帝に代わり神に仕える
新たな伊勢の斎宮が
とうとう出発なさったが
斎宮の母の御息所も
あまり例のないことではあるが
付き添って共に下られた
恋人である源氏の君は
引き留めもせずつれないが
御息所の恨みが募り
怨霊となって奥方に憑き
その死を早めたことを思えば
無理もないことであるだろう

それでもやはり別れは惜しく
一度は会いに訪れた
蔑ろにして追いつめて
身から魂が離れるほどに
苦しませたのは源氏の君で
本来立派な方なのだ
御息所は会ってしまえば
またも心が乱れると
おわかりゆえに悩んだものの
ここまでおいでになっているのに
追い返すことはおできにならず
迎えなさったということだ




今の帝と源氏の君の
父院さまがご病気で
帝が自ら見舞うほど
東宮(こうたいし)さまは異母弟なれど
源氏と一緒にお支えせよと
院は繰り返し言い遺す
やがてお隠れあそばしたので
世の人々は悲しんだ
帝の祖父のあの大臣が
これから自分の思いのままに
政治を動かすのだと思うと
とても嘆かずにいられない

帝に代わり神に仕える
賀茂の斎院 退下する
亡くなった院の娘ゆえ
喪中となるので続けられずに
源氏が朝顔かつて贈った
従姉の姫君 後を継ぐ
手の届かない人になったと
思えば燃える恋心
源氏の君のいつものお癖
帝の祖父らに疎ましがられ
出世の見込みが減ることよりも
ままならぬ恋に悩んでる




院の中宮 藤壺さまは
久方ぶりに三条の
実家(さと)へとお帰りあそばした
院ももういないためであろうか
歯止めの利かない源氏の君は
策を巡らして迫られる
藤壺さまはあまりのことに
倒れてしまい寝込むほど
ここまで拒絶されるなんてと
源氏の君は衝撃を受けて
思い知れとでも言わんばかりに
文も出されずに引き籠もる

会わずにいれば恋しさ募り
気分を変えに寺籠もり
いっそ出家してしまおうか
けれどもそれでは同居している
年若い妻が可哀想だと
すぐさま考え直された
寺から妻に文を送って
ちょうど賀茂にも近いので
そちらにもまた文を書かれる
斎院さまから返事が来たが
本当を言えばよくないことだ
神に仕える方としては




気を落ち着けて寺から帰り
帝のもとへ挨拶に
兄弟の仲はおよろしい
源氏は帝を 亡き父院に
似ていらっしゃるとしみじみ思い
帝は源氏をそう思う
学問のこと 恋歌のこと
二人親しく語り合い
神に仕える斎宮さまに
心惹かれたと帝が言えば
その母君との思い出話
源氏も打ち明けられたとか

帝もお気にかけているのは
異母弟である東宮(こうたいし)
院の遺言もあるゆえに
自身は大事に思っているが
皇太后さま 大臣さまに
逆らいきれないご性格
その後源氏は藤壺さまに
結局会いに行く途中
皇太后の甥を見かけた
こちらを見やって口ずさむのは
謀反に関する漢詩の一部
当てつけがましいことだった




院が亡くなり一年経って
藤壺さまが主催して
大きな法要 開かれる
亡き父 亡き母 亡き院のため
そうして迎えた最終日には
なんとご自身が出家する
あまり源氏がまとわりついて
不安がらせたせいだった
いつか世間の噂になれば
元々こちらを憎み抜いてる
皇太后らが何をなさるか
東宮(こうたいし)さまがどうなるか

驚き嘆く源氏の君は
後を追うわけにもいかぬ
源氏の君まで出家して
俗世を離れてしまったならば
いったい誰が東宮(こうたいし)さまを
支えられるというのだろう
尼になられた藤壺さまに
源氏といえど手は出せず
ただ生活の援助をなさる
安心されたか酷くは避けず
お相手くださるようになられて
少しは心が慰まる




帝の祖父の大臣さまの
思いのままの世の中が
源氏の舅は気に食わぬ
左大臣として院の時代は
権勢を振るう側だったのに
今ではすっかり様変わり
内裏もあまり行かなくなって
致仕(いんきょ)を申し出るまでに
帝は院の遺言もあり
頼りになさっていらしたゆえに
辞表を何度も拒んだものの
とうとう引き留められなんだ

源氏の義理の兄弟たちも
昇進できぬようになる
義兄の三位の中将は
あの大臣には娘婿だが
別段親しいわけでもなくて
特に扱いは変わらない
それで落ち込むお人ではなく
源氏のもとへいらっしゃり
昔のようにあれこれ競う
学びも遊びも 法要までも
博士ら集めて漢詩の会を
子供も加えて宴会を




皇太后の妹君は
女官・尚侍(ないしのかみ)になり
妃に準じるお扱い
けれども今でも源氏を慕い
源氏の方でも忘れられずに
恋文交わしていらっしゃる
帝も知っておいでなのだが
しかたがないと目をつぶる
源氏が先で自分が後だ
前から恋仲だったというし
まして似合いの二人ではないか
自分で自分に言い聞かせ

尚侍が体調崩し
実家(さと)へと一時下がられる
回復したので今こそと
源氏は夜な夜な訪ねていった
あるときにわかに雷雨になって
帰るに帰れず夜が明ける
父の大臣 おいでになって
ついに源氏を発見す
皇太后もそれを聞かれて
にっくき源氏がいっそう憎く
今に見ていよと心に誓う
果たして源氏の運命は

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

10.賢木

源氏物語、第十帖。

※「ノベルアップ+」及び個人サイト「篝火」でも公開中。

もっと見る

閲覧数:95

投稿日:2025/09/14 20:30:50

文字数:2,120文字

カテゴリ:歌詞

クリップボードにコピーしました