一
帝に代わり神に仕える
新たな伊勢の斎宮が
とうとう出発なさったが
斎宮の母の御息所も
あまり例のないことではあるが
付き添って共に下られた
恋人である源氏の君は
引き留めもせずつれないが
御息所の恨みが募り
怨霊となって奥方に憑き
その死を早めたことを思えば
無理もないことであるだろう
それでもやはり別れは惜しく
一度は会いに訪れた
蔑ろにして追いつめて
身から魂が離れるほどに
苦しませたのは源氏の君で
本来立派な方なのだ
御息所は会ってしまえば
またも心が乱れると
おわかりゆえに悩んだものの
ここまでおいでになっているのに
追い返すことはおできにならず
迎えなさったということだ
二
今の帝と源氏の君の
父院さまがご病気で
帝が自ら見舞うほど
東宮(こうたいし)さまは異母弟なれど
源氏と一緒にお支えせよと
院は繰り返し言い遺す
やがてお隠れあそばしたので
世の人々は悲しんだ
帝の祖父のあの大臣が
これから自分の思いのままに
政治を動かすのだと思うと
とても嘆かずにいられない
帝に代わり神に仕える
賀茂の斎院 退下する
亡くなった院の娘ゆえ
喪中となるので続けられずに
源氏が朝顔かつて贈った
従姉の姫君 後を継ぐ
手の届かない人になったと
思えば燃える恋心
源氏の君のいつものお癖
帝の祖父らに疎ましがられ
出世の見込みが減ることよりも
ままならぬ恋に悩んでる
三
院の中宮 藤壺さまは
久方ぶりに三条の
実家(さと)へとお帰りあそばした
院ももういないためであろうか
歯止めの利かない源氏の君は
策を巡らして迫られる
藤壺さまはあまりのことに
倒れてしまい寝込むほど
ここまで拒絶されるなんてと
源氏の君は衝撃を受けて
思い知れとでも言わんばかりに
文も出されずに引き籠もる
会わずにいれば恋しさ募り
気分を変えに寺籠もり
いっそ出家してしまおうか
けれどもそれでは同居している
年若い妻が可哀想だと
すぐさま考え直された
寺から妻に文を送って
ちょうど賀茂にも近いので
そちらにもまた文を書かれる
斎院さまから返事が来たが
本当を言えばよくないことだ
神に仕える方としては
四
気を落ち着けて寺から帰り
帝のもとへ挨拶に
兄弟の仲はおよろしい
源氏は帝を 亡き父院に
似ていらっしゃるとしみじみ思い
帝は源氏をそう思う
学問のこと 恋歌のこと
二人親しく語り合い
神に仕える斎宮さまに
心惹かれたと帝が言えば
その母君との思い出話
源氏も打ち明けられたとか
帝もお気にかけているのは
異母弟である東宮(こうたいし)
院の遺言もあるゆえに
自身は大事に思っているが
皇太后さま 大臣さまに
逆らいきれないご性格
その後源氏は藤壺さまに
結局会いに行く途中
皇太后の甥を見かけた
こちらを見やって口ずさむのは
謀反に関する漢詩の一部
当てつけがましいことだった
五
院が亡くなり一年経って
藤壺さまが主催して
大きな法要 開かれる
亡き父 亡き母 亡き院のため
そうして迎えた最終日には
なんとご自身が出家する
あまり源氏がまとわりついて
不安がらせたせいだった
いつか世間の噂になれば
元々こちらを憎み抜いてる
皇太后らが何をなさるか
東宮(こうたいし)さまがどうなるか
驚き嘆く源氏の君は
後を追うわけにもいかぬ
源氏の君まで出家して
俗世を離れてしまったならば
いったい誰が東宮(こうたいし)さまを
支えられるというのだろう
尼になられた藤壺さまに
源氏といえど手は出せず
ただ生活の援助をなさる
安心されたか酷くは避けず
お相手くださるようになられて
少しは心が慰まる
六
帝の祖父の大臣さまの
思いのままの世の中が
源氏の舅は気に食わぬ
左大臣として院の時代は
権勢を振るう側だったのに
今ではすっかり様変わり
内裏もあまり行かなくなって
致仕(いんきょ)を申し出るまでに
帝は院の遺言もあり
頼りになさっていらしたゆえに
辞表を何度も拒んだものの
とうとう引き留められなんだ
源氏の義理の兄弟たちも
昇進できぬようになる
義兄の三位の中将は
あの大臣には娘婿だが
別段親しいわけでもなくて
特に扱いは変わらない
それで落ち込むお人ではなく
源氏のもとへいらっしゃり
昔のようにあれこれ競う
学びも遊びも 法要までも
博士ら集めて漢詩の会を
子供も加えて宴会を
七
皇太后の妹君は
女官・尚侍(ないしのかみ)になり
妃に準じるお扱い
けれども今でも源氏を慕い
源氏の方でも忘れられずに
恋文交わしていらっしゃる
帝も知っておいでなのだが
しかたがないと目をつぶる
源氏が先で自分が後だ
前から恋仲だったというし
まして似合いの二人ではないか
自分で自分に言い聞かせ
尚侍が体調崩し
実家(さと)へと一時下がられる
回復したので今こそと
源氏は夜な夜な訪ねていった
あるときにわかに雷雨になって
帰るに帰れず夜が明ける
父の大臣 おいでになって
ついに源氏を発見す
皇太后もそれを聞かれて
にっくき源氏がいっそう憎く
今に見ていよと心に誓う
果たして源氏の運命は
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