遊郭は云わば檻
遊女は強いて言うなら自由のない蝶々とでも言えようか
その檻に捕まっている女共は
「生きた商品」と言えるかもしれない
その「商品」達は檻から出られない
外の世界も知らないままで
死に逝く定めとなって行く者も少なくなかった



遊郭遊戯 ‐ユウカクユウギ‐



「やまないのう…」
雨は絶えず降り続く
まるで花魁の涙のように――――――――
「おもしろうありんせん…」
こんな雨では外に出ることもできない
いや、鎖に繋がれている故に重りを着けて街を歩くこと自体無理であった

ここは吉原遊郭のとある店
最上位の遊女が居座る場所に
わっち、陰(イン)は居た

陰はそれはとても美しい遊女であった
夜空のような黒の髪に燃えるような真紅の瞳の売られた娘
親の借金の返済の手伝いとしてここへ連れられやってきたが、
客は皆汚く淫乱で吐き気がする

わっち…私はこの町が嫌いであった
このドロドロとした濁流のような人間社会
それが私の周りで渦を巻く

「こなことなら、わっちは…」

この言葉をさえぎるように部屋に入ってきた一人の禿(かむろ)

「陰太夫…お食事でありんす」
「三奈(ミナ)…か…食事なんていりんせん」

此処の飯はものすごくまずい
物理的なまずいではなく精神的にそう感じるようになってしまった
皆にとっては上手い豪勢な食事でも私は生ごみを食べているのと同じだった

「そんな …ちゃんと食べないとだめでありんす」
「食事がまずいだけじゃ…そう騒ぐなやかましい」

三奈は出来の悪い禿だ
よく食器を割るし、すぐ泣く
おまけに愚痴を私に零し私の言うこともまるで聞かない
しかし容姿は打って変って愛らしく、無垢そのものであった
柔らかい太陽のように煌く髪に私よりは薄いがそれでも凛とした炎の瞳
どこか憎めないところが私とは大違い
そんな彼女が眩しく見えたのだろう…私には

「あ、あの方!」
突然三奈が窓の外を見て叫ぶ
私も目を向けるといつもの常連客がそこに居た
金の髪を結いあげ深く海の色の年若き瞳がこちらを覗いている
と思いきやこちらに向かって歩みだしたではないか
「こちに来んすよ!どうしんしょう !?」
「落ち着け…三奈いったんこなたの部屋から出ろ」
「分かりんした…」
そういうと一礼して部屋を去った

三奈が去った後ちょうど10分後だろうか
さっきの常連客が部屋に入って来た
「まだその喋り方ですか」
「客のくせに偉そうな口を叩くな、何しに来んしたのだ」
「もう、癖ですか…馬鹿な人だ…親に捨てられたのに」
「直に迎えが来る…」
「それはつまり死ですね」
そんな会話を何分したのだろう
本当は元はこんな話し方ではなかった事を思いだす
この遊郭に来てから叩き込まれた話し方だった
姉様方はこれをありんす詩とかなんとかいってたような
「此処の生活には慣れましたか?陰太夫」
「こなところは、もううんざり」
「なるほど…ね」
「そんなことよりそろそろ名前を教えてくだすっていいではないか?」
「ただの浪人の常連ですよ、名前なんて僕にはいらないですからね」
此処で会話は途切れ、暫しの沈黙が続いた
この男はあの娘に似ている


あまりにも有名な話でこんな町外れのところまで噂は広まっている




名は「心中姫」

数十年前
昔、村で二人の赤子が産まれた 赤子は同じ時、同じ時間に産まれ、よく似た顔をしていたそうな
その赤子は有名な大名の子だったものだから村中祝福したらしい
しかし、赤子の父は大変横暴な方で、その赤子も、横暴な大名が女に
無理矢理孕ませて産まれた赤子だったという

それに、赤子の母には恋人がおったのだ
しかし、別の男の赤子を産んでしまったものだから、悲しみに暮れていた
赤子の母は大名の妻。しかし、赤子の母の男は貧しい農民。身分違いの恋であった
ある日赤子の母の恋人は、ひどい差別を受け、食べるものも与えられなく、病気にかかってしまった
そして男は、赤子の母の所を夜中に訪ね、こう申した

「共に命を絶とう」と

それだけではなく赤子の父のほうも妻の死に悲しみその命と小さな赤子と一緒にまた共に命を絶ってしまった

ところが近々その心中姫がこの近くの大名の屋敷に滞在しているとの噂が広まっている
それに弟のほうは行方不明のままだという

もしかして奴が…

「どうしました太夫?何かご不満でも?」
「いや何でもない…」
私は外に目を向けこう言い放ったそうな









「わっちをここから連れ出してくれ」






すこし考えた様子の常連はふと顔をあげた
「いいえ、それはなりません。外はここよりも穢れている
 綺麗な蝶は皆飾っておきたいもの。貴女はここで一生を暮すほうが性に合っている」
と一言

「さて、私は帰ります。またきっとここに来ますよ麗しい陰太夫」
常連は振り返りもせず最上位の間を後にした

彼が帰った後はとても虚しかった何かが欠けているような感覚に襲われめまいがする
もう一度、此処より穢れているという「外」へ目をやった


「自由がほしい」


いつの間にか雨はやんでいた
代わりにこの気持ちを知ってか知らずか七色のまるで可能性に満ちたように輝く虹が空をまたいでいた



                                       



                                              終わり







ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

心中姫のもう一つの物語  遊郭遊戯 -ユウカクユウギ-【自作亜種が出てきます】

ふみゅ様の「心中姫」の番外編を描いてみました
駄目文です、サーセン

心中姫プロローグ
http://piapro.jp/content/8n2y5xd0h7de7yhp
第一話
http://piapro.jp/content/4s9a0ye2lvj91g5q

ウチの亜種詳細
http://piapro.jp/content/duxns171587rrbtm
まとめて詰め込んでます

閲覧数:197

投稿日:2010/02/18 22:21:11

文字数:2,270文字

カテゴリ:小説

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  • どーぱみんチキン

    どーぱみんチキン

    ご意見・ご感想

    目からビーム!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!11
    失礼しましたこんばんは、ふみゅれす(´▽`*)
    登場人物の個性や性格がとても分かりやすくて、表現力もすばらしくて目からビームがでてきそうですぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
    と同時に、目から汁が・・・・
    。o゜(p´□`q)゜o。 <自分の文才の無さに落胆しちゃうお!
    最後のほうなんか胸にジ~ンときちゃいました・・・感動(涙
    前回に続き書いていただきありがとうございました!!
    あ、前回のイメイラでの感想で、一部誤字がありました。すみません;
    ブクマブクマ・・・
    書いていただき、本当にありがとうございました!!

    2010/02/09 18:15:40

    • 籠李

      籠李

      い、いや!全然そんなこと無いですホント><;
      勝手にレンきゅん出してしまって申し訳ないのが…あれです…なんかはい
      すいませんでしたorz
      カ、感動したなんてもったいないお言葉です(T∀T)/
      ブクマまでしていただきありがとうございました!m(__)m

      2010/02/09 21:22:00

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