?その歌は誰のものなのか?
?何のために私が歌うのか?
差し出された詞(テクスト)の前に私はなす術なく立ちつくした。
マスターの家にはたくさんのVOCALOIDたちがいる。
私、初音ミクも含めたクリプトン組からインターネット組、AHS組、YAMAHA組など・・・
マスターの家にいないVOCALOIDを数えたほうが確実に早そうだ。
そんなたくさんのVOCALOIDたちに、マスターはほぼ平等に歌を、仕事を与える。
私はそんなマスターが好きで、とても尊敬していた。
私も今までたくさんマスターから歌を貰い、歌ってきた。
マスターが私に渡す歌は、VOCALOIDから見た世界だったり、VOCALOIDの歴史を綴ってあったり、VOCALOIDが抱くマスターや他のVOCALOIDへの想いの歌だったり、人は歌うことの出来ないであろう高速スピードや高音が要求される物だったりと・・・とにかく全てが「VOCALOIDならでは」の歌だった。
私も、VOCALOIDとしてそのような歌を歌えることを誇りに思っていた。
これが、私の生きる道、生きる希望なんだと。
ある日、家にいるVOCALOID全員がリビングに夕方集まるよう言われ、私たちはぞろぞろと、他愛もない話をしながらリビングへ向かった。
「また、曲いっぱい作ってきてるんですかね、マスター」
私がつぶやくと、すぐにみんなが乗ってきた。
「リン、次は歌えるかなぁ~♪」
「前貰ったのは、俺とリンで漫才だったもんな」
リンとレンの談笑に我が家の情報屋、mikiちゃんがそっと口をはさんだ。
「マスター言ってたよ、時代は鏡音で漫才だって」
「俺らまた歌えないのかよ・・・」
「リンとレンはまだマシだろ?僕はずっとがくぽと裸踊りをやらさr」
「KAITO…それ言うなと言ったよな?」
「うわぁぁ!?が、がくぽ!?とりあえず刀しまって!いいからしまえってすいませんでしたあああああ!」
人数が多いと何気なく話し出したことから、最早収集がつかなくなるほど盛り上がってしまうのが、良いところであり悪いところなのだろうとつくづく感じる。
だけど、このにぎやかな家でくだらない雑談に花咲かせ、マスターから歌を貰えるこの生活に私は満足していた。
いつも時間をきっちりではないが、大方は守るマスターの姿が、指定された時刻になって1時間経っても来なかった。
「マスター…遅いなぁ」
「私、様子を見てくるわね」
「待ってMEIKO、僕も行くよ」
年長組がそう言って席を立った時
「あ、来たにゃあ~」
「ニャ~」
いろはちゃんとサバ美が何かのレーダーのようにほぼ同時に反応した先を一斉に見ると、いつも通り大量の楽譜や詞や台本を抱えたマスターがよろめきながらやって来た。
「マスター!遅かったですね」
「どうしたんですか~?」
「え?あははっ、ちょっといろいろあってね~」
マスターはプライベートを私たちに語らない。いつも何か聞かれては適当に流してはぐらかすのだ。
「ごめんね、遅れて。まぁ、とりあえず曲3つと台本3つ用意したから」
誰が選ばれるのか、いつも和やかな我が家に少しだけ緊迫した空気が流れる。
「まずLilyソロ曲ね、次ユキと先生でデュエット、ラスト曲・・・ミク、ソロ曲ね」
「は、はい!」
やった、今回ソロ曲を貰えたんだ!
またVOCALOIDの歌を歌えるんだ!
「じゃあ次~、リンレン漫才好評だったからもう一回」
「「えぇ~!また!?」」
いともたやすく想像することができる黄色のきれいなハモリが我が家に響いた瞬間、ほんの少しの緊迫した空気が崩壊し、また、いつもの和やかで騒がしい家に戻った。
「マスター!りおんもいつか、ミクさんとデュエットしてみたいです!りおんは、ミクさんみたいなアイドルになりたいんですよ!」
「ん~・・・まぁ・・・考えとくよ・・・忘れてたらごめんね」
「えっ!本当ですか!?絶対ですか!?すぐっすぐ考えてください!」
リンちゃんとレンくんの綺麗なハモリもりおんちゃんの強引なお願いも聞こえないほど私は期待に胸を膨らませていた。
それから数日たったある日、私はマスターに呼び出された。恐らく新曲のことだろう。
少し緊張しながらマスターの作業部屋のドアを軽く叩く。
トントン
「マスター、ミクです。」
「あぁ、入って」
私はゆっくりとドアを引くと、マスターは笑顔で私を向かえてくれた。
「し、失礼します。」
「あははっミク、緊張してる?」
「え?あっい、いや、そ、そんなこt」
「はははっ、そんな緊張してるの?今まで何回も歌ってんじゃん」
何回歌っても慣れない緊張感が私を襲う。マスターの曲を私の歌唱のせいで汚すわけにはいかない。その思いが毎度私を大きなプレッシャーとなって私を押しつぶす。
「ははっ、でも、そうだね。今回の曲はミクにとっては・・・」
「えっ?なんですか?」
「・・・なんでもない。」
マスターの顔が一瞬切なく歪んだ気がした。
ガチャッ
「し、失礼しました・・・」
「うん・・・」
マスターの作業部屋からルカ姉と相部屋をしている自分の部屋に向かう。
真っ直ぐ続く廊下の突き当たりにあるその部屋を開けると、ルカ姉は自分のベットですやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
私は起こさないように自分のベットに静かに腰を下ろすと、イヤホンを付けて先ほどマスターから貰った曲のMDをプレイヤーに入れて再生する。
うん。やっぱり、マスターの曲は良曲だ。
私はマスターの曲に聞き入りながら、ふと歌詞に目を落とす。
先ほど、マスターの作業部屋で渡された曲は今まで私が歌ってきた曲とは全然違うものだった。
女の人が男の人に想いを伝えるJ-POP系の曲、言わば「誰もが歌える」歌だったのだ。
なぜ、この歌を、私が・・・?
私はVOCALOID、初音ミクとして生まれた。
私の生きる希望は、VOCALOIDだから出来る「歌を歌うこと」。
私には、VOCALOIDには、それしか生きる道はないと、昔、むかし、誰かに言い聞かされたことが、生まれたての幼い頃の記憶の中にかすかに残っている。
私がこの歌の中で、生きる道は一体何処なのだろう?
不意に零れた一滴は、一度こぼれ出したらもう止まらなかった。
私は森の中に取り残された迷い子のように、溢れ出す涙を止めようともせず、泣き続けた。
【小説】戸惑と回答1
「初音ミクの消失」のCDを改めて見てて、ふと妄想が溢れ出した。
ネギトロな妄想が。
というわけで「初音ミクの戸惑」のストーリーを元に書いてみましたが・・・思ったより長くなってしまった!!
しかもこの回で終わらなかったw
というかりおんちゃんのキャラがW○RKING!!の山田みたいになったw
「初音ミクの消失」のCDの内容が含まれるので、投稿していいのか悩みました。
なので規約違反等ございましたらご連絡ください。早急に削除いたします。
と言う訳で「戸惑と回答2」に続きます(執筆中)
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