「あ、あの、えーと」
会話がそのまま終わりそうだったので無理矢理につなげようとしたが、言葉を上手く組み立てられない。
言いよどむこちらを、彼女は先ほどと変わらぬ表情で見ている。
その時、空から声が伝わってきた。
歌だ、それも聴いたことがある。
防災行政無線放送などで使われる屋外スピーカから流れているみたいで、それは空全体に響いていた。
『われあらば』
『あまねく広がりし嬉しき産声を褒め称えよ』
『あまねく造られしそのなほき谷を褒め称えよ』
これは鏡音リンの曲だ。
曲名は、われあらば。
聖歌のような曲で、単純だが力強く、聴いていると尊いと思う気持ちがあふれてくる。
楽器の伴奏などはなく、独唱だ。
無邪気でけがれのない少女の声、鏡音リンのその機械によって作られた電子的な声が古典的な旋律を奏でている。
それは人間の声では表現できない独特の何かがあった。
鏡音リンの曲を聴くようになったきっかけが、この曲だった。
『海も陽(ひかり)あふるる空もわれのこの手にあり』
『地も陰(かげ)あふるる空もわれのこの手にあり』
俺と同じように晶さんも視線を空の方に移していた。
なぜ唐突にこの曲が市内放送で流れ始めたのか、理解ができない。
時報として童謡などの音楽を流している場所もあるが、この地域ではそういうものはない。
そもそも時間も中途半端だしこの曲を使うのはおかしい。
なんらかのトラブルによるものだとしてもおかしい。
そしてどう考えても、人が同じ少女に変わってしまうなんてことを受け入れることはできない。
何が起こっているんだ?
しこりのようなものができたように頭が重くなる。
動けないでいる俺を包み込むように、鏡音リンの声がまとわりついてくる。
『まめやかなるわれに幸あれかし』
『まめやかなるわれらに幸あれかし』
【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(17)
ある日、突然、世界中の99.9999%の人間が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。
混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の1人・佐藤悟は…というお話。
なお、携帯電話で見ることを前提としているので、独特の文体で書いています。
『文の終わりに改行』
『段落ごとに一行空ける』
そのため、段落の一字下げなどは省いています。
見難くなっていたら、すいません。
意見があれば見直します。
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