命じられた買い物を済ませて戻ってくれば、居間の片隅で不幸属性撒き散らして再起不能のあいつが蹲っていた。
どうやらまた盛大に課題曲をとちって叱られたらしい。
マスターもいい加減あいつを無理に調教しようなんて考え改めたらいいのに
「…おい」
「……」
「今日俺が飯の当番なんだが、お前何か食いてーもんあるか」
「……………」
完全に反応がない。俺が帰ってきたことにすら気づいてねえのかも。
どうにか回り込んであいつの顔を下からのぞいてみても、うっとおしい前髪に隠れて表情は見えない。
舌打ちをして顎を掴んで顔を上げさせた。
掴まれた痛みにようやく我に返ったらしいが、俺を視界に入れ、痛みの原因が分かると無言でこちらを睨みあげてくる。
一瞬罪悪感のようなものが頭の隅に浮かんだがすぐに消えた。
正直言って力加減なんか分からないし、涙目で睨まれたって痛くも痒くもない。
「飯、何かくいてーもんは」
「………カレイの煮付け」
「カレイなんかねえよ、ていうかそりゃあマスターの好きな食いもんであってお前の好きなもんじゃねーだろうが」
「…でも、マスター、怒ってるし…だから」
そう言ってまた俯いて、目尻には新たな涙が浮かんだ。
いらいらする。
「あいつの調教にも問題があるんだ、お前だけのせいじゃないだろ」
「………でも、私なんかどうせ」
ああ、本当分かってねえ
「おまえ、その『私なんか』ってやめろ。聞いてるこっちがムカつく。」
「…どうして。そんなの、知らない。」
「いいから止めろよ。うぜー」
俺の口から飛び出すきつい言葉にびくびくしながら、それでもなんとか気丈に振舞おうとするその瞳とか
今にも零しそうな嗚咽を抑えるために引き結ばれた、薄くて不健康そうな色なのに目が離せない唇とか
あいつの底なしの過剰意識のせいで、無駄に何かを背負ってそうな華奢な両の肩とか折れそうな腕とか
抵抗すんのが馬鹿らしくなるくらい俺の意識を持っていく
その当人が自分自身を卑下するなんて、物凄い腹立たしいことこの上ない
(だって、そうだろ。)
例えばこいつが、こいつの持ってない何かを羨むとして
緑頭みたいに年がら年中頭に花咲いてる様な笑顔とか
ショートボブのボイン女みたいな大人っぽさとか
キーキーうるさいリボンのちびみたいな陽気さとか
その片割れの無愛想なガキみたいな冷静な思考とか
(認めたくはないが)俺の色違いみたいな温和さとか
そんなもんを何一つもってなくて
他のどんなボーカロイド程も上手く歌えなかったとしても
俺はきっとそんなの全然かまいやしないんだろうから
(むかつくから死んでも口に出して言ってなんかやんねーけど)
*****
「……今日鮭の塩焼きときんぴらな」
「…え、でも、なんで」
「俺の気分だ」
(嘘。だってお前、好きだろ。)
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