神
この世界で絶対的な力を持ち出来ないことなんて何もない完璧超人。
生も死も司り、罪人には天罰を善良な人間には幸福を与えると言いつつも、実際は多くの罪人はほったらかし、なんの悪行も働いていない人を不幸のどん底に突き落とす悪魔みたいな奴。
若しくは極度の面倒くさがりで何もしなかった結果がそういう結果をもたらしているのか、はたまた信者が言うほど全知全能じゃないのか。
とにかく俺がこの世で最も信用できない存在だ。
「君は神の存在を信じるかい?」
そんな無神論者の俺にその男はそう聞いてきやがった。
まぁ今この場にケンも居るけど、もろ俺の方を見ながら喋ってるから対象は俺だろうな。
身長は俺より少し高い、髪は銀色のセミロングで黒のレザージャケットを着ている。
腰からはチェーンがぶら下がり、靴はロングブーツ。
どう見ても有神論者ではなく、ロックバンドに所属してそうな見てくれだ。
しかしまぁ、見てくれはどうであろうとこういうのに関わっても何の特も無いし興味もない。
「あ?信じねぇよ、そういう系の勧誘は他あたってくれ。」
そういってその場を立ち去ろうとする俺の腕を掴んで尚も男は続ける。
「君じゃないとダメだから聞いているんだよ。」
「放せ、信じないっていっただろう。」
「じゃぁ聞き方を変えよう、もしこの世界に神と言う存在が居るとしたら・・・・・君はどうしたい?」
「んなインチキ野郎が本当に居るとしたら一発ぶん殴ってやるよ。
答えたぞ満足か?」
思ったままを口にしてそいつの手を振りほどいて距離をとった。
「おい俊、こいつなんか変だぞ・・・・・」
んなことわかってんだよ・・・・・
こいつなんつー力してやがんだよ・・・・・
麻痺してたのか、手を振りほどいて距離をとった時に初めて気づいた痛み。
掴まれていた左手首を見ると短時間だったにも関わらず紫色に変色していた。
「あんたただの宗教勧誘の人じゃなさそうだな・・・・・」
「少しは話を聞いてくれる気になったようだね。」
「下手に喧嘩しても勝てそうじゃないし、聞くまでは解放されそうにないんでな。」
そう言うと男はふっと笑って話始めた。
「自己紹介が遅れて申し訳ない、俺は詩麒、神に仕える15人の聖人、その神器の一つのだ。」
詩麒ろ名乗った男、彼はどこからどう見ても人間だ。
だが詩麒は自分の事を"神器"と、つまりはモノだと言ったのだ。
その言葉のためか、それとも彼の醸し出す独特な雰囲気のためか、どちらにしろ彼の言葉に嘘はないと感じた。
「それで?その詩麒さんが俺に何の用?」
「今言った通り俺は神器、使う人間居なければただそこに有るだけのモノだ。
しかし俺達の所有者、15人の聖人は今居ないんだ。」
「で、居ないから俺にその聖人とやらになれと?」
俺の問いに詩麒は察しがいいとでも言うかのようにニヤリと笑って頷いた。
正気か?
詩麒がその神器ってのだと信じたとして、無神論者である上に何の力もない何処にでもいるような高校生がどうすればその聖人になれるって言うんだ。
「悪いけど、俺にはそんな大層なもんになる価値もないし、そんなもんに相応しい力もない。」
「価値はある、力も俺と契約すれば開放される。
俺には君が必要なんだ・・・・・」
詩麒はそう言って俺をまっすぐに見据えた。
その目はどこまでも澄んだ水のように青く、力強いものだった。
そんな目で見られたら詩麒の言うことを全て信じてしまいそうで俺は目を反らしてしまった。
「俺は・・・・・俺は神なんてものを信じない・・・・・答えは変わらない・・・・・」
そう言うと俺はケンに合図してその場から歩きだした。
詩麒も諦めたのか、黙ってのそれを見送った。
「おいおいしきぃ~、フラれてんじゃねぇかよぉ~」
ラリったような若い男の声。
詩麒の声じゃない、もちろんケンの声でもない。
むしろその声は俺達の立つ位置からではなく、更に上から聞こえてきた。
「お前はいちいち回りくどいんだよ~」
上を見ると電柱の頂上部に人影が座って俺たちを見下ろす形で存在していた。
「ニーズヘッグ・・・・・」
詩麒はそう言いながら男を見つめる。
「そろそろその呼び方はやめろって言ってんだろぉ?」
「そういえばそうだな、何の用だラーゼン?」
詩麒は口調を全く変えず、冷たく言い直し再びラーゼンを見た。
「ニーズヘッグ・・・・・」
隣でいたケンが呟いた。
「なんだ人間~俺の事を知ってんのかぁ?」
ラーゼンはケンを小バカにしたような顏をして言った。
いや実際に小バカにしてるんだろう、ケンではない、人間をだ。
「君たちの世界の伝説の生物のなかに居るだろう、彼がそれだ・・・・・ニーズヘッグ・ラーゼン」
「お前らみたいな下等生物に馴染んだ名なんざ使いたくねぇんだよ人間。」
尚も表情や口調を変えないラーゼンだが、不快に思っているのは分かる。
どうやら本気でその名が嫌いなようだ。
「話が逸れてるな、ラーゼン、お前はここへ何しにきた?」
あまり仲が良くないのか、さっきから詩麒はかなり冷たい反応をしている。
「わかってんだろお前と同じ理由だよぉ、つっても俺はお前がだらだら話した挙げ句に交渉失敗した奴を無理やり契約させるつもりなんだがなぁ。
昔からお前の目は信頼してんだぜぇ。」
この口振りだとこいつも詩麒と同種か。
「悪いけど詩麒同様あんたにもついていくつもりはない。」
俺がそう言うとラーゼンは一笑して電柱から飛び降り、着地するとズイと俺に顏を寄せてきた。
あの高さから軽く着地を成功させ、平然としているところを見るとこいつが特殊であることを認めざるを得ない。
外灯にに照らされたラーゼンは目がでかく、その目は狂気に満ちていた。
少し長めの紫色の髪は淡い光に照らされ、不気味に揺れていた。
「勘違いすんなよ人間~、お前に選択権なんざねぇ、契約しちまえばそいつは今後嫌でも戦う羽目になんだよぉ、この意味分かるかぁ?」
ラーゼンは嘲るように笑いながら俺を見て言った。
「つまりは契約さえしてしまえばあとは勝手にあんたらの思い通りに動いてくれると。」
「そう言うことだぁ、つぅわけで契約させてもらうぜぇ、抵抗すんじゃねぇぞぉ。」
そう言うとラーゼンは俺の胸にてを伸ばしてきた。
その手を弾いて下がる俺を見て舌打ちすると腰からぶら下げてたでかいナイフを抜き、何のためらいもなく隣にいたケンを切りつけた。
「抵抗すんなっつったろぉ。」
「ケン!!」
「ニーズヘッグ!関係ない人間を巻き込むな!」
急いでケンに駆け寄ったがケンは動かない。
傷口は大きく裂け、そこから大量に出血している。
「ケン!おいケン!」
俺の呼び掛けにケンは反応しない。
「死ぬ・・・・・のか?」
「あぁ~たすかんねぇだろうなぁ~お前が悪いんだぜぇ~」
俺のせいで
ケンが死ぬ?
「ふざけんな」
神も仏もないと言った奴は世の本質を見抜いてる。
俺もそう思う、現に今まさに何の罪もない人間が、大切な友人が唐突に命を落とそうとしている。
もし神なんてものがいるとすれば、今すぐここへ連れてこい。
俺がその神を殺してやる・・・・・
「おい詩麒・・・・・」
まだケンは生きている。
直ぐに病院へ連れていけば助かるはずだ。
その為にはそこにいる気違いをなんとかしなきゃいけない。
現状で唯一それが可能な力を持ってるだろう存在。
その唯一の可能性の名を呼んだ。
詩麒はニーズヘッグから俺へと視線を移した。
「契約でも何でもしてやる・・・・・だから今すぐ力を貸せ。」
詩麒は意外そうな顏をした。
そんな顏するな、神とやらを本気でぶっ飛ばしたくなっただけだ。
お前の話も期間限定で全部信じてやるよ。
「いいのか?」
何度も言わせんな
「はやくやれ、はやく俺にそいつを潰させろ。」
詩麒は一呼吸してにこりと笑うと「わかった」と言った。
「させるかよぉ!」
ニーズヘッグ妨害しようと動いた、が、詩麒はそれを許さなかった。
「騒ぐな」
詩麒がそう言った途端、俺と詩麒を囲むように光の壁、いや電撃によって作られた壁が出現し、何者も立ち入れない俺達だけの空間が作られた。
「後悔はしないか?」
「原因はお前だ、責任とれ。」
そう言って俺がニヤリと笑うと、詩麒はそれ以上なにも言わず、俺の胸元に指を添えた。
俺の普通の生活
その最後の瞬間だった
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