(注意:この小説にはBL要素がほんとうに僅かながら含まれます。多分大抵の方は「え、BL…?」と首を傾げるレベルのものですが、嫌いな方はご注意ください)



天才には奇人・変人が多いとはよく言ったものだと常々思う。

発明王と名高いエジソンは小学校のとき教師から問題児の烙印を押され学校を中退した。だが、母に学問や研究などの教えを請い、今の地位まで上りつめたのだ。
また幕末の偉人、坂本龍馬も様々な要因で塾でいじめに合い、抜刀騒ぎを起こして塾を中退、その後姉である乙女に武術などを習っている。
つまり何が言いたいかというと、他人と違う才を持つ者は、他人と一風違った感性・考えを持ち、時に相容れないこともあるということだ。

そして自身が一般人だと自負している鏡音レンは、今まさに他人と一風違った感性を持つ人間達のやりとりを前に、立ち往生しているのである。


「あぁ!ミクジマさん、どうして…っ!」
「落ち着いて、カイコさん…っ」
「落ち着いてなんて…どうしてミクジマさんが…っ!」
「落ち着いてください、始音さん。今、捜査中ですので」
「…刑事さん」
「下がってましょう、カイコさん…」
「えぇ…」
「それで、カイトウ警部。例のものですが…」
「ん、了解。それは鑑識にまわしておけ、ハツネ刑事」
「はい」

そう、ちょうどこんな小芝居を前に。



「……………なにやってんの」


レンは脱力して部室内(ちなみに彼らは全員声楽部である)で忙しく動いていた二人に尋ねた。
すると、部屋の真ん中で「ミクジマさん」と呼ばれる人形を囲み、高低音の声色を自在に使い分けていた初音ミクとKAITOは戸口で突っ立っていたレンを振り返り、


「「殺人事件簿ごっこ」」


と声を揃えて言う。
そうじゃなくてな、とレンは頭を抱えた。
レンが言いたいのは、そもそもなんで殺人事件の現場なんかを再現しているかってことであり。
というか、二人で何人もの人間を演(や)るな。
違和感なさすぎて逆に怖いから。
そう考えるも、レンは首を振って溜息をつくだけに留めた。
言ってもこの二人には伝わらない。感覚の違いという奴である。

でも、とりあえずこれだけは、とレンが口にしたのは。


「演るなら、一人一役にしろ。分かりにくいから」


あと不気味だから、とは心で付け足した。
レンのその言葉に、ミクは口を尖らせて不満を述べた。


「えー、だったら"カイコさん"と"ミクヤナギさん(カイコを宥めてた人)"しかできないじゃんー。カイトウ警部とハツネ刑事は誰がやるのー?」
「むしろ、やらないっていう選択肢はないのか」
「あ、もしかしてレンもやりたかったとか?」
「人の話を聞け、バカイト」

首を傾げながらトンチンカンなことを言うKAITOを鋭く睨むことで黙らせ、レンは再度溜息をついた。
この二人をまともに一人で相手にしたら、それだけで体力の殆どを根こそぎ持っていかれる。
長い付き合いでそれを重々承知していたレンのスルースキルは、もはや達人並であった。


「…で、メイコさんは?」
「ちょっと遅れてくるから、先に部活始めてろだってさ」
「…………始めてねぇじゃねぇか」
「レン君たちを待ってたんだよー」


ほけほけと笑い合うミクとKAITOにレンの頭は更に痛くなった。
この二人が歌唱界の超新星だなんて、世も末だ。特に初音ミクの方は百年に一人の逸材だと近年持て囃されているのだが……………実物はコレである。
全く、エジソンや坂本龍馬もビックリだ。
レンが遠い目でそんな現実逃避をしだした時、ミクジマさんを抱き起こした(絶対片付けるためではない)ミクはキョトキョトと周囲を見回してから、レンを見やった。


「リンちゃんは?一緒じゃないの?」


ミクにそう問われ、レンは先程まで一緒だった片割れの顔を思い浮かべる。
そして、あいつは多分今泣きべそかいてんだろうなぁ、と苦笑した。
ここに来る数分前、担任に引きずられる形で生徒指導室に連行されたリン。
恐らく一昨日あったテストの結果について、泣き付かれているのだろう。リン、赤点だったし。
レン自身もさほど良い点数だったとは言えなかったが、赤点は免れたから、まぁ善しとすることにした。

数学が苦手なリンは毎回テストの後で担任と

「どうしてお前は数学が、むしろ数学だけ出来ない!?」
「人には向き不向きがあるんですぅ!」

などと埒のあかない言い合いを飽きずにしている。
―――だがなぁ、それにしたって、あの点数はないよなぁ、とレンは苦い顔で笑った。
あれは出来る出来ないの範疇をぴょーんと軽く超越しているのだ。
人には向き不向きがあるというリンの言葉は、まさにあの現象によく当て嵌まっている。
リンに数学は向かない。むしろ鬼門なのだ。
しかし担任はそんなことも言っていられないのだろう。何せ、教えることを職にしているのだ。
雀の涙ほどの点数しかとれない生徒を教え点数を引き延ばすのもまた、彼らの仕事なのだ。
だから、担任は何度もマンツーマンでリンの頭に数学の公式を叩き込んでいる。
今日もそうだろうから、きっと下校時刻まで解放してもらえないだろう。


「あー…リンは」

今日の部活は多分休む、と言いかけたところで部室のドアが勢いよく開かれた。
そこにいたのはちょうど話題にのぼっていたリンで。
滑り込むように部室に入り、ドアをすばやく閉めたリンは、そのままドアに張り付き、廊下の様子を伺っている。
その様子からレンはリンのしでかしている(現在進行系)ことを悟った。


「お前、さては逃げ出してきたな…」

呆れを含んだ声でレンがきくと、リンは「てへ☆」と舌を出して笑った。図星らしい。


「ごまかすな」
「もー、レンは相変わらずうっさいなあ」
「お前がいい加減だからだろ」
「人間、リンキオーヘンが大切なんだよ?」
「お前のそれは臨機応変とちがう。ただ、いい加減なだけだ」


はぁと溜息を漏らしたレンを、リンは暫くぶすくれた顔で睨んでいたが、気が済んだのか、「今まで何してたの?」とミクに尋ねる。言うまでもなく、戻る気は更々ないらしい。
レンとリンの動向を黙って見ていたミクは、急に水を向けられて、一瞬ピクンと肩を跳ねさせた。が、そこは部内で1番上手い立ち回りを誇るミクである。待ってましたとばかりにミクジマさんをリンの鼻先まで持ってきて、どこぞの教祖様よろしく「やぁ」のポーズをとらせた。


「殺人事件簿ごっこやってたの!私はハツネ刑事とミクヤナギさん役なんだ」
「ちなみに俺はカイトウ警部と始音カイコさん役だよー」


それまで椅子に腰掛け、一人無心にアイスを頬張っていたKAITOが久方ぶりに会話に加わる。KAITOの着いている机の上には既に空のアイスのカップが二・三個重ねて置いてあった。
会話に加わらなくなって数分しか経っていないのに、その間に平らげられていたアイスの量にレンは呆れた。


「ペース早…。どんだけアイス好きなの、カイトさん」
「もう無限大かつ無償の愛を捧げられるレベルに達してるね」
「どうせなら人に捧げろよ……」


メイコさんとかさ、とは言わなかった。
突き返されるのがオチだからだ。さすがに自ら傷付きに行けと言える程、レンは無情ではなかった。
だが、KAITOは「あー…」と上を見上げながら、目をしかめる。


「もう突き返されてるからなぁ…」

………既に捧げた後だったらしい。
レンは目に見えて落ち込んだKAITOの肩を軽く叩き、励ましてやった。
確実に砕けるのが分かっているのに、わざわざ砕けに行くその心意気だけは立派だ。自分にはとても出来ない。


「俺、たまにカイトさん尊敬するよ」
「レン………それ、俺は喜んでいいの?」


複雑そうに眉を下げてそう訊いてきたKAITOに返す言葉は見つからなかった。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】馬鹿と天才はなんとやら【ギャグ】

続きは前バージョンリンクからどうぞ。





閲覧数:884

投稿日:2010/07/18 18:03:38

文字数:3,252文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • 秋徒

    秋徒

    ご意見・ご感想

     またコメントさせていただきました。秋徒です。
     前回書かれていたのと違いギャグ全開で、投稿作品で確かめるまで同姓同名(?)かと思いましたw つっこみ所が満載でとても面白かったです!
     個人的にめーちゃんに告白して玉砕してた兄さんの話がツボでしたw 私も小説を書いているのですが、こんなに面白い話を短期間で作るのは無理なので羨ましいです。
     相談なのですが、これからもちょくちょく見に来るのでファン登録しても大丈夫でしょうか? もしアレでしたら返答で書いてください。
     また次回を楽しみにしてます(*´∀`)

    2010/07/19 11:47:11

    • 奈月

      奈月

      再びコメントを頂き、ありがとうございます。
      えー…実は、きちんとしたギャグ作品を書いたのはコレが初めてだったりするので、そう言ってもらえて本気で安心しました。
      にしても同姓同名ってw まぁ確かに前作があんななので、そう思われても仕方ないかもしれませんが(´・∀・`;)
      兄さん玉砕の話は私がカイメイ好きのために入れてしまいました(笑)兄さんが不憫なのはもうデフォだと(←)

      ななななんか勿体ない言葉の乱舞で軽く挙動不審になりそうです…っ。秋徒さんの小説のが面白いですよ! でもありがとうございましたっ!|´ω`)ノシ

      2010/07/20 00:25:28

クリップボードにコピーしました