※諸注意
これは悪ノ娘、悪ノ召使をジョナサンが勝手に解釈して小説化した二次創作作品であり、原曲の裏設定その他諸々とは異なります。
* * * * *
空が、朱い。
硝子が、熱い。
夕陽に染まった外から響くのは蜂起した民衆の声、戦いの音、誰かが命を落とす断末魔。
…こうなることは、初めから分かってた。
いつも優しい光を落としていた自慢のステンドグラスは、今は酷く歪な光を玉座に投げかけている。
金髪の少年は溜め息を一つ吐くと、玉座を振り返った。
そこに座る少女はガタガタと怯えたように震えていて、一言も発さない。
少年によく似た顔と、まったく同じ金髪の少女──…
少年はそっと玉座に歩み寄り、俯いている少女に手を伸ばした。
「───リン、僕は」
少年が声をかけると、少女は弾かれたように顔を上げた。
気の強そうな顔が悔しさに歪み、頬を涙が濡らしている。
「嫌よ…!嫌よ、嫌よ!どうして…!?私は、私は全てを手に入れていたのに!」
「…違うよ、リン。全てを手に入れてなんか、いなかったんだ。リンはお金で手に入るものしか手にしていない」
「……っ!」
「青の王子の心も、国民の信頼も僕達は手に入れられなかった。…だから、君は早くここから逃げるんだ」
少年は全て諦めたかのように微笑んで、ゆっくりと少女の頭を撫でた。
少女は反射的にそれを払いのける。
乾いた音が、響いた。
「身の程をわきまえなさい!たかが召使の分際で!」
「…リンは忘れてしまったの?僕は君の召使だけど、それだけじゃない」
「知ってるわよ!だから、アンタこそ早く逃げればいいじゃない!悪いのは全部…っ」
「違う。僕達は双子なんだ。…だから、半分は僕の罪だよ」
止めようと思えば、止められた。
こんなことになる前にリンを諭す力が僕にはあったのに。
これは、沢山の命より…たった一人の姉の笑顔を取った、僕の罪。
(ならば、僕は最期までそれを貫こう)
王女の笑顔のために僕が殺した、大切な人の命に報いるためにも。
「ほら、立つんだ…リン。これを着て逃げて」
少年に差し出された男物の服を、少女はぎこちなく受け取った。
「でも…どうやって逃げるの?ここに私がいないと分かったら、きっと奴らは血眼で私を捜すわ!」
「…大丈夫だよ、リン。君の代わりの王女ならここにいる」
「え?」
「ここには、君と同じ血の流れる…君と同じ顔の召使がいる。召使は王女を逃がして…自分が王女になるんだ」
少年の言葉の意味を理解した少女の顔から血の気が引き、慌てて少年にしがみついた。
「嘘…!やめて、レン!そんなの嫌よ!!」
「僕はリンが殺される方がもっと嫌だ。…時間が、ないんだ」
少年はにっこりと笑い、少女を引き寄せて抱き締めた。
「大丈夫、僕らは双子だよ。
──きっと誰にも分からないさ」
「───…!」
じわり、と少女の視界が歪み、涙で少年の顔が見えなくなった。
「さよなら、リン」
耳朶で響く、弟の優しい声。
涙を拭おうとした少女の身体が抜け道へ押し出され、バタンと扉が閉まった。
「やだ…っやだ!!開けて、開けてよレン…!私達、双子でしょ…?独りにしないで…っ」
ねぇ、あの時──…
君はどんな顔をしてた?
我が儘ばかり言って、周りが見えてなかった私は…結局最後まで勝手に泣いて、大好きな君の顔を見れなかったの。
いつも私の傍にいて、何でも叶えてくれた君に…結局何もしてあげられなかった。
私には、あなたの願いを叶える力があったのに。
───────……
「…あなたは、誰なの?」
赤い鎧の女剣士は、目の前の少女を見て小さく眉をしかめた。
王宮に押し入り、ついに王女を捕らえた直後…何となく感じた小さな違和感。
でもこれはきっと、気のせいなんかじゃない。
牢屋に捕らえられた王女は、何も言わずに格子の向こうの青空を見つめている。
「…どうして、あなたはそこにいるの?」
その問いに、悪の王女はかすかに微笑んだ。
自嘲でもなければ諦めでもない、全てを受け入れたかのような笑顔。
丁度その時、時を告げる教会の鐘が三回鳴り響いた。
煌びやかなドレスを纏った少年が、ゆっくりと口を開く。
「…あら、おやつの時間だわ」
「───…そう、ね」
結局、何が善で何が悪なのか…それは誰にも分からないことだった。
【未来を変える力はあったのに】
(私は私しか見ていなかったから、)
(僕だけは味方で在りたかったから、)
(愚かさ故に、何もできなかったんだ)
End..
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