1. オンラインRPG その1
     
    

 テーブルの上に母が作った私と弟の朝食が置いてある。いつもと変わらぬ光景だ。
私達の両親は共働きの夫婦であり、私達が朝起きる前に二人とも家を出ている。そして今日も弟はまだ寝ているようだ。
 最近弟のレンは学校をよく休むようになった。別に体の具合が悪いわけでもなく、ただサボっているだけ。そのサボる理由は半年前から始めたネットゲームで遊ぶためである。

 「レン君、レン君。」
 
 私はレンの部屋のドアをノックした。

 「レン君、学校行かなくていいの?」
 
 部屋のドアを少し開け覗き込むようにしながら私は弟に言った。体を少し起し私を見るなりこう答える。

 「う~ん、行かない~。」
 
 弟はそれだけ答えるとすぐにまた眠ってしまった。
 今日もまた私は一人で学校に行くことになった。私たちは双子なので同じ学校に通っており当然同じ学年である。ただしクラスは一緒ではない。
 レンの担任の先生からまだ体調が悪いのかと聞かれ、私はだいぶ良くなってはいますと適当に答えた。先生はそうかと簡単に受け流しただけでそれ以上は何も聞いてこない。家に電話して母親に様子を伺うとかしてくれればレンがこんな調子で学校をサボることはないだろうと思う。
 母は少し最近のレンの様子がおかしいと感づいている。母の休日は決まって土日であり、レンが日曜日に部屋から閉じこもったまま出てこないことを母は不思議でいるらしい。そして成績が明らかに落ちたということが母にも気づかれている。しかし、学校をサボってまでネットゲームで遊んでいるとまではさすがに気づいていない。
 私は母にレンのことをよく聞かれるがなぜか正直に答えることはできず、よくわからない、でも心配はないよと適当に答えていた。
 レンがちゃんと学校に行っていたときは彼のほうが私より帰るのが遅かった。部活で遅くなったり友達のところへ寄り道をしたりして彼がすぐ帰ってくることはほとんどなかったのである。
 私は学校から帰ると無意識にレンの靴があるのを確認し、結局今日も行かなかったんだなとため息をついた。
 母の帰宅する時間は私達よりも遅い。何とか夕食時には帰ってくるが、食べ始める時間は決まって8時を過ぎる。父はもっと遅いので平日一緒に食事をすることはない。ときに母も遅いことがあり、自分たちで適当に用意して食べてと電話がかかってくる。そのための食事代がキッチンの棚にしまってあり、使ってなくなると補充されるというシステムが採用されている。
 今日は母から私に遅くなると電話があった。私はレンの部屋をノックして、ドアを少し開けた。
 
 「レン君、お母さん遅くなるって、ご飯どうする?」
 「あーごめん、今さ、手が放せないから弁当買ってきて。」

  私はすでに質問する前から、レンがこう答えると分かっていた。ネットゲームに夢中で食べるのも時間が惜しいらしい。それでも私はレンにこう言ってみた。
 
 「たまにはさ、2人でファミレスに行ってみない?この前オープンしたばっかのお店が近くにあるんだよ。」
 「だめだめ、今忙しいんだからさ。行きたいなら一人で行ってこいよ。でも行く前に適当にピザ注文しといて。」
 
 だめだこれは。しかたなく私はチェーン店のお弁当屋に向かった。
 
 「レン君ここに置いとくよ。」
 
 私はレンの机の隅にお弁当を置いた。

 「あーサンキュー。」

 本当にありがたいと思っているのかパソコンの画面を見たまま彼はそう答えた。
 私は何とも言えない複雑な思いを感じながらしばらくレンを眺めていた。レンは横で見ている私をまったく気にしていない。まだいることに気づいていないのだろうか。そうして、ふと私はパソコンの画面のほうを見た。とりあえず何だかよくは分からない。ごちゃごちゃと人がいて次から次へと文字が流れている。どうやら会話をしているみたいだ。
 
 「おぉ、何だよまだいたのかよ。」
 
 ようやく横で見ていた私に気づいたようだ。
 
 「ねぇ、今この中で何やってるの?」

 私はこのネットゲームというものに興味があるわけではないが、どうしてレンがここまで夢中になっているのかが気になっていた。

 「お、何だよリン、これに興味あんのか?」

 レンはうれしそうに答えた。

 「う、うん、ちょっとね・・・。」
 「いいぜー、教えてやるよ。お前のパソコンここに持って来いよ、ちゃんと回線もつないでな。」
 「えぇ、いいよ別に見てるだけで。」
 「いいから、いいから、見てるだけじゃわかんねーよこれは。」

 おかしなことになってしまった。なんとなく口走っただけのつもりが一緒になってゲームをやることになってしまった。とりあえず買ってきたお弁当を食べたい・・・。
 私がお弁当を食べている間、レンは私のパソコンをいじり始めた。

 「お前のパソコンがノートでよかったな。デスクトップだったらこっちまで持ってこれないしな。でも最初の内だけだな。」

 レンはとても楽しそうだ。いったいいつになったら机の隅にあるお弁当を食べるのだろう。

 「う~ん、ちょっとスペックがノートだから弱いなー。でもまぁ、なんとかなるかな。」

 さっきから私には何のことかよくわからないことをレンは話している。

 「よ~し、今ダウンロードしてるからさ、終わるまでちょっと待ってろよ。このペースだと時間かかりそうだな。弁当チンしてきて。」

 そう言ってすっかり冷めたお弁当を私に手渡した。 


1、オンラインRPG その2へ続く



ライセンス

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ネットゲームで出会った人達  1 オンラインRPG その1

最初に読んでもらいたい説明書きがありますので読んでください。


http://piapro.jp/content/vb55w4zxxdpveet8

閲覧数:119

投稿日:2010/10/17 12:54:57

文字数:2,323文字

カテゴリ:小説

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