UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」

 その14「ユフvsタイプN」

 無数の矢を受けて、サラは倒れた。
「ユフ、あとは、まか、せ、…た」
 そのサラの頭上を白い塊が通りすぎた。
 白い塊は両手、両足を力一杯伸ばして、ユフに変わった。
 ユフのハーフコートが風を受けてはためいた。
 ユフが何かをタイプNに向かって投げつけた。
 それは防弾ガラスにぶつかって拡がったあと、凍りついた。
 続けてユフが投げつけた何かは防弾ガラスに当たって白く凍りついた。
 タイプNは最初はユフの意図が分からなかった。
 ユフの四投目で防弾ガラスの向こうのユフが見え難くなって、はっと気づいた。
 ユフは何かを同時に六個投げつけた。
 防弾ガラスの向こうのタイプNが隠れただけでなく、防弾ガラスの高さが20メートルしかないことを明らかにした。
 ユフからは見えないが、この時タイプNの表情は歪んでいた。
 着地したユフはタイプNに向かって駆け出した。
 様々なトラップが動き始めた。
 砂の下から飛び出したトラバサミは生き物のようにユフに噛みつこうとしたが、牙が閉じた頃にはユフは通り過ぎた後だった。
 落とし穴も口を開ける前にユフは飛び越えていた。
 ユフの行く手を遮るように突き出た槍をユフは軽々と飛び越えた。
 そして、白く凍りついた防弾ガラスがユフの目前に迫ってきた。
 そのすぐ手前、ユフの左右斜め前に、高さ3メートルの支柱のようなものが二本現れた。
 ユフはすぐさまブレーキをかけた。
 支柱の間隔は20メートルほどで、間には何も無いようだった。
 ユフは支柱の間、氷ったガラスの向こうのタイプNに向かって、氷の矢を投げつけた。
 矢はガラスに届く前に支柱の間で溶けた。
 ユフは少しも落胆した素振りを見せず、ハーフコートの下から赤い布を取り出した。あのサラが使った赤い布だった。
 ユフは赤い布を二枚、軽く丸めてそれぞれ左右の支柱に向けて投げた。
 支柱が赤い布を拒絶するように放電を開始した。
 その間隙をつくようにユフがガラスに取り付いた。
 ガラスが割れた。
 割れたガラスの破片はユフの方へ飛び散った。
 その向こうからユフに向かって、黒く鋭い影が飛びかかった。
 予想していたようにユフは黒い影をひらりとかわした。
 ユフの目の前、数メートル先に、タイプNが立っていた。小隊長の資料にあった黄色い髪をサイドテールにまとめた特徴的な髪型をしていた。
 ユフはガラスの向こうに足を踏み入れた。
 一歩踏み込んで、ユフはすぐに足を引いた。
 その足を追いかけるように、砂の中から何かが跳ね上がった。
 カミソリのように薄いそれは 、ユフの履いていたブーツの爪先、2センチほどを切り落とした。
 鈍く輝くそれはステンレスの巨大なカッターナイフの刃だった。
 一歩下がったところで同じものがユフの背後に現れた。
 飛び退いたところでユフを真っ二つに切り裂くつもりだったのかもしれないが、それは寸前で回避された。
 ユフの密編みが半分の長さになった。
 ユフは大きく跳躍し、一気にタイプNに迫った。
 空中で氷の槍を構えたユフに、同じものが襲いかかった。
 五本の刃がユフに向かってきたが、それらは全てユフに届く前にユフの投げつけた凍気によって凍りついた。
 タイプNは後ろへ飛び退いた。
 ユフとタイプNの着地は同時だった。
 ユフは少し屈んだ体勢から膝を伸ばしながら、氷の槍を構え直した。
 この時、タイプNの表情は少し焦ったようにひきつっていた。
 ユフは勝利を確信して、槍を少し引いた。
 同時にタイプNも口元に笑みを浮かべていた。ユフははっとなって足元に視線を落とした。
 その時、ユフの足元から三本の槍が飛び出し、ユフを貫いた。
 貫いた槍の先は、緑色の液体で光っていたが、すぐに霜がつき凍り始めた。
 同じようにユフに刺さった槍を緑色の液体が滴り落ちて氷った。
 続けて先ほどと同じカッターの刃が二枚、飛び出してユフの右手と両足を切り落とした。
 ユフは慌てず左手に槍を作り出して構えようとした。
 その左手を三枚目の刃が砂の中から現れ、切り落とした。
 タイプNが一歩、ユフに向かって踏み出した。
 タイプNはユフを満足げな笑みで見つめながら言った。
「残念でした。届かなかったね?」
 ユフは、Vの兵士が話すのを初めて聞いた。
 ユフはタイプNの少しひねくれたような明るい声を聞いて、話しがしたくなった。
 しかし、すでに致命的なダメージを受けて、ユフはその時間がないと悟った。
 ユフは、タイプNに、別れを告げた。
「いいえ、届いたわ」
 ユフの言葉にタイプNが固まった。
 ユフを支えていた三本の槍が、水平に凪ぎ払われた。槍が刺さったまま、ユフの体が滑り落ちた。
 地面に落ちたユフの背後に、真っ赤な目をしたテトがビームサーベルを構えていた。
 ビームサーベルが再び水平に動いた。
 タイプNの首から上が消えた。
 タイプNが仰向けに倒れて、テトは力なく膝を落とした。

ライセンス

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UV-WARS・テト編#014「ユフvsタイプN」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「重音テト」の物語。

 他に、「初音ミク」「紫苑ヨワ」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2018/02/07 19:58:24

文字数:2,109文字

カテゴリ:小説

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