黒色の半袖Tシャツとパンツに着替える、勤務先の制服である七分袖で甚平風の紺色シャツとバンダナキャップに合わせる感じで。
仕事に行くときはいつもこんなような服装をしている。
部屋を出てアパートの階段を下りたところで足が止まった。
階段は、道路に面した玄関がある表側から裏の駐車場側に向かって下りていく形になっているため、表に出るには隣の民家の石垣とアパートに挟まれた路地をちょっとだけ歩かなければいけない。
ちょうどそこに、デニムのパンツに緑色の半袖Tシャツを着た若い女がこちらに背を向けながら立っていた。
マッシュルームみたいな形の黒髪と小麦色の肌、これはたぶん1階に住んでいる晶(あきら)さんだ。
そんなに親しくはないが同じアパートに住んでいるし働いている飲食店にも食べにきてくれるから会話をすることはある。
とはいっても相手のことはよく知らない、彼女は自分のことをあまり話さないからだ。
たぶん年齢は同じくらいだと思う。
性格はさばさばした感じだろうか。
喜怒哀楽を面に出さない人で、いつも無表情に近い顔をしている。
「お、おはようございます」
普段のように挨拶したつもりだったが、焦ったような変な感じになってしまった。
周りの人が少女になってしまっていたから、姿が変わっていない人に出会えたことで動揺したのがそのまま出てしまった感じだ。
振り返ってこちらを見た彼女は少しの間を置いたあと、表情を変えずに口を開いた。
「おはよう、悟くん」
小麦色の肌が似合うどことなく少年っぽい彼女、少年っぽいといっても見た目や声は普通に女性だ。
顔立ちも整っていて、いわゆる美人というものなのだろう。
身長も未来とあまり変わらない。
ただ、中性的とでもいおうか。
今日もいつものように化粧をせずに男物みたいな服を着ている。
ちなみに体型は太ってもいないし痩せてもいない。
「今から仕事?」
意識して普段のように話そうと思うがなかなか言葉が出てこない。
あることが気になっているせいで、返事をするだけでいっぱいいっぱいになる。
「あ、仕事です、あの店の」
この世界で起こっているあの異常な現象のことを彼女は知っているのだろうか?
それを尋ねてみたかったが、どう切り出せばよいのかわからなかった。
【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(16)
ある日、突然、世界中の99.9999%の人間が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。
混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の1人・佐藤悟は…というお話。
なお、携帯電話で見ることを前提としているので、独特の文体で書いています。
・文の終わりに改行。
・段落ごとに一行空ける。
そのため、段落の一字下げなどは省いています。
見難くなっていたら、すいません。
意見があれば見直します。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想