急に彼はいなくなる事がある。
…大体どこかでサボってるんだけど。
それなのに、成績はトップクラス、運動もできて、家事も万能…
私なに言ってるんだろ?
それにしてもどこに…
まあ…多分屋上でしょうけど。
私は階段を上り、屋上に出る。
強い日差しに少し目が眩む。
いい天気…。
少しずつ目が慣れてきて、私はそこに横になってる彼を見つける。
その姿が目に映ると、自然と顔がほころんじゃう。
私は慌ててほころびを取り繕い、彼の名前を呼ぶ。
「瀬奈!」
「…ん?弥生か?」
どことなく機嫌が悪そう…
寝てたのね。
「また授業サボって…もう。」
「…ん?今何時だ?」
「もう十二時よ。何時からいたのよ。」
「確か…十時頃だな。そうか、もうそんな時間か…。」
マイペースというか…暢気というか…
「もう…あ、そうだ。瀬奈、お昼ご飯どうするの?」
「…さっきまで寝ていてそこまで考えていると思うか?」
…思わないけど。
「そんなことだろうと思ったから、ほら、お弁当用意してきたよ。」
「…用意してたらどうするつもりだったんだ?」
…それは。
「無理やりでも食べてもらうつもり。」
「…そうか。…いただきます。」
そう言うと、彼はそのお弁当をあっという間に平らげる。
「お腹へってたの?瀬奈?」
「…そこそこ。」
「そう、で、どうだった?おいしかった?」
あ、しまった、また同じ質問しちゃった。
どうせ彼はこう答える。
『俺が作ったほうが美味い。』
「俺が作ったほうが美味い。」
…ほら。
でも本当に彼が作ったほうが美味しいから困る。
「…そんなこと言ったらもう作ってあげないわよ。」
「冗談だ、美味かったよ。」
少しはにかんで、彼はそういう。
…なんだか何を言われてもこの顔されると許せそうな気がする。
「…。」
「どうした?」
あっ…
顔に見惚れてたなんていえない…
「な…なんでもないわよ!」
「そうか?顔赤いぞ?熱でもあるんじゃないか?」
彼は顔を近づけ私のおでこに手をあてる。
一瞬にして顔が火照って真っ赤になるのがわかる。
「だ、大丈夫だから!」
私はその手を振り払う。
「…ならいいんだが。」
「あ!食べ終わったわね!じゃ、じゃあ!私先に教室に戻ってるから!」
ああ!もう!
戸惑い気味の彼を残し、教室に戻りながら私は心の中で叫ぶ。
なんで甘えられないんだろう?
急に距離が縮まったから?その距離感がまだつかめてないから?
自問自答しながら廊下を歩いていると、彼の弟に会う。
「あ、弥生ちゃん!瀬奈見なかった!電源切ってるみたいで携帯繋がらないんだよ!」
「あ、遊馬君。瀬奈なら屋上にいたけど…どうしたの?」
「なんかひいじいちゃんが急に倒れたらしいんだ!」
「ええ!だ…大丈夫なの?」
「わかんない!だから…行かなくちゃいけないんだ!ありがとう、弥生ちゃん!ちょっと瀬奈呼んでくる!」
「うん…。」
…大丈夫かな。ひいおじいさん。
結局二人とも早退して、その日は戻ってこなかった。
私の弟の進はバイトがあるからって言って先に帰っちゃった。
「ねえ弥生!これから買い物行くんだけど一緒に行かない?」
友達からのお誘い。
…うーん。
普段なら断るんだけど…
「…行こうかな。」
「よーし!きまり!いこー!」
「あ!待ってよー!」
「でさあ、弥生は瀬奈君とどこまで行ったの?」
「え!」
思わず飲んでたジュースを噴出す。
「そんなにテンパらなくてもよくない?」
友達は笑いながらそう言う。
「わ私とせ瀬奈は…」
「ごまかしても無駄だって、最近前より仲いいじゃない。」
「そ…そうかな?」
「でもさあ、瀬奈君結構人気あるから油断してると誰かに盗られちゃうかもよ?」
「まさかぁー、瀬奈に限ってそんな…」
「いやいや、冷静に考えてみてよ、かっこよくって、頭が良くて、運動神経よくって、料理上手で、普段は冷めてるけど、意外に優しい…所謂ツンデレよ!非の打ち所が無いじゃない!」
「あはは、いいすぎよ。」
「もう!私は心配して言ってあげてるの!瀬奈君の隠れファンって結構多いのよ!」
「ふーん。」
「なによ、その余裕は…まあ、私は遊馬君派だけど。」
「遊馬君かあ…可愛いよね。」
「そう!もうあの抱きしめたくなる感じがたまらないの!」
そう言って友達はクレーンゲームでとったぬいぐるみを強く抱きしめる。
「ああ、ほら!くまさんがかわいそ…」
話に夢中になりすぎて、歩いている人にぶつかっちゃった。
「あ!ごめんなさい!」
私は反射的に謝る。
「んぁあああん?」
見るからに柄の悪い二人組、ああ、失敗したなあ…。
「折れたぁ!ろっこつおれたぁ!」
「ひゃははは!こりゃ慰謝料だな!慰謝料!」
「…」
友達は怯え、その顔は蒼ざめてる。
「逃げて。」
耳元で私はそう囁く。
「え…で…でも。」
「いいから早く!」
「ご…ごめん!弥生!」
そう言って友達は逃げていく。
…よし。
「ひとぉリ逃げたー!」
「おじょーちゃん!慰謝料払えよ!100万円!」
「…そんなお金持ってるわけ無いじゃない。」
「なら体で払ってもらおうか!」
…逃げよう。
私は後ろを向き駆け出す。
「あ!待て!」
「逃がすな!!」
ちょうど昼から夜の切り替わりの時間帯だからなのか、人がそれほどいない。
助けを呼ぼうにも人がいなくちゃどうしようもない。
私は闇雲に逃げ回ることしかできない。
あっ!
何かに躓き私は転んでしまう。
「痛い…。」
「あ!転んでやがる!」
「今だ!」
逃げなきゃ…!
立ち上がろうとしたけど、足首に鈍い痛みを感じてまたすぐに転んでしまう。
「ひゃはは!いまだ!犯っちまえ!」
私は後ろから羽交い絞めにされて身動きが取れなくなる。
「離しなさい!」
「元気なお譲ちゃんだねー!」
そう言い男の一人は私のお腹を強打する。
「うぇ…。」
息が詰まる感じがして、吐き気に似た感じを覚えた。
「暫くボコボコにしたら抵抗する元気も無くなるだろ!ひゃはははは!!!」
痛い…。
次は頬を殴られる。
あまりの衝撃に涙が滲む。
「うぅ…。」
痛いよ…誰か…
「助けてぇ…瀬奈ぁ…」
つい、彼の名前が口をついて出る。
「せな?だれの名前だぁ?もしかして彼氏かぁ!残念だったなぁ!そんな奴はここに…」
「…呼んだか?」
私を殴った男が、その声に気づき後ろを向いたと思った瞬間、その体は近くのブロック塀に叩きつけられて、その男は気を失っている。
「さあ…弥生からその汚い手を離せ!」
「ひぃいいいい!あ…兄貴がぁあああああ!!!!!」
私を羽交い絞めにしていた男はその手を離し一目散に逃げていった。
「…瀬奈ぁ。」
安心感から涙が溢れる。
「大丈夫か!」
彼は私に駆け寄る。
「うん…だいじょう…痛っ!」
そういえば、足首捻ってるんだった。
「全く…あんまり心配かけるな…ほら。」
彼はしゃがんで背中をこっちに向ける。
「え?」
「おぶってやるっていってるんだ。ほら。」
「…うん。」
どう頑張っても歩くのは無理そうだから、私は彼の好意に甘えることにする。
彼の背におぶられながら、当たり前と言えば当たり前のことを聞く。
「何で瀬奈あんなところにいたの?」
「ん?ああ、たまたま通りかかっただけだ。ひいじいちゃんの着替えを取りに行く途中にな。」
「そうだったんだ。あ、ひいおじいさん大丈夫なの?」
「ああ、昨日父さんと徹夜で語り合ってたしてたらしい。」
「それは…倒れるわね。」
「全くだ。ひいじいちゃんもひいじいちゃんだが父さんも父さんだ…。」
「うふふふ。」
ふと周りを見るとさっきまでの少ない人だかりが嘘のように人が増えている。
皆ものめずらしげにこっちを見てる。
…恥かしい。
「や、やっぱり自分で歩く!」
「…何で?」
「恥かしい…。」
「…まあいいんじゃないか?」
「何で?」
「別に見られて困る間柄じゃないだろ?俺たち。」
顔が赤くなっていくのを感じる。
「…馬鹿。」
「ほんとなにからなにまでごめんね、瀬奈。」
「気にするな。」
彼に背負われて病院にいき、何故かその後彼はうちに来て夕飯まで作ってくれた。
そして今彼は帰ろうと玄関に立っている。
あ…そうだ。
「瀬奈。」
「何だ?」
「…ありがとう。」
いい忘れてたわけじゃないけど、言ってなかった一言を彼に言う。
「…さっきも言ったろ?気にするな。」
少しはにかんで彼はそう言う。
その顔をみて何故か私の顔は赤くなった。
「どうした?やっぱり熱でもあるんじゃないか?」
彼は顔を近づけて、私のおでこに触れようとする。
私はその手を払い、近くなった彼の唇にキスをする。
…
しばしの空白。
「…ふぅ、じゃあおやすみ!瀬奈!」
「…え…ああ…おやすみ。」
私は慌てて自分の部屋に入る。
家のドアが開く音がしない。
彼は今呆然としているんだろう。
私も胸のドキドキが納まらない。
…眠れるかなあ。
「ほら!急がないと遅刻するわよ!進!」
「うー。先に行っててくれー。」
「もう!行ってきます!」
案の定眠れず思いっきり寝過ごしちゃった。
家の下に出るとそこに、バイクを背に彼が待っている。
「…おはよう。瀬奈。」
「よう…お前…頭すごいことになってるぞ。」
「…寝癖よ。」
時間的に気にしてる暇なんて無かったの…。
「…ほら、これ。」
彼はぶっきらぼうに紙袋を突き出してきた。
「なにこれ?」
「弁当。お前、怪我してるから。」
「…ありがと。」
「…。」
「って私が作ってきたらどうするつもりだったの?」
「ん?その時は無理やりにでも食べてもらうつもりだ。」
少しはにかんで、私が昨日言ったことをそのまま彼は私に言う。
「よし、急がないと遅刻するぞ、ほら。」
彼は私にヘルメットを投げてくる。
「え?」
「乗れよ。」
「いいの?」
「寧ろ何が悪いんだ?」
「…そうね。」
私は彼につかまる。
「しっかりつかまってろよ。」
「うん。」
バイクが走り出す。
バイクを運転する彼に掴まりながら私は呟く。
「瀬奈…大好き。」
「…なんか言ったか?」
風にかき消されたのかその呟きは聞こえなかったみたい。
「別に何も言ってないよ。」
私はそんなことをいって誤魔化す。
多分今私の顔は真っ赤なんだろうな。
「…弥生?」
「なに?瀬奈?」
「…俺もだ。好きだ。」
…聞こえてるじゃない。
そして多分、今彼は私の一番好きなはにかんだ笑顔を浮かべているに違いない。
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