* * *
昨夜、夢を見ました。
自分が大きな龍になり、大空を駆け巡る夢です。
もちろん色付きの夢だったので、
空は遠くまで澄み切った蒼でした。
いつもは、戦いに明け暮れる毎日なので、
その夢の中では自由になれた気がします。
この世は戦いです。
いつも戦っているんです。
大変です。
一応、それなりの地位にいるとは思うんですが、
実際はどれほどの地位なのかわかりません。
他の方達のように、わかりやすいわけでもなく、
しかも私の場合、ピンで行動しますので。
ええ、一人でということです。
責任があるのかないのか、
大きいのか小さいのかはわかりませんが。
私と似たような境遇を持つものがもう一人います。
彼とは、まるで正反対の存在ではありますが。
彼と並ぶことはほとんどありません。
彼は、けっこう遠くにいますので。
つい先日、彼の右隣に腰掛ける機会があったので、
短い間でしたが、少しだけお話をしました。
そしたらこんなことを言われたんです。
「君のように縦横無尽に世界を歩めたらどんなに幸せか」
彼は、悩みを抱えているようでした。
聞くと、どうしても前に進んだりする時に斜に構えてしまうらしく、
いつも人を斜めから見てしまい、
真っ向から挑んだことがないそうです。
確かに、戦いというこの世を舞台にしているものにとって、
彼のようにいわゆる「不意を討つ」能力は必要不可欠ではあるのですが、
いつもいつも「不意を討つ」ことしか出来ない彼は、
それが、自己嫌悪の原因になる時があるそうです。
こうも言ってました。
「自分は卑怯者なんだ。
不意を討つことしか出来ないんだ。
何処に行っても「角」が立つような行動しか出来ない」
それを聞いて私は、形は違えど、似たような悩みを持つものに、
出逢った気がしたのです。
私も彼に悩みを打ち明けました。
縦横無尽に走り回る私の悩みです。
「私は、確かに縦横無尽に走れる。
でも、それはそれで大変。
正面きって突っ込んでいけば、引かれてしまうし。
かといって後ろからは卑怯。
横からだと、どこか中途半端な気がするし。
斜めから、さりげなく向かうことに憧れる」
そう言うと、彼はどこか安心したような、
それでいて、どこか諦めに似た表情を見せました。
そうなんです。
誰もが完璧でなく、自分が持たない何かに憧れます。
それを羨ましいと思ってしまうのも世の常です。
しかし、同時に誰かに憧れられる何かを持っています。
私達は心のどこかで信じています。
いえ、知っているんです。
私達の裏側には、
私達の奥底には、
その可能性を既に持ち合わせているのです。
いずれ、その時が来れば、
まるで人が変わったように、
今まで憧れていたことも僅かではありますが、
出来るようになるんです。
きっと。
そんな話をしている矢先でした。
彼が、ふと前を見て、こう言ったんです。
「行けるとこまで行ってみよう」
そういうと、
彼は突然、未だ知らぬ世界の果てまで単身進んでいきました。
わき目も振らず。
最初から、わき目を振ってはいるのですが。
そうしてつき進んだ彼は、
その瞬間、
綺麗な「馬」に変わりました。
あの輝いた彼の姿は今も忘れ得ません。
そして、
真っ直ぐに前を向いて、
正々堂々と、
一歩その足を踏み出そうとした
その時、
彼の姿は消えてしまいました。
未だ知らなかった向こうの世界で、
彼の夢を打ち砕いたのは、
私と同じ名を持つ「車」でした。
「車」が横から「飛」び出してきたのです。
戦いとは無情なものです。
しかし、それがこの世界です。
彼は、その可能性を目に見える形にまではしました。
しかし、その一歩は踏み出せずに終わりました。
でも、彼は満足だったと思います。
一度でも、夢見た姿になれたから。
次こそは、一歩踏み出して欲しい。
次こそは、一歩踏み出させてあげて欲しい。
そのように、私は、貴方に望みます。
私達の華は、貴方が握っています。
彼の華も、
私の華も、
他の猛者たちの華も、
我々の「王」の華さえも。
貴方の一手に。
巧くなって欲しい。
そして、
私は「龍」になりたい。
「飛車」より主人へ願いを込めて
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