s
遠くで花火があがって
夜空を赤く染める
見上げている君の後ろから
僕はその黒い背を見てる
A
花火が見たいと急に思いつき
言い出したら聞かない君に手を引かれ
熱気のこもる祭りの会場へ
僕はしぶしぶついてきた
昨日降った雨の湿度が残って
立っているだけで肌に汗がにじむ
不快な気持ちのまま並んだのは
色とりどりのかき氷の屋台
b
威勢のいい客引きに寄せられて
うれしそうな顔をしている君
赤青黄に咲く少女たちの中
闇に溶けたように黒い君
s
白く細い腕にぎゅっと
力がこもるたびに
どうしようもなくいとしく
切なくなるんだ
ぼくにそっと差し出した
かき氷の乗ったストローが
あて先を失ったように
さまよう姿を眺めてる
a
右足のふくらはぎにある
蚊にさされて赤く腫れた痕
ついかきむしってしまうから
血がにじんで痛痒くなった
いまのぼくの心の中も
同じようなものなんだろう
複雑な感情が入り交じり
なにもわからなくなるんだ
b
立ち止まる背にぶつかり
何事かと僕のほうを見る
きっとこの会場でサングラスを
かけているのは君だけだろう
s
遠くで花火があがって
夜空を赤く染める
振り返ってそれを見上げて
君は僕にたずねた
「今のは、何色?」
s
続けて花火があがって
夜空を何色かに染める
見上げる君が「きれいね」と
言ってふわり笑っている
遠くで花火があがって
二人を赤く染める
きれいだと返しながら
僕はその黒い背を見てる
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