「この程度の拷問で口を割るとでも思っているのか。
なめられたものだな。
おれは女王陛下の側近を務めている男だぜ。
あのお方の突き刺さるような視線と比べたらこんなもの屁でもない」

少年はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
上位の階級と思われる軍服を着た少女はカッと目を見開き、
怒りに震える掌を少年の頬に向かって素早く振り下ろす。
パシン、という乾いた音が独房の中に響いた。

「自分の立場というものがわかっていないようね。
あなたはただの捕虜なの。
今ここで殺すことだって出来るのよ。
さっさと女王の居場所を教えなさい」

彼女のハスキーな声には動揺の色が滲んでいる。
少年は愉快そうに喉を鳴らして笑った。
両手に繋がれた鎖がジャラリと音を立てる。

「何がおかしい。もう一発、くらいたいの」

少女は気持ち悪いものを見るような目で彼を見下ろした。

「いや、君におれを殺すことは不可能だと思ってな」

「はぁ?何を言って…」

「その軍服、似合わないぜ。何か事情があるんだろう。
教えてくれないか。君の力になりたいんだ」

一点の曇りもない真っ直ぐな瞳が少女を見つめる。
深い海のような優しさが、
彼女の冷たく閉ざされた心の扉に触れた。
少女は魅入られたようにその瞳を見つめていたが、
ハッと我に帰って目を逸らす。

「……駄目よ、そんなこと」

好きな男に着替えを見られてしまった女の子のような、
気まずさと期待が入り交じる表情だ。

「どうして?」

「ど、どうしてって、私とあなたは敵同士なのよ」

「今はもう味方だろう」

柔らかい声が砂漠に降る雨のように響く。
それを聞いた少女の瞳は揺れ、
今にも泣き出しそうな表情になった。

「……っ…何でそんなに私を信用してくれるの。
こんなにひどいことしてるのに」

彼女はそっと少年の赤く腫れてしまった頬に触れた。
ピアノを弾くためにあるような手だ。
普段から戦いの中にいるとはとても信じがたいが、
それでも彼女はやはり戦士だった。
戦争というやつは人をどこまでも残酷に変えてしまうらしい。
それを知った少年は、
自分の身体の痛みが気にならなくなるほど心が痛くなった。
それでも、大きく息を吸って吐いて、もう一度大きく吸い込んで言った。

「人が人を信じるのに理由なんているのか」

それは威風堂々たる大河のように寛容な笑顔だった。
少女はそれがこの世界のどんなものよりも尊いような気がした。
この人に付いていきたい。素直にそう思える。
心の南京錠がカチャリと音を立てて開いた。

「……バカっ」

少年の血が滲んだ傷痕を彼女は指でなぞる。
目の前の身体がビクリと跳ねて、呻き声が上がった。

「痛い痛いっ、触るなっ」

「ごめんなさい、つい」

少女は慌てて手を離す。少年は恨みがましい目で彼女を見上げた。
恥ずかしそうに微笑んでいると普通の女の子、
いや、それ以上に優しそうに見える。余計にタチが悪い。
少年は溜め息をついた。女王の姿が頭に浮かぶ。
どうやら彼はこういう女の子に好意を持たれてしまう運命らしい。
「それにな」と彼は言葉を続ける。

「バカなのは君の方だ。
おれを殺せと命じられてきたのに、
致命傷を防ごうと大事な臓器は避けて殴っていただろう。
拷問しているようなふりをしてな」

「この状況でそんなことまで気付いていたの」

「当たり前だ。おれを誰だと思ってる」

少年は冗談めかして片目をつぶってみせた。
その幼さが残る表情を微笑ましく思いながらも、
少女はどこかが痛むような顔をする。

「強いのね。私とは大違いだわ」

その瞳はここではないどこか遠いところを見ていた。

「……何があったのか聞かせてくれるか」

少年も敵がやったことを思い出すと、
大きな穴でも空いてしまったように胸がズキズキする。

「ありがとう。……実は私、妹を人質に取られているの。
この軍に入って彼らの言うことをきかなければ妹を殺すと言われて、
仕方なく狙撃手として戦場に赴いているわ。
彼らが私にあなたを殺させようとしたのは、
きっと忠誠心を試すつもりだったのだと思う」

彼女の長い睫毛が切なげに伏せられた。

「やはりそうか。そんなことだろうと思ったよ。
あのクソ野郎ども、卑劣なことをしやがって」

ドンッと独房の床を拳で叩く少年。

「私のせいなの。
暗殺の仕事をしていたことがあったから。
あのとき、あの子のいうことを聞いていればこんなことには…」

大きな瞳からは涙が溢れそうになっている。
少年の脳裏にも救えなかった仲間たちの笑顔が浮かんだ。

「自分を責めるな。悪いのは全部あいつらだ。
君が思い悩む必要は何ひとつない」

それはまるで自分自身に言い聞かせるような言葉だった。

「そうね、あなたの言う通りだわ。ありがとう」

涙を手の甲で拭って少女は顔を上げる。

「妹さんは必ず助ける。だから、安心してくれ」

意志の強い双眸が研ぎ澄まされた刃のように鋭く光る。
その姿は世界を救うために生まれたヒーロー、
つまり、救世主のようだった。

☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・

少年「…というプレイも悪くないな」
軍服少女「はぁ?」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい
  • オリジナルライセンス

【小説を書いたよ♪】研ぎ澄まされた刃

ヒーローの自己犠牲を描いたシリーズの第二弾っ!!

話はつながっていないので単体で読めます♪
少年漫画みたいな展開が大好きなので、
こういう文章を書くとハイになっちゃうっ♪ +.(≧∀≦)゜+.゜

【前作】第一弾はこちら☆彡【メイドさん、ヤンデレ】
前編(歌詞) http://piapro.jp/t/ZvXC
後編(小説) http://piapro.jp/t/azcq

【次作】第三弾はこちら☆彡【宇宙少女、クーデレ】
http://piapro.jp/t/GvSq

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よろしくお願いしますっ♪

閲覧数:322

投稿日:2015/02/07 17:32:41

文字数:2,195文字

カテゴリ:小説

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