街中に灯が燈り、街路樹もがイルミネーションで光り輝く12月のとある日、調度9時頃。
明らかに不必要な程明るくなった道を、駆け足で有名私立高校の制服を着た少女が駆け抜けていく。

その少女は頭の上で結わえた白くて大きなリボンが印象的で、リボンを揺らしながら街路樹の合間を縫う様に走っていく。



小窓から見える四角いその光景からは、その少女は直に見えなくなってしまっていた。


「今日も、また頑張ろうかな…」

小さく、でも明るく呟く声がその部屋に響いた。





【シンデレラシンドローム　～協同解釈～】






―――早く、帰った方がいいよね。夕飯のスープ冷めちゃうし…


そんな事を思いながら、私は街路樹を駆け抜けていく。
体力には自信がある方だし、この調子だと後10分くらいで家に着くかなとか思いながら走っていると、数メートル先に人だかりが見えた。


女子が群がって「きゃー」とか「わー」とか黄色い声を上げている。

―――野外ライブでもあるのかなぁ…。まぁ興味無いしどうでもいいけど。


そう思ったけど、どうでも良くなかった。その人だかりのせいで走り抜ける事がほぼ不可能となっていたのだ。
しょうがないから人の波に呑まれつつ、私は掻き分けながら歩いていく。

でも、女子達の目には、既にそのアイドルなんだかなんなんだかかしか映ってないらしく、私は思いっきり吹っ飛ばされる。



「きゃ、っ！？」


どしーん。


そんな擬音語が入りそうな程思いっきり。
そのまま私は傍にあった時計塔の壁に、勢いよくぶつかる。


「……え？」


――はずだった、んだけど。



ぶつかったはずの時計塔の壁がもの凄い速さで回転(?!)して、


ゴンッ


時計塔の内側の床に叩き付けられる。


―――真冬の石畳は、氷以上に冷たい、のか……――――


そんなどうでもいい事を思ったのを最後に、私の意識ブラックアウト。





*******




―――ぃ、…ろ…

―――ょう…ぶ？…


「…おい！しっかりしろ！」


キーンとテノールの怒鳴り声が頭に響く。


「…っう…」

頭に手をあてたら自然と目も開いた。

目の前に広がる水色の瞳と目が合った。


「うわぁぁあ！！」

「えぇっ？！」


突然叫び出して私から遠ざかる水色の目の男の子。…もう、釣られて叫んじゃったよ。

でも男の子が遠ざかったおかげ(?)でその男の子の全身像が見えた。


明らかにハーフって一目でわかる私と同じ金髪。すっきりとした顔立ち。落ち着いた(でも今は何故か慌てている)感じのターコイズブルーの瞳。細身だけど、がっしりとした男らしい体。

……分かった事は、同じくらいの年の少年、でも知らない人ってことだ。


でも私の頭があった所に彼のらしい上着が丸めて置いてある所とかを見ると私を介抱してくれてたみたい。


―――いい人そう。


取り合えず今大切なのは……お礼だ。


「えぇっと…あ、ありがとうございます…」

何故敬語。何故に私敬語。
脳内で一人ツッコミがあったけど、彼はそこには触れず、言葉を返してくれた。


「あぁ…こっちこそゴメン。今日、回転扉に止め具をするの忘れっちゃっててさ…」


…………カイテントビラ？あ、回転扉か。
あぁ…そのせいで私こんな所に、


「…って！ここ何処？！」


…うっかり叫んでしまった…。


「あー…」

彼は言葉を濁らせながら、言った。



「時計塔の中の、秘密の部屋。」


なんですか、それ。