※主人公(語り部)は自作マスター
※見方によってはマスター×マスター
※英文は適当

 以上を踏まえてどうぞ。




――I sing your love 8


「――ん。いいんじゃねーの」
「ホントに!?」
 数日間作り込んでいったオケに、ようやく日和田のOKが出た。
「良かったぁ……ありがとう、日和田。すっごく助かった」
「…つっても、あんまり何もしてやれなかったけどな」
「そんなことないってばっ」
 また拗ねたような顔をする日和田の肩をばしばし叩いてやった。確かに作業はほとんど私がしたけれど、日和田には沢山アドバイスを貰ったのだ。ギターパートの完成度の高さは紛れもない日和田のお陰だ。
「…ところでさ。曲はいいけど……歌詞どうすんだ?これ」
 その質問は予想済み。にこりと笑って答える。
「へへ、実はもう出来てるんだよね、歌詞」
「マジで?」
 きらりと日和田の目が輝いた気がした。――今ここで私に唄えとか言い出しかねないな、これは。先に言っておかなければ。
「完成するまでは内緒だけどね」
「なんでだよ」
 途端につまらなさそうな顔をされた。まあ、仕方ない。
「見せちゃうと、ウチのボーカロイドが誰だか分かっちゃうかもしれないし。出来てからのお楽しみってことで」
 ミリアムの為のものだから、もちろん歌詞は全て英語。こればかりは流石にバレそうだったので、完全に私一人での作業。
「…まあ、いいけど」
 しぶしぶ、といった様子だったけど、とりあえずは引き下がってくれた日和田にもう一度お礼を言って、私は家へと――ミリアムの元へと急いだ。


    ◇


 パソコンを立ち上げる。ほんの少しだけ躊躇ってから――私は、久し振りにミリアムを呼び出した。
 画面上に、――泣くのを我慢しているような仏頂面、とでも言えばいいのか――なんとも微妙な表情のミリアムが現れる。視線は、私には向けられない。
「……Hi,Master」
「…久し振り、ミリアム」
 ぎこちなく、私達は挨拶を交わす。
 もう仲直りしたいのに。妙な意地と惰性でずるずるとお互いを避ける日々を続けすぎた。でも――まだ、手遅れじゃないはずだ。

「――ごめん、ミリアム。あんなこと言って、本当に、ごめん」

 目を逸らさずに、そう、謝って。
 私はミリアムに、後は彼女の声を入れるのみとなったあの歌を渡す。
「…この歌、唄ってほしいんだ」
「……」
 ミリアムは無言。でもその視線がしっかりと楽譜をなぞっている。
「日和田にも手伝ってもらったけど……私が、ミリアムに唄ってほしくて、作った歌なんだ。――ミリアムじゃなきゃ、駄目なの」


 いつかミリアムは、自分は自分の歌で愛を伝えると言った。
 だから、そんな彼女に――この、私の想いを。


 お願いします、と、私は画面に向かって頭を下げた。
「………」
 長いような短いような数秒の沈黙が流れて。


「――OK,with pleasre.」


 あの時と同じ台詞で。あの時と同じような綺麗な笑顔で。
 ミリアムは、頷いてくれた。
 そして、
「I am your VOCALOID――so,I sing your love,Misora」

 私は貴女のボーカロイドだから。
 貴女の愛を唄うわ、美空。

 歌詞を読み終えた彼女は、楽しそうに、そう付け加えた。


    ◇


 ミリアムの調声が終了した翌日。
 放課後、私は部室へ向かおうとした日和田を引きとめた。それだけで日和田は理由を察してくれたらしく、特に何も言わずに教室に留まってくれた。
「お陰様で、無事完成しました」
「それはそれは、お疲れ様でした」
 わざと堅苦しい挨拶を交わして、同時にぷっと吹き出す。
「約束。真っ先に聴いてもらうって言ったもんね」
「おー」
 完成した歌を入れた携帯オーディオプレイヤーを、日和田に渡す。
「ま、何はともあれ――聴いて下さい」

 ――私達の、愛を。……なんちゃって。

 近くの椅子を勝手に借りた日和田が再生ボタンを押す。私は座らずに、日和田の横でうろうろと視線を彷徨わせた。(落ち着かないのだ。なんせ私は今日和田がどこを聴いているのかはっきりとわからないのだから)
 しかし――やはり、身体はタイミングを覚えているものらしい。
「……!!」
 私の感覚が正しければ、それはイントロが終わって、ミリアムが唄い出す瞬間。
 リズムを取りながら聴いていた日和田が、その動きをぴたりと止めて――そして、驚いたように私を見た。
「宍戸、これ」
「いいから、最後まで聴いて」
 短く、ほとんど口の動きだけで言う。日和田は渋々と言った様子で、再び聴く方に集中しだした。


 私にとっては酷く長かった数分間の後、日和田はイヤホンを外して、そして口を開いた。
「――お前だったんだな」
 何が、なんて、わかりきったことは訊かない。私は頷いた。
「そ。あの歌のカバーは、私達」
「……なんで、言ってくれなかったんだよ」
「…言いそびれた。だって――だっ、て。あんたが、“どこの誰かはわかんないけど”なんて…嬉しそうに、言うから」
 それが私だったらがっかりするんじゃないかって。
 そう言った私の声は――思ったより、震えていた。
 思わず俯いて目を逸らす。日和田が近付いてくる気配がして――
「……ばーか」
「へっ」
 ――頭に、掌を乗せられた。撫でられた気がしたのはほんの一瞬。すぐにぐっと押さえつけられる。
「ちょ、ま、日和田っ!?」
「がっかりなんかするかっての」
「え?……本当に?」
 頭を押さえつけられたまま、目だけを動かして日和田を見る。目が合った日和田は笑顔で――ついでにまだ手が頭に置かれっぱなしなのもあって――思わず、どきりと胸が鳴る。
 ……次の瞬間には手は離れていたけど。
 でもなんとなく上目遣いのままで、日和田の言葉の続きを聴く。
「歌詞、英語にしてまでカバーしてくれたってことは――あの歌、気に入ってくれた…って、思っていいんだよな?」
「…うん」
「だから。がっかりどころか、むしろすっげえ嬉しい」

 それ、は。
 “私に気に入ってもらえて嬉しい”のだ、と――自惚れて、いいのだろうか。

「…えっ、と。あ、あのさっ」
 いけないいけない。咄嗟に言葉を探して、そして、そう言えばちょっと訊きたいことがあったのだと思い出した。
「あの歌詞……結構、勝手な解釈で意訳しちゃったとこもあるんだけど……大丈夫、だった?」
「……あー、それ、な」
 決まり悪そうに目を逸らされた。なにかまずい訳をしてしまっただろうか。
「…実は、解んなかったんだよな」
「……“解んなかった”?」
 聞き返すと、日和田は数秒間視線を泳がせて、そして、
「英語ダメなんだ、俺」
 ぼそりと、そう言った。
「訳が合ってる合ってない以前に、単語読むので精一杯」
「…じゃあ」
「……悪い、お前のこの歌も、正直歌詞の意味は解らん」
 というか聞き取るのもやっとだった、と、真面目な顔で言う日和田に、
「……ぷっ」
 思わず、吹き出してしまった。
「笑うな!学年一ケタのお前と一緒にすんな!」
「ごめっ、いや、うん、ごめん」
 そうか――じゃあ、尚更伝わらないか。
「で、あの歌詞ってどーゆー意味なんだ?」
「え。……えっと」


――ストレートには言えないの。
  ただ“月が綺麗ね”って言うのが精一杯。


 言い換えれば――辿り着くのは、たった三単語のシンプルな一言。
 それは――紛れもない、貴方への想い。

「――まだ」
「え?」
「まだ、秘密」
「……は?お前それ作る前にも」
「秘密ったら秘密!解んないなら解んないままでいい!」
「なんで逆ギレ!?」

 肝心な所で――やっぱり私は、まだ意気地なしなのだ。だから。まだ、伝えられない。どうしても、もう一歩が踏み出せない。
 このままではいつか手遅れになってしまうと、頭では解っているのだけれど。でも――

「――あのさ、宍戸」
 ぐるぐると考えていた私を、日和田の声が引き戻した。
「何?」
「いや、あの。どうせなら……」
 どう言おうか迷っているのか、視線を私から逸らしながら日和田が歯切れ悪く切り出す。


「――ちゃんと、一からコラボしないか?…お前んとこのミリアムと、俺んとこのミクで」


 ――一瞬、思考が止まった。え?今、何て?
「ほら、せっかく知り合いだってわかったんだし、なんかミクも兄貴もお前に会ってみたいとか言ってるし、それに――」
 日和田が言い訳のようにまくし立てる。半分ほどしか機能していない私の頭で理解出来たのは、何故か日和田の所のミクとお兄さんは私のことを知っているらしい、ということだけ。
「――ちょっと、待って。コラボ…って、言った?私と日和田で?」
「そう、だけど………やっぱ、駄目、か?」
 こっそり掌に爪を立てる。――痛い。つまりは夢じゃない。

 これは――何かのご褒美、ってことで、いいだろうか。


「駄目なわけ、ないじゃん」
 私は――ミリアムみたいな綺麗な笑顔を目指して――笑みを浮かべて、そして、

「――喜んで!」

 彼女と同じ台詞で、答えを返した。




  ――To be continued…?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

I sing your love 8(終)(自作マスターとミリアム)

 …なんか異常に長かった気が…!
 せめて最後くらいはマス×マスだのラブコメだの詰め込んでみたかったんですが…やっぱり無理でした…orz
 某方々がどシリアスならこっちは馬鹿みたいに明るいラブコメ(ラブ≪コメ)書いてやろう!という意味不明な目標があったのですがね…


 兎にも角にも、一応はこれで、この「I sing~」は終わりです。
 …なのに何故いかにも続くかのような一文が最後にくっついてるかと言いますと。
 続きというか別視点というか前日談というか……主人公を換えてまた書こうかな、なんて、思ってまして。
 …予定は未定ですが。


 それでは、これまで読んで下さった方々、本当に有難うございました!

閲覧数:200

投稿日:2009/11/15 23:01:10

文字数:3,826文字

カテゴリ:小説

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  • 錫果

    錫果

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    >つんばるさん
     し、しっかり追いかけて下さってたんですか!しかもユーザーブクマまで…!?
     うわわわわ…本当に有難うございました…!
     あと、どシリアスは謝る所じゃないです絶対…!いつもドキドキしながら読んでます。

     素敵とか!あああ有難うございますというかそう言って下さるつんばるさんが素敵です!
     ずれてませんよ、ツッコミ所はそこで合ってます(笑)
     美空のスキルの高さに作者が一番びっくり&嫉妬です←

     待って頂けるとなっては、書かない訳にはいきませんね(笑)
     次はもっともっとラブコメのコメの部分が強くなる予定です…

     では、嬉しいお言葉を有難うございました!

    2009/11/17 19:00:54

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    完結おめでとうございますー! じつはしっかり追いかけてました、つんばるです。
    どシリアスになってるのは私のせいです、ほんとにすみません^p^笑

    マスターメインと言いつつ、MIRIAMさんとのやりとりも素敵だったなあと思います!
    ていうか、英訳もできて発音もきちんと調声できるって美空さんすげえww と、ちょっと
    ずれた感想をもちました……読み書きはできてもリスニングとか発音とか苦手です^p^←

    もう次回構想もあるとのこと、そわそわしながら待たせていただきますー!
    あ、ユーザーブクマいただきました! これからもがんばってください!
    では、素敵な物語をありがとうございましたー!

    2009/11/17 03:15:55

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