月と赤い糸

第一章

夏の始まりの夜。
とても暑く寝苦しい夜だった。
暑さと息苦しさの中で私は起きたのだが、何もする事が無かったが故に、ベランダへと出た。
いつもの様に夜空を見上げ、月が美しい事に私は涙が出そうになるのを抑え煙草をふかす。
薬がないとしっかりと睡眠が取れなくなって幾つの年月を生きて来たのかすら、もう覚えてはいない。
眠れない夜に思いを馳せる事はたった1つの事だけだった。
私に「好き」だと、「君を愛している」と言ってくれた人達の事ばかりが頭を過る。
今の時代、ネット社会と言われるだけあってネットに依存している私は多くの人にそう、言われてきた気がする。
私は全ての言葉達を信じ過ぎ、今ではすっかり人間不信に陥ってしまっている。
出会ってきた多くの人は私を良いように利用した。
「好き」だと言えば、「愛してる」と言えば私の愛が手に入れられると思ったのだろう。
私はその「心無い言葉達」を信じた挙句、多くの人に利用され、要らなくなれば捨てられ、の繰り返し。
どれだけ涙を流しただろう。どれだけ心に傷を負って来ただろう。
そんな事を考えながら月を見上げている間に煙草を吸い終わってしまっていた。
少しばかり汗も引いてきて、涼しくなって来た頃、いつも同じ事を考えているんだな私、と
自分で自分を嗤って居る気がした。
そんな自分が嫌になって私は煙草とジッポを持って部屋へと戻ることにした。
部屋へと戻った私は喉が異常に乾いている事に気付き、珈琲でも飲もうと思い席を立った。
珈琲と言っても家にはインスタントしかないのだが、私は異常な程の水分への執着があった。
飲めるものなら何でも良かった。
水分が手元にあれば、其れだけで私は心の平穏を取り戻せるのだ。
部屋へと戻ると、猫が待っていてくれていた。
猫は私の心の癒しになってくれている、とても有難い存在なのだ。
薬をまだ飲んでいなかった私と、遊んで欲しそうに見つめてくる猫との間にほんの少し癒しの時間を持とうと
思えた瞬間が出来た。
猫と遊んでいると、とても心に平穏が訪れる。
心から、笑える時間が私にはあるのだ。
過去を思い出さずに居られるほんの一瞬だが。
猫は楽しそうに紐で遊び、疲れ果てて流石に眠たくなってきている様子だった。
私は、「もうおやすみ?」と声を掛け、部屋の椅子に座った。
時間はすっかり0時を回ろうとしていたが、私はまだ眠る気になれず煙草を吸い、水分を採っていた。
そろそろ深夜帯にもなって来たから、薬を飲んではみたものの私はまだ眠れそうもない。
何をして過ごして良いのか分からずに、煙草と水分を取っていた。
ほんの少しの金木犀の香水を纏ってはみたものの、なかなか眠れない時間が過ぎていく。
私にはとても不安を感じる時がある。
「本当に愛せる人に出逢えるのか」それはきっと神のみぞ知る事なのだろうけれど、
深夜帯に起きていると、とてつもない不安感に襲われてしまう。
そんな時はどうしても煙草に手が伸びてしまう。
私の情緒不安定さを拭うように。
ずっとずっと探しているものは私にとって「愛情」なのだと思う。
いつか私に見つける事が出来るだろうか、「愛情」という優しさや思いやりを。
また、煙草に火を点け考え事をしてしまう。
私は気分が落ち込むと自分自身を傷付けてしまう事が多い。
食事を採らなくなったり、ピアスを開けたり、リスカもしてしまう事がある。
私が自傷行為をしてしまうのは生きたいから。
現実と言うのはとても非情で、悲しくて、とてつもない孤独感を感じる私なのだが、
全ては「生きていたいから」の表れなのだと思う。
時刻はとっくに深夜の2時を過ぎていた。
そろそろ眠らなくてはいけない時間なのは分かっているのだけれど、
なかなか眠れないのが今の現状の私なのである。
また、ほんのりと香る金木犀の香水を纏いリラックスしてみるものの
どうしても月が見たくて仕方がない私はカメラを持って外へと出てみる事にした。
外へ出ると金木犀の香水の香りがふわっと香っていて、とても心地が良かった。
今日の月はとても美しい光を放っていた。
私は月の光がとても好きで、良く写真を撮るのだが、今宵は雲も相まって一層美しかった。
部屋へと戻った私は早速煙草に火を点け、心の安定を図ろうとしていた。
もう3時になってしまう時刻になってしまった。
今日は眠りにつくことにしてみようと思う。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

月と赤い糸

愛情を探し続ける主人公。
運命の人に出逢えるかという正解のない疑問。
心無い言葉や対応に疲れ果てている時期。

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投稿日:2024/01/05 02:04:18

文字数:1,827文字

カテゴリ:小説

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