最近、「ボカロP」の物語も書き始めました。

閲覧数:31

投稿日:2018/01/25 12:46:24

文字数:3,395文字

カテゴリ:小説

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