あたしの好きな人

********************

マスターが言う「恋の歌」
それが凄く気になってあたしは眠れなかった。

―だって、あたしの好きな人は…

朝早くおきて、いつもよりももう何から何まで
気合、入れて。
鏡の前で、いつもよりも可愛くなれるよう、
おまじないかけて。
今日こそは早くスタジオについて
君を驚かせようとして。…

もうそんなこと考えただけでも顔が
にやけて、眠るに眠れなかった。

「恋の歌」収録の朝は
真っ青な青空で、あたしはテレビの
占いもチェックせずに、バッチリオシャレに極めて
玄関を飛び出した。

駅までの道を歩いていく。

―雨なんか降らないでしょ！てか降らせない！！

あたしの心は有頂天！
鼻歌を歌い駅に着いた。

朝だからか、駅はスゴイ人、人、人！！
きみがいる気がしてびっくりした。
…違う人だったけど。

電車の中は皆押し合って狭い。
息が出来ない。苦しっ！

[サワッ]

あたしのおしりに何か触れた。
何…？手…？
ちかん…？！！

ちかんにあって頭の中はスゴイ混乱。
もうあたしは半泣き状態で
スタジオまで1つ前の駅で急いで降りた。
あんなちかん男がいるから、世の中ダメなんだ！

さっきまでの晴天な気持ちも一気にブルーになった。
海底にいるみたい…。

そんなあたしの心を捉えたのか
空からは大粒の…雨。
雨の中、小走りになりながら
あたしも一緒に大粒の涙をボロボロ零して
スタジオに着いた。

…きみに絶対怒られる。
わたしはさっきよりもブルーな気持ちで
スタジオに入った。

グショグショで雨にぬれた洋服。
せっかくのメイクも落ちちゃった。
少し涙が出てきた。

―あ～あ、もうきみに怒られること、確定だね！

もう何もかも吹っ切れていた。
…でも、不安。どうしよう、遅刻だよね。あたし。
完全遅刻だ。皆に怒られちゃう。

重々しくスタジオの扉を開いた。
皆が見てる。
そりゃぁ、ね。こんな姿だもの。

すると、きみが来て
着ていた服を脱いであたしの前に差し出した。
何も言わないけど、…怒って、無いんだよね？

スタジオにはいつもの様にいつものラジオが流れていて、
【♪☆今日の星座占い☆♪】の途中だった。

きみの何もいわないでも分かってくれる優しさとか、
温かい笑顔とか、
全部大好きで…

そうゆーコトを考えてたら
あたしの涙はもう止まらなくなってた。

―レン、ありがと…大好き！


『今日の１位はやぎ座！！オメデトウ！
　気になる彼、彼女に優しくしてもらえそう！
　でも、自分も相手に優しくすることを、忘れずに。
　そうすれば、２人の距離も縮まる予感☆』

いつものラジオ番組の星座占いが
あたし＜達＞だけのファンファーレに聴こえた。