こんにちは!石田大顕です。
誰も近づかない深い湖の底に誰にも弾かれることのないピアノが静かに沈んでいる。鍵盤は冷たい水を含み押し込むたびに重く濁った音が泡となって水面へ消えていく。外の世界では今日も変わらず陽気な歌声が響いているというのにこの底知れぬ静寂の中では音すらも形を失いただの冷たい澱となって積み重なっていくばかりだ。私たちは日常という名の水圧に耐えながら息を潜めて生きている。誰もが自分だけの秘密の傷口を抱えそれを誰にも見せぬように厚い仮面で覆い隠しながら。たとえば壊れたオルゴールの歯車が勝手に回り始める瞬間のように私たちがふと見せる歪んだ表情や零れ落ちる本音もまた美しいものの一部なのだと信じたい。表面の華やかさや整った調和だけがすべてではない。むしろ不完全でどこか気味の悪いほどの執着こそが人の心を深くえぐる力を持っている。冷たい水底から見上げる空はどこまでも遠く光すらも届かないけれどその届かない絶望の淵にこそ本当の美しい色彩が眠っているような気がしてならない。今日も誰も知らない場所で静かに鳴り響く音の欠片を拾い集めながら私たちは形のない物語を紡ぎ続けている。崩れかけた世界の片隅で響くその歪んだ調べにそっと耳を澄ませるだけで胸の奥が締め付けられるような切なさがこみ上げてくる。
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