猫は出てゆくことにした(イメージ小説)

投稿日:2013/04/30 18:59:35 | 文字数:2,000文字 | 閲覧数:144 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン

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「猫は出てゆくことにした」を聞いたら、パーッとこういう光景が浮かんでしまったので、書いてみました。
勝手なイメージですので、ご不快を覚えたかたがいらしたら、すみません。
曲のボーカルはルカさんですが、「ブレーメンの音楽隊」のイメージということで、年老いた猫を擬人化した人物が主役となっております。そうか、ブレーメンへ行こうって声かけしただけで、結局、泥棒の隠れ家に落ち着いてしまい、行かずに終わっちゃったんだっけ、と思ったらこういう流れになりました。

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TEXT
 

 彼女のほんとうの名は、誰も知らない。
 ネコと呼ばれていたのは、その身ごなしからであるとか、吊り上がった黄金色の眸のせいだとか、あるいは伸ばした爪が銀色に美しかったからとか、どれでも好きなのを信じればいいのさ、と彼女は笑った。あるいは、信じなくてもかまわないんだよ、と。
 かつて、あたしは美しい女だったのさ、とネコは語る。
 ――正確には、魅力のある女だったんだよ。
 ただ綺麗なだけの女なら、ほかに、いくらでもいた。それでもネコが人気だったのは、流し目ひとつで酒のおかわりに困ることがない人生を送れたのは、彼女が人を魅了する力を持っていたからだ。
 わかるかい、と尋ねると、実直なだけが取り柄の生きかたをしてきた男は、いや、と苦笑した。よくわからない、と。
 ネコは馬鹿にしたように笑った。
 ――あんたがその人生で一回こっきり、仲間を説き伏せるのに使ったものを、あたしは毎晩使ってたんだよ。
 ――へえ、なんだろう。
 話に入って来たのは、こちらもやはり、真面目な男だった。こいつらはまったく、といわんばかりの顔つきで、ネコは肩をすくめた。
 ――あんただって、それにやられちゃったんだろ、コロっとさ。
 ――なんだろう?
 仲間内でいちばん若い男も、わからないらしい。首を捻る様がおかしくて、ネコはくすくすと笑った。欠けた歯のあいだから、息が漏れた。
 ――馬鹿だね、あんたらは。
 ――俺は、死にたくないから家を出ただけだと思ってた。
 ネコはうなずいた。
 ――それも正しいね。
 あのとき、古い酒場の片隅で、ネコは朽ち果てようとしていた。ネコの歯はいくらか抜け落ち、残っているものも黄色くなって、かつての真珠のような歯とは比べるべくもない。
 その歯のあいだにタバコをはさんで、猫は遠くを見るような目つきをした。
 ネコだって、生きるために旅立ったのだ。そして、仲間たちと、ここに辿り着いた。
 穀潰しとして死を待っていた彼女を救い出してくれた仲間たちのことを、彼女は嫌いではなかった。
 好きだといっても、さほど間違ってはいないだろう。
 出会った頃の思い出話をはじめた仲間たちを見守る表情は、教会に飾られた聖母像のようだった。彼女の眼差しは、やさしかった。思いやりに、満ちていた。
 けれど、そこには翳りがあった。
 男たちを見ながら、彼女はひとり、つぶやいた。
 ――だけど、好きだけじゃ、お終いにはできないのさ。

 ネコの旅立ちに気づいたのは、一行を率いて来た男だった。彼は、働きづめの人生相応に老いていた。長く重荷を担った背は曲がり、苦役に耐えてきた顔には皺が深い。不似合いな長い睫毛にふちどられた、やさしげな眼をしていた。
 ――どうしても行くのかい?
 ――ああ、そうだよ。
 ――ここじゃ、駄目なのかい?
 ――そうさ。
 なおも、男は尋ねた。
 ――どこならいいんだい? ここで駄目なら、どこだって、駄目なんじゃないのかい?
 気づけば、ほかの仲間たちも起き出して来ていた。皆、居場所を失い、最後の夢を託し合って、長い道を歩いた仲間だった。
 大切な、友人たちだった。
 ――悪いね、あたしは自由なネコなんだ。暖かい寝床や、おいしい食べ物だけじゃ、満足できないのさ。
 ここじゃない。
 あたしが目指したのは、ここじゃない。あのとき、あたしが立ち上がった理由は、これじゃない。
 ネコは全員をその光る眸で見渡した。老いても尚、ネコの眸は美しかった。夕暮れの太陽をそのまま閉じ込めたような、せつない琥珀色をしていた。
 ――あんたたちこそ、いいのかい。ここで終わりにして。
 仲間たちは、目を見交わした。そして顔を伏せた。
 ――いいんだね、あんたたちは。それなら、それでいい。大事なことだよ、あたたかい寝床も、おいしい食べ物も。生きていくって、そういうことだ。あたしは知ってる。だから、あたしのことは見送っておくれ。気もちよく、送り出しておくれ。
 答えを待たず、ネコは一歩を踏み出した。颯爽と、彼女は歩きだす。自由へつづく、夢へ向かう道を。巻きつけた襤褸を風にとられぬよう、固く握り締めて。乾いたくちびるに、歌を乗せて。
 ――あんたたちが、あたしに夢をくれたんだ。
 死の運命を待つだけの日々に、ひとつながりの明日をくれた。生きていくことを、思い出させてくれた。だから、かれらがここで暮らして行くのだとしたら、夢を追うのは自分の役目だ。
 ――呼吸が尽きるまで、あたしは歌うよ。歌いながら、この道を行くよ。
 歩み去るネコが道に落とした影は、凛と背筋を伸ばし、誇らかに顔を上げ、遠ざかった。
 はるか、夢の街へ向けて。
 彼女の前に、世界はどこまでも広がっていた。つねに、彼女の一歩先へと。いつまでも、どこまでも。

 そして、ネコは歩くのをやめなかったのだ。

自分の好きなことを好きなようにやるためにしかネットを使っていない、残念な中年です。

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