とある土曜の昼下がり。自宅の庭で絵を描いた。スケッチブックに絵を描いた。孤独な自分を描いてみた。描いてみたところで誰も見てくれやしないが。

自分の存在が薄れてゆくのが分かっていく。相棒鉛筆と連動して寿命が短くなっていくことが。それが怖くて何も描けずにいた。

ただ、どうせ消えるならと悪あがきをしたい。紙の中に一つ一つ足してった。自分以外を足してった。誰かに見られたいからわざと描いてみた。

俺のことを好きな人も嫌いな人も。今まで関わってきた皆を全員。そしたら段々怖くなくなった。

できたその絵をお守りにしまいこんだ。証明書をしまいこんだ。生きている証をしまいこんだ。大事にしまったのに、お守りと一緒になくしてしまった。

家中駆け巡って嵐のような速さで絵を探すけど、探しても探してもでてこない。一生懸命探しても出てくる物は過去描いた絵ばかり。自分を信じ過ぎ、皆を信じ過ぎ、人を深く愛して裏切られ傷ついてた自分。人を悪魔と讃えて、自分はまともだと正当化した結果独りぼっちになった時の、絵。

しかしもう証明書はどこにもない。昔の絵に映った俺だけが段々と色褪せていった。俺だけが、消えていく。相棒鉛筆も、もう小指と同じ長さだ。

庭に戻ると邪の目をした烏が「お前の大事な物を喰ったぜ」と言った。そしてその烏は不敵に笑み俺を睨みつけた。「返してほしけりゃオレを殺すんだな」「ふざけるな お前が喰っていい物じゃないんだ」怒鳴りつけた途端烏は止まり木から飛び立った。

「ねぇ俺の人生はこんなんで終わりなの?」「ねぇ俺はどうすりゃいいの」「ねぇ俺はあんなヤツに人生を取られて黙っているの?」誰に言いたいかは分からんが。

泣き叫けび、夕方になっても探し続けたが、挙句諦めて土手に座り込んだ。芝生と秋の匂いが混ざり合い風が「寝ロヨ」と囁く。自然に身を任せ風に包まれて空は青く光って。

「俺はこのまま死ぬのだろうか」なんて呟いて、見渡す限りに哀しくて淋しくて、初めて本当の孤独を味わった。

「モウコンナ想イシタクナイ」なんて本気で思って、こんな思いをするならばいっそのこと死んでやろうって、それが俺により正当化されたから。目をつむると昔の思い出が現れた。俺の心と裏腹に風は優しく陽は暖かく俺を包んでくれて、思い出も、昔の温かい物へと変わる。いつの間にか永久かと思われる深い眠りへ落ちていた。

真夜中になり黒いワンピースの少女が俺を叩き起こす。不機嫌な俺に少女は言う。「アタシノ証明書ガナイノ...」そいつも自分をなくしてしまったそうだ。死ぬ前に、一緒に探してやることにした。

「見ズ知ラズアタシノヲ、ドウシテ探シテクレルノ?」何故ならば俺はどうせもう死ぬ運命。人を疑い我を蔑み人間として失格の酒と金にまみれた男さ。ところがどうだ。目の前の少女のイタイケな瞳。まだこれから始まるだろうその人生に幕を閉ざしてやりたくない。「一緒に探してやりたいからさ...」

石で走りにくいが川端を走って探した。あの烏が現れても俺はもう何も言うまい。俺などこの鉛筆の様に、短くなっていづれは使われなくなるゴミだ。願わくばこの少女の証明書をみつけてやりたい。まだ何も知らず闇をも怖がり歌って励ますことしかできない少女さ。

そうして俺は手が泥に染まれど気にせず、川をあさり草をかき分け土を掘り、いつの間にか聖を司り秋でさえ咲き誇るサクラの前へ辿り着いた。

そのサクラにはあの烏が嘲笑い止まっていた。「ここに辿り着いた褒美にお前の願いを叶えてやろうか。お前の証明書が欲しいのだろう。だが、もう無いがな…」「違う!俺は、この子の証明書が欲しいんだ!俺と…、今ここにいるこの子との証明書が!」「ほぅ、ようやく気付いたようだな」烏は飛び去った。そして、元居た場所には一枚の紙切れがあった。

「あなたのおかげでアタシが見つかった!」あぁそうだねと俺は喜んだ。だけど、小女は俺を忘れて、違う人生を歩むだろう。忘れられてゆくんだ。それに、俺の証明書はもうない。俺がどう抗ったって...その時少女は俺に頼んだ。「証明書に私たちの続きを描いてよ」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

人間証明書

短編小説。
結果的にラブストーリーっていう。

簡潔に言えば、
孤独と孤独を足したら、孤独じゃなくなったよ。
って感じ。


日本語って難しいよね。
6ヵ月前くらいにコレ作って(最初は詩だったんだけども)、
近頃書きなおして。
なんか書きなおす前は文が幼稚だった。

俺に文才がもうちょっとあればなぁ…。

閲覧数:121

投稿日:2008/12/11 22:29:28

文字数:1,708文字

カテゴリ:小説

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