城に戻り、人魚姫は王女に席を外してとすぐさま話し、王女は唖然としながらなにも言わずに去った。
「君…声が出るようになったんだね」
はっきりと美しい声で言葉を話す人魚姫に王子は驚いていた。
「王子様お話があります」
「何だい?」
「王子様をあの日海から救ったのは私です。その証拠に貴方が海で拾ったというそのイアリング…」
王子が幸運の御守りとして持っていたその貝殻のイアリングは人魚姫がもつ片耳のそれとぴったり重なった。
「やっぱりリノールが嘘をついたのか…」
少し寂しそうに微笑んだ王子様は私を見て、にっこり笑った。
「俺は少し童話に興味があってね…特に人魚姫は」
「どうして人魚姫を…?」
「人魚姫ほど悲しく美しい物語はないからね。俺は君を初めて見たときに…一瞬で人魚姫を思い浮かべた」
「そうなんですか…」
「君のタイムリミットは?」
「あと2日です」
「俺が人魚姫の悲劇を変えてあげるよ」
「じゃあ……」
「リノールとの婚約は破棄だ。今から君との結婚式を急いで用意しよう」
「は…はいっ!!!」
すると王子は大臣を呼び出して、私にウェディングドレスを選ばせるように伝えた。
入り口で話を聞いていただろうあの王女いや魔女はどんな気持ちだろう。
そんなことを考えながらも私は目の前の幸せを掴み取った。
王子が部屋を出るとうつむいた王女がドアのそばにいた。
「リノール?」
「私…確かに嘘をついたわ。でも……スカイ兄様、瀕死の貴方を助けたのは」
「もういいよリノール…」
「最後まで話を聞いて!!」
王子はリノールの頭を撫で、優しく笑う。
「結婚式でラヴィアのヴェールを持ってくれるね」
「…わかりましたスカイ兄様」
儚い笑顔で頷いたリノールに王子は納得したように、自分の部屋へ帰っていった。
~鏡の海辺~
「リノール……」
「良かったねリン。レンは戻ってくるよ」
甘い表情で笑う彼女は既に居なくて、涙だけずっと零していた。
「………」
「私の存在理由はリンの弟を取り戻すため。このシナリオも全てわかってる」
「リノール…」
「でも……どうして涙が出るの?」
「それは……」
何も答えられないリンにリノールはしびれを切らしたように消え入りそうな声とは打って変わった声をだした。
「あんな嘘つき人魚バチが当たって当然よ!!!!!!!!!!」
そのリノールの叫びを聞いたリンは叫びを悔いて俯いているリノールをそっと魔法の力で抱きしめた。
「確かにリノールの言う通り…ね」
「リン……」
「貴女はもう一人の私。貴女の気持ちは痛いほどわかる…だから」
『結婚式をさせないためにレンを誘拐しましょう』
「…!!!!!そんなことしたらリンの計画が…!」
「これは賭けよ。どのみちレンは私の所に帰る契約。なら貴女は人魚姫から王子を奪い返しなさい」
そう言って強い表情で微笑むリンはこう続けた。
「ただし、レンに一切の危害を加えないこと。これだけは約束よリノール」
「わかったわリン」
そしてリノールは陸の世界へ、リンは海の世界へと戻っていった。
これが自分の運命を狂わせることは彼女はわかっていた。それでも……
彼女はそれだけ
もう一人の自分を愛していたのだろう…
そう今は信じたい。と私は思いながら本を再び読み出した。
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