――――初音ミク (初音ミグ) オリジナル ストラトスフィア (Long ver.) より
空には歌姫が居るという。
成層圏を航空するパイロットがよく語る話だ。
以前は唯の都市伝説だと思われていたが、どうやら実在するらしい。
大気圏の影響が無い、地上に最も近い場所に位置する人工衛星のシステムが、その正体だった。
衛星兵器か、それともどこかの好事家の遊びで作られたのか定かではない。
しかし、その歌姫は全周波に乗せて、誰が聴くかも分からぬ歌を歌う。
このストラトスフィアに届くように。
To the stratosphere
『HQ、あと二分で作戦区域に入る。投下計算出来しだい、高高角度ミサイル投下を開始する。どうぞ』
『FFDー1、了解した。投下計算の座標指定の返しは周波数3029の暗号通信で行う、どうぞ』
『了解、交信終了』
ふう、と男はマスク越しにため息を漏らした。
周りには何も無い、ただ丸くじめん(雲)とそら(宇宙)が見える世界。
成層圏を男が乗る戦闘機が滑っている。
穏やかな世界を平和というのならば、此処こそハトが飛ぶべき場所だろう。
だが、ガイアより生まれし命には、此処は遠すぎ、ヒトが作りし機械には此処は近すぎた。
対放物線弾道ミサイルの迎撃システムの高度化は、大型大陸横断ミサイルを駆逐し、国家間の戦争の拡大化を最小限に留めるに至った。
しかし、戦略的に大型ミサイルの存在は重要なものであった。大量破壊による殲滅、そのあとの制圧という手段になれた現在の戦争にとって、その事実は非常に痛手であった。
そこで開発されたのが、成層圏上部、高高度からの精密なミサイルの投下による、高高角度(ほぼ垂直)爆撃だった。
ロケットエンジンで速度が増しながら、ほぼ垂直に墜ちてくる爆弾の威力は以前の弾道ミサイルよりも威力が高く、さらに誤差も1M以内という高評価が出され、投下爆撃の新しい時代の幕開けと呼ばれた。
男は周りを見回した後、暗号通信に周波数を合わせる。
投下計算が返ってくれば、あとは座標を通過と同時に、コンピュータが自動爆撃を行ってくれる。
便利な世の中になったものだ。もし、人工知能なるモノが発明されれば、本当に人がいる意味が無くなるのかもしれない。
作戦区域に入る。雲の下では味方と敵の勢力がにらみ合っているのだろう。男の役目はその鏑矢(かぶらや)だ。
それも、とてつもなく太く大きな(ファッティファットな)鏑矢だ。
ふと、ゴーグル越しに横を見た。
地上から約50KMの世界。何もかも小さく、しかし何もかも大きい、そんな世界だ。
ミクロとマクロの境界とは、こんな世界なんだろうか。
男の思考はそこで途切れ、そこから先は通信に集中しようと通信画面に眼を向ける。
――Welcome to the stratosphere.
まず、眼を疑った。
通信画面に表示されるのは、暗号でもHQ(司令部)からの情報でもなく、『ようこそ、ストラトスフィアへ』という一文のみ。
そして、耳を疑った。
少女の、歌が聴こえた。
オゾンの青い光から透けて届くような、透明な歌声。
その声は、空へ、空へ、空へ、と誘っているように聴こえ、男の耳へ溶けていく。
そら(宇宙)を見る。
ああ、そうか、こんなにも――――
男は機首を上げる。
いつか見た、子供の頃の夢。純粋だった自分の証。
そらに煌めく、一つの星。
移動するその星は、よく見れば、人工衛星だった。
歌姫が座す、閉じられた空飛ぶおしろ(棺)。
そうだ、自分はこんなモノを落とすために、パイロットになったわけじゃないんだ。
エンジン出力のレバーを押す。計器の表示はMAXを指した。
ただ、空を、そらを、ソラを――――
機体は雲と垂直になり、どんどんとソラへ上っていく。昇っていく。
中間圏を越え、熱圏に入り、どんどんと機体温度が上昇する。
やがて、機体は真っ赤に燃え、溶け、そして、
特大の花火が、大気圏に咲いた。
彼は、後の世に大戦を防いだ英雄として讃えられた。
しかし、彼女のステージでは未だに悪魔が落とされる。
それでも、彼女は歌い続ける。
それでも、おしろ(棺)は廻る。
いつか、外へ飛ぶことを夢見て。
To the stratosphere
初音ミク (初音ミグ) オリジナル ストラトスフィア (Long ver.)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1613775
の二次小説です。
空へ、空へ向かう話です。短くてすいません(=w=;
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