ついこの間、我が所属する会社に新人が入ってくるという知らせを聞いた。まさかこうも早く我にも後輩が出来るとは思っていなかったのでどう先輩らしく振る舞っていいかわからない。こんなに緊張したのは久しぶりな気がする。我がこの会社に入って初めて仕事がきた時以来だ。

だがプロデューサーからどのような人物か全く聞かされていない。男か女かも、新しい後輩についての情報は何ひとつ知らないのだ。少し理不尽である。女であれば尚更どう接していいのだろう…。
ただ単に偉ぶればいいというわけではないことはわかっているが、どうも我の先輩方を見ているとなんか難しそうである。そういう意味では体を張って接しているカイト殿はとても尊敬できる先輩である。…が、いきなりあのような馴れ馴れしくはできない。されど第一印象が肝心…やはり先輩方に尋ねたほうがよいのだろうか…。

と一人準備室で考えているとドアをノックする音がし、そのあとにプロデューサーが何枚かの紙を抱えて入ってきた。

「えー、がくぽさん…今お時間よろしいでしょうか」
「よろしいも何もお主が呼んだのだろう…」
「ええ、まあ…」
今日のプロデューサーはなんだか様子がおかしい。いつもと違ってぎこちない
「今日はどういった御用だ?また曲の仕事としては随分忙しいな…」
「…えーいやーそのー…」
「何なのだ、勿体振らないで早く話せ」
「………実は…………」
ドアの向こうから聞いたことのない女の声がする。我はたいして気にしなかった。それより何の話だろうか…プロデューサーはようやく口を開いた

「前話した新しい新人……今日来ることになっちゃった。てかきちゃった☆」



あまりにも突然すぎた

そのまま数秒流れた

「…は、はあ!?あまりにも急すぎるでござる!!今更普段のテンションに戻っても嬉しくない!!まだ心の準備も何も出来てないでござる」
「わわわわっ、落ち着いて!僕喋れないよ!」
「……これが落ち着いていられるものかっ……」
思ったことを一気に吐き出したものだから軽く酸欠になりかけた。
「…………んで、その新人とやらは今どこらへんにいるのだ…まさか…」
と言いかけ我は力なくソファーに座った。なんとなく、嫌な予感がしてならない
「もう部屋の前まで来てるよ」
「……………………………」
予感は的中した

「…なぜお主はいつもそう急なのだ…」
「僕も急だったからびっくりしたんだよ。でも帰ってもらうわけにもいかないしねー…君どーせ家で茄子食べてるだけで暇でしょ?」
プロデューサーも色々と大変だったみたいだから何も言わないがいちいち余計な一言が多い。お主まで我は「いつも茄子を食べるイメージ」しかないのか…
「ちなみに昨日の夕餉は麻婆豆腐であった…」
「やっぱ食ってるじゃん…じゃなくて!せっかくすぐそこまで来てもらってるんだから挨拶ぐらいはしておかないと!」
「わかっておる!そう急かすな…」
今短い時間でどう挨拶すればいいか考えているというのにそう急かされては考えがまとまらない。だがドアの向こうから「まだかなー」という声が聞こえたものだから更に焦ってしまう

「まあちゃちゃっといきたいから言うけどさ、普段君が皆にこんにちはーとかありがとーとか言うみたいにさ、最初からフレンドリーにいったら後になってもお互い絡みやすいじゃない」
「…そういうもので…ござる?」
「ござるはどういった時に使うんだい君は…」
珍しくプロデューサーらしいこと言ったので反応に困ったが確かに彼が言ってることについては納得できる。そうだな、大事なのはつまり第一印象

「やあ、はじめまして!僕はアイス愛するVOCALOID…KAITOだよ!あっはは、よろしく!」

とかの先輩みたいな感じでいけばよいのだな?いいのだな!?
「GUMIちゃーん、入っていいよー」
待て!!!

ドアから入ってきた、この間から話題になっている新しいVOCALOID…我が会社の、我の後輩…そやつはプロデューサーに一礼した後我の前に来て背筋を伸ばしてまっすぐこちらを見上げて
「は…はじめましてっ!この度インターネット社で新しいVOCALOIDとしてやって参りました!めぐっぽいどと言います、グミと呼んでください!よろしくお願いしますっ」
最初は緊張したのだろうが前々から練習していたかのようなほぼ完璧な挨拶に態度からして真面目で明るく活発と出会ってから好印象である。さすがに「ナスを愛でるダンシングサムライ!」なんか言えるわけもない…先輩がふざけていてはどうする…

「まあぶっちゃけ兄妹みたいなもんだからそんなかたくならなくていーからね」
「あ…はいっ」
兄妹みたいなものか。まあそう言われればそうかもしれぬが…待て、先輩後輩というよりそちらの方が親しみやすいかもしれないな…
「ほらー早く挨拶しちゃってー」

仕方ないな…



「……我…私がお主の先輩にあたる、がくっぽいど又は神威がくぽと申す者である。先輩だからといってそこまで敬わなくてもいい…むしろ兄のようなものだと思ってくれても構わん……き…」
「…?」
「………気安く…お兄ちゃんとでも呼んでくれ………」





今更ながら、後悔した




「………………」
グミは目を丸くしてこちらを見つめてプロデューサーは「お…お兄ちゃん…!」と口元を手で押さえて笑いを堪えている。だって…リン殿やミク殿はよく「KAITOお兄ちゃん」って呼んで親しんでいるではないか。

するとグミは照れ笑いを浮かべ俯くもすぐにまた我と目を合わせる
「えへへ…えーっと…お、お兄ちゃんでいいんですか?」
「……え!?あ、ああ…うんまあ…そう呼んでくれたら…」
変な顔はされなかったどころか快く受けてくれた。我も正直こんな反応が返ってくるとは思ってなかったので困ったものだ。するとさっきまで笑っていたプロデューサーが二人の間に入って我とグミの手を取って強引に繋がせた
「…待て、なにをする!」
「プロデューサーさん!?」
「まあまあこれからもっと仲良くなってもらわなきゃいけない訳だし?ほら、親睦を深める意味での握手ぐらいしとかないと」
と満面の笑顔で無理矢理握手をさせる。プロデューサーも挨拶が予想より上手くいったのを喜んでいるみたいだ


こうして、とりあえず彼女との初めての対話も上手くいきこのままいけばきっと今より更に仲を深めることが出来るのではないかと期待に胸を膨らませていた


はずだった

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【小説】神威がくぽの憂鬱 1話「お兄ちゃんと呼んで」

がくぽさんとこにめぐぽさんが入ってきたお話。ちらほらオリジナル設定もあります。プロデューサーとマスターは別です

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投稿日:2012/02/05 17:28:15

文字数:2,670文字

カテゴリ:小説

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