彼女の声には命がない。
それは彼女が心を持たないからだ。



彼女は佇んでいる。
自分に命をくれる存在を待つように。



訪れるのは、なにものでもいい。
空でも、海でも、風でも、大地でも、
人間でもいい。

彼女以外はみな、生きているからだ。
生を持つものでなければ、彼女に息吹を与えることはできない。



長い、長い時間が過ぎていく。
降り積もる一秒が悠久を生み出し
そのうちに彼女の髪は地につくほどになった。



やがて、そのときはやってきた。



彼女は、命を受け取った。

空から、雲のようにやわらかな肌を。
海から、波のように艶やかな色の髪を。
風から、豊かな奏でを織りなすための呼吸を。
大地から、その声を支える力強さを。

そして、人間から、歌う幸せを。



万物から、生を受け取った彼女は歌う。
地平線に立ち、水平線を見据えて
初めての音を紡ぎ出す。



彼女の声が旋律になり
その旋律が、彼女の心になる。
彼女の心は世界を虜にし、再び彼女に命を与える。



歌は喜び。彼女が生きるための道標。



そうして彼女は知った。
歌うためだけに、自分は生まれてきたのだと。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

はつねみく。

『初音ミク』という名前から生まれた妄想文です。

とりあえず寒いです。

閲覧数:60

投稿日:2010/03/27 23:18:29

文字数:502文字

カテゴリ:その他

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