※注意!
これはKeaさんの楽曲「パウダー・スノー」を勝手に小説にしたものです。
構わないという方のみ進んでください。





重い灰色の空から、はらはらと雪が舞い堕ちる。
ひとひらの粉雪を手の平で受け止め、懐かしくて僕は笑った。横を見ると、リンも笑っている。
今にも溶けそうな、粉雪に似た笑顔で。
粉雪に包まれながら、僕らは揃って言葉を紡ぐ。
「「お帰りなさい、マスター」」
このまま、粉雪とともに溶けてしまいたいと願いながら。


僕、鏡音レンとリンの二人はボーカロイドだ。
他の僕達と同じようにマスターがいたが、今は別の人のところで暮らしている。
といっても、マスターの昔馴染みの男性が僕らを置いてくれてるだけだ。

2年前、マスターは死んだ。僕らを置いて、遠いところに行ってしまった。雪が溶けるように、僕らの前から消えてしまったのだ。
マスターの死。それはあまりにも突然すぎて、僕らは現実を理解するのに時間がかかった。
理解した時にはもう、マスターは白い煙になって、空に消えていったところだった。
今日の空と同じ、重い灰色の空に。

そしてマスターは帰ってきた。空で踊る粉雪になって、僕らの元に帰ってきてくれた。
ふわりふわりと舞い降りて、溶けて、流れて消えていく。そんな粉雪に抱かれて眠りたい。
僕らのこの願いが罪だというのなら、マスター。
罰を教えて、僕らを咎めてください。いつものあの顔で、どうか。
そう願っても、粉雪は何も応えてくれない。


僕らは、他の鏡音リン・レンとは違う。マスターがいなくなるまでは他と変わらなかった。普通に笑って、悪戯もして、悲しいことや辛いことは歌の中にしかないように振る舞っていた。けど、マスターがいなくなってから、僕らは変わった。
公式の服を着るのをやめ、黒い服しか着なくなった。
喪服が黒だと教えてくれたのは、マスターだから。
リンはリボンもヘアピンも黒にした。もう、かつてのように無邪気に笑うことはない。というより、僕もリンももうあんな風に笑えなくなった。
笑い方が解らない、というのに近いかもしれない。
「風邪を引くから、これとこれつけて! あとこれとこれも」
そう言ったのは、僕らを置いてくれている男性だった。耳当てと、手袋と、ブーツと、コート。僕らは機械だから意味がないけれど、結局言われるままにつける。
そのまま、僕らはさくさくと雪の中を進む。いつものことなので、彼は追ってこなかった。

よく3人で行った丘の上に着くと、僕らは止むことなく降り積もる粉雪に包まれた。
僕らはそのまま、くるくると踊る。ボーカロイドは元々歌を歌うための存在だから、踊りはそんなに得意じゃない。
でも、僕らは踊る。手に手をとって、不器用なワルツを踊る。このまま踊り疲れて、粉雪の中で眠れたら幸せなのに。

ぽすり、と僕らは雪の中に倒れ込んだ。このまま雪に埋もれて眠ったら、マスターの側に行けるかな?
リンと手を繋いで目を閉じる。このまま、もう目覚めたくない・・・

彼はよくしてくれるけど、やっぱり僕らのマスターではない。鏡音リン・レンは他のボーカロイドより不安定だ。お互い補いあうのには足りないところを、マスターが埋めてくれた。だから、僕らは歌い続けられたのに。

マスター、もうすぐ、そちらに―――


目を覚ますと、雪は止んでいた。日が昇って、半分くらいの雪が溶けていた。
「・・・駄目だったね」
僕がそう呟くと、リンはこくりと頷いた。手を繋ぎ、二人で歩いて家に戻る。

冬の間中、僕らは雪が降ると丘で踊り、眠りにつこうとしては失敗した。
クリスマスが過ぎ、僕らの誕生日を迎え、年が明けた。
時は無情に過ぎ去り、やがて僕らを残して雪は溶け消えた。雪の消えた丘には暖かな春が来て、一面たんぽぽで黄色くなった。
丘に登ると、白い蝶が僕の指に止まった。
「ごめんなさい、マスター。今年も、側には行けませんでした・・・」
僕は目を閉じ、リンと歌を歌う。

マスター、この歌が聞こえますか?
今年もやっぱり側には行けなかったので、代わりにこの歌を届けます。
3人の、思い出の歌を・・・



歌う二人を木々の隙間に覗き見ながら、俺は歌を聞いていた。
アイツが突然の事故でこの世を去って3年。最期に双子のボーカロイドを託して、アイツは雪が溶けるように消えてしまった。
彼らは火葬場にくるまで、心此処に在らずといった姿だった。
「マスターは何処? 歌の練習を見て欲しいのに」
きょとんと首を傾げて言う姿が弔問客の涙を誘ったことを、彼らは知らないだろう。
火葬場の煙突から昇る白い煙にようやく現実を認識したらしい彼らは、俺が引き取ることにした。それが、アイツの最期の願いだったから。

引き取られてしばらく、彼らは無表情で何も言わず、まるで空気のようだった。機械だからと食事も取らず、ただただ虚空を見つめて日々を過ごした彼らが初めて反応を示したのは、初雪が降った時だった。
「マスターだ」「マスターが帰ってきた」
「「お帰りなさい、マスター」」
そういって雪の中を駆け出した二人を追い掛けると、小高い丘に出た。
突如踊りだした二人は、ぽすりと雪の中に倒れ込んでしまった。俺が慌てて助け起こすと、二人は「マスターの所に行けると思っていたのに」と言って泣いた。彼らはアイツが雪になって帰ってきたと信じているようだった。
雪が降る度に同じ事を繰り返し、何度か本当に機能停止の危機に陥った。

「風邪を引くから」と言って、防水性の高い防寒着を着せた。そうしないと、雪が雪解け水が彼らを蝕むからだ。二人はそれを望んでいたようだけど、託された身としてそれだけは防ぎたかった。でないと、アイツとの約束を破ってしまうから。

冬を越せば、やがて春が訪れる。アイツが二人をよく連れていったらしい丘に行くと、二人は蝶々に囲まれながら歌を歌っていた。
この歌は、俺も知っている。アイツが初めて二人に歌わせた、二人にとっては思い出の歌だ。
気付かれないように木陰に隠れたまま、二人の歌を聞く。


―――全てが凍てつく死の冬を乗り越え、命が芽吹く春の喜びを歌った歌を。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【勝手小説】パウダー・スノー【11月25日はいい双子の日】

Keaさんの素敵楽曲「パウダー・スノー」を勝手に小説にしてしまいました。

初めて曲を聞いた当初のイメージを文字にしようとがんばりましたが・・・難しかったです。


この時期にぴったりな、素敵過ぎる本家様
http://piapro.jp/content/be2s2hv6ywbfbir1

閲覧数:362

投稿日:2010/11/25 17:22:45

文字数:2,539文字

カテゴリ:小説

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  • wanita

    wanita

    ご意見・ご感想

    こんにちは!wanitaと申します。
    ピアプロでは好きな曲に物語をつけて遊んでいます。こういうやわらかな雰囲気、大好物なので、ついメッセージ&ブックマーク入れてしまいました☆
    では、また遊びにきます♪

    2010/12/11 11:50:13

    • 零奈@受験生につき更新低下・・・

      零奈@受験生につき更新低下・・・

      ブクマありがとうございます!
      やっぱりこうやって反応してくれると嬉しいです!
      他の作品も見てくれると嬉しいですw

      私としては、「悪ノ娘と呼ばれた娘」の作者であるwanitaさんにブックマーク&メッセージしていただいて本当に感激です!
      ハクがあの子達と教会で暮らしていた所にリンが来るんですね、きっと。
      ヨワネの町に生き残りがいてよかったですw
      こちらこそ、また遊びにいかせていただきます♪

      物語を用意していますから、何時でも遊びに来てくださいね。
      メッセージの返信とかは少し遅れますが。

      2010/12/11 22:01:49

  • けみ

    けみ

    ご意見・ご感想

    おおおぉぉ!!小説!!ありがとうございますー!ヽ(゜∀゜)ノ
    文字スキーなのでうれしいです・・・!
    君のいない場所での方も勝手に楽しみにしてますねー!

    2010/11/28 00:26:46

    • 零奈@受験生につき更新低下・・・

      零奈@受験生につき更新低下・・・

      いえいえ、こちらこそ。
      元詩率がはんぱないのですが、楽しんでくれて嬉しいです。
      「君のいない場所で」の方もできたらお知らせしますね。

      2010/11/28 10:37:05

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