‐あの夜、私の所に魔法使いが来た…――夢を叶えてあげるって…――その代わり、終わりを迎えるその時まで舞台を上演し続けろって…私、馬鹿ね……そんなことしたって、神威とは結ばれないのに…‐
眉尻を下げたルカに、申し訳ございませんと神威はいとおしそうにルカの頭を撫でた。
‐お嬢様を幸せに出来る自信が無かった私が悪いのです…――貴女を愛していたのに、自信がなかった…駆け落ちする勇気さえ、私にはなかったのです…――ミクさんの言う通りです。私はただの根性無しでした…‐
ルカをぎゅっと抱き締めて、額へとキスを落とす。
何なんだよこいつら。本当に羨ましいぐらい愛し合って、両思いではないか。私とは大違いだとミクは腕を組んでそっぽを向いた。
「本当よ、もうっ! 全部アンタのせいなんだから!」
‐いいや。オレ達にも非はあった‐
そう声を発したのはカイト。メイコもその傍らに、眉尻を下げて笑んでいた。
‐身分の違いで、ルカを幸せに出来るはずないと決めつけてしまったんだ‐
‐だから、ルカの心の闇を作り上げてしまったの…魔法使いの手を借りて、この家の者、皆に呪いを…──ごめんね、ルカ…!‐
メイコはくしゃりと顔を歪め、またごめんなさい、とルカに謝った。
顔を覆った母の元へ、ルカは「悪いのは私の方」だと首を降った。
‐私は、私の我が儘でみんなをこの地に縛り付けてしまった…――これは、私の弱さです…だから…――‐
「あぁん、もう! 何時まで此処で反省会するつもりなの、アンタ達は!」
ルカも神威も、カイトもメイコも、今まで黙って立っていたグミも、リンもレンも、此方を向いてキョトンとした。
「早く天国でも何処でも行きなさいよ! なんなら、挙式でもあげてくれば良いんだわ! 私は絶対に行ってやらないけど!」
ぷいっとミクが顔を背けると、レンを覗いてみんなクスクス笑った。
‐こんな最高のバッドエンドはないわね。帰って、パーティーでもしましょうか‐
そう言ったメイコに、レンは「何処にー?」と首を傾いだ。カイトはその頭を撫でながら「天国だよ」と笑った。
すると、彼らの背後が急に輝きだしたではないか。金色の光は霊体である彼らに、影をうっすらと浮かびあがらせた。
暖かな光が、彼らとミクを照らし始めたのだ。
そうか。お別れなんだ。
ミクは呆然と、永久の夜から解放された住人達を眺めた。
ルカと神威の結婚祝いをしようとカイトが笑うと、リンが「歌って、踊って、騒ぐ?」と手をパチンと叩きあわせた。あの無愛想だったリンが笑っている。とても可愛らしい少女だったんだ、とミクは思った。
あぁ、そうしようとカイトがリンの頭を撫でた。家の主人らしく、優しくて…──と思っていたらメイコがその頭を小突く。
‐酒、持ってきなさいよ‐
‐おい。今から飲むのか?‐
あったり前じゃない! とメイコは先程の大人しそうな雰囲気がぶっ飛んで、カイトの頭を骨ばった部分でグリグリと痛め付けた。
‐祝い酒よ祝い酒! 神威が主役なんだからアンタ持ってきなさい!‐
‐そんなぁ。メイコが飲むって言ったら、凄い量飲むじゃないか‐
かなりやり手の奥さんらしい。まるで自分の母のようだ。
‐旦那様! 私がお手伝いします!‐
‐いや…グミは…──うん。ルカの衣装を着させる手伝いをしてて欲しいかな‐
‐グミ、すぐ転ぶもんねー?‐
‐転ぶもんねー!‐
双子にからかわれて、グミは大丈夫だと言い放ったが、レンにスカートを捲られると「きゃー!」と悲鳴を上げた。
レンは直ぐにリンへ耳打ちすると「グミのおぱんつクマさんだ!」と大声で知らしめた。
先へ駆け出す双子を、グミが恥ずかしそうに「こらー!」と怒鳴りながら追いかけていった。
‐ありがとう、ミク…‐
再びミクに礼を言ったルカは…──昨夜会った時とは違って、子供っぽい笑顔を浮かべていた。
きっと、本当のルカの笑顔なんだ、とミクは笑みを返した。
「どういたしまして」
彼らは光の先へと歩いていき、いつしか形も光の中に溶け込んで姿が見えなくなった。
薄く線をひいていた彼らの影も消えて…――光は、失せていく。
まるで、連れていくべき彼らを飲み込んだことに、仕事が終わったと喜ぶように。
そうして、ミクの目の前には廃墟が何でもないように広がった。
外から、チュンチュンと鳥の鳴き声。それは、長閑な朝であると教えてくれた。
Bad∞End∞Night【自己解釈】⑪~君のBad Endの定義は?~
本家様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16702635
役者達には、果たしてバッドエンドなのだろうか。
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