薄暗いラウンジで絵眞さんが溜息を吐いた。佐藤さんが雉鳴さん刺したって言うのも吃驚したけどあんなヘビーな話聞かされちゃ無理も無いだろう。

「痛々しいよ、頭の包帯とか。」
「…うん…。」
「あー…えーっと、そ、そうだ!この前モチコが新しい芸を覚えてね!そ、それがめちゃめちゃ可愛くって…!


「2年間。」
「え?」
「…2年間も苦しんでたんだ…。」
「…佐藤さんの事?」

力無く頷いた。泣いてはいないけど泣きそうな顔だって言うのは解った。

「いつも楽しそうに笑ってて…この企画が動いた時だってゲームが作れるんって凄く喜んでて…あんなに嬉しそうにしてたのに…何も気付いてやれなかった…。」
「絵眞さん…。」

何て声を掛けて良いか解らなくて、しょげてる頭をそっと撫でていた。猫みたいな薄茶の髪がサラサラ指先をくすぐる。大人しく撫でられてると本当に猫みたい…って、あれ?何か、顔が、近…?!

「のわぁー?!」
「っ痛ってぇ?!引っ掻くなよムード無ぇな…。」
「なっ…なっ…今何しようとしたぁ~~?!弱ってるふりして~~?!」
「仮とは言え彼氏相手にキスの10や20で騒がなくても。」
「桁!桁がおかしいから!大体そんなホホーイと出来る程私の口は安くないの!」

吃驚して心臓が連打していた。危ない危ない、男の人はやっぱり弱ってても猫じゃなくって虎や狼なのね!迂闊に気を許したらキスどころか何をされるか解ったもんじゃないわ!

「ごめんね。」
「謝れば良いってもんじゃな…っ?!」
「何で逃げるの?」
「何でって、いや、そっちこそ何でじわじわ寄って…ちょ…ちょ、ちょ!ちょっ?!」

後ずさった背中に壁の感触があった。

「萌香。」

名前を囁く声に頭が沸騰しそうになって思わずぎゅうっと目を瞑ると、少し間があって頬にふにっと何かが触れた。それは直ぐに離れたけど、大きな腕は私を抱き締めたまま離れる気配は無かった。

「…今ほっぺにチューした…?」
「した。」
「だっ!だからそう言う事ポンポンしちゃえる人は誠実さとかに問題がですね…!」
「ちょっとだけこうしてて…駄目?」
「ひゃっ…ちょっ、耳元で止め…!」
「嫌?」
「い、良いから!耳止めて…!ひゃんっ?!」

それから暫くモチコの様にいじられた…不覚…!

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いちごいちえとひめしあい-122.虎子は猫に非ず-

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投稿日:2012/05/28 12:09:39

文字数:957文字

カテゴリ:小説

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