「晶さん、今とても異常なことが起こってるって知ってますか?」
曲が終わったところで俺は話し出していた。
こらえきれずに溢れ出たように。
彼女と少しだけ距離が離れていたので大きめの声を出して。
その言葉に反応するように彼女は視線を空からこちらに戻すと、目を見つめてくる。
先ほどと変わらず無表情のままで。
「俺も理解できないんですけど、人がいきなり少女になってしまうっていうか」
彼女は黙ったままこちらの話を聞いている。
そこからは何も読み取れない。
まだ午前中なのに強い日差しが照りつけていて、頬に微かな痛みを感じる。
「いや、本当に意味不明だって自分でも思ってるんです、でも今インターネットでも騒いでて、実際に俺の親父も少女になってて、変装とかそういうのじゃなくて顔とか体とかも少女になってて」
彼女は何も言わないし表情も変えない。
それを見ていると自分が何を言っているのかだんだんとわからなくなってくる。
「親父だけじゃないんです、隣に住んでる未来も少女になっててしかも2人とも全く同じ顔をしてて」
今は未来も親父もいない、自分で言っていてもそれが本当にあったことなのか自信がなくなってくる。
なぜなら目の前にいる彼女はいつもの晶さんだし、人の気配が感じられないという点を除けば周りの景色も見慣れたものだったからだ。
でも明らかに不自然な先ほど流れた鏡音リンの曲は彼女も確かに耳にしている、そう言い聞かせながら話を続けようとすると、言葉が途切れたところで彼女の落ち着いた声が入ってきた。
「橙色の髪の女の子」
予想していなかったその言葉に頭を上下に振って答える。
彼女はゆっくりとした口調で話し続ける。
「瞳が鮮やかな緑色で」
彼女の声は少しだけ低い、普段の表情と同じで声にも喜怒哀楽を出さないからそう感じるのだろうか。
「たぶん声はさっき流れた曲の人と同じかな」
晶さんが何を言おうとしているのかよくわからなかったが、幾つかわかったことがある。
それは彼女も今この世界で起こっている異変を知っているらしいということ。
そしてもしかすると、鏡音リンのことも知っているのかもしれない。
【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(18)
ある日、突然、世界中の99.9999%の人間が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。
混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の1人・佐藤悟は…というお話。
なお、携帯電話で見ることを前提としているので、独特の文体で書いています。
『文の終わりに改行』
『段落ごとに一行空ける』
そのため、段落の一字下げなどは省いています。
見難くなっていたら、すいません。
意見があれば見直します。
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