それはいつもと変わらない朝食風景。
最近ではすっかりミクの出すネギ料理にも抵抗が無くなり、さも当たり前のように二人と一匹(?)がお茶碗片手に焼きネギを食べていた、そんな食事時。
箸で掴んだネギを口に運ぼうとしていたミクはいったんその手を止めた。
「大学に用事……ですか?」
「ん、まぁ……そう」
何故か目を合わせないようにしながら卓が自分の皿を箸で弄る。
そのどこか挙動不審な動きに、ミクの視線が人知れず鋭くなる。しかし、その表情の変化を気づかれないように、ミクは即座にいつもの雰囲気を装って誤魔化した。
「でも、確か今は夏休みで学校は閉まっているのでは?」
「え? ああ、そうなんだけど! いや、図書館の方は今一般開放されてるからそっちに行くんだ」
「あぁ、そういえば終わっていないレポートがあると言っていましたね」
そう言ってミクが笑みを浮かべて首を傾げた。
細められた目は微妙に笑っていないが。
「そ、そう! そうなんだよ! いやぁ、めんどくさいけどこういう機会を使わないと間に合いそうに無くてさ」
あはは、と卓は急ぎご飯を掻き込んで茶碗と皿を空にした。
「じゃあ悪いんだけど、後のことよろしくな」
「もう行かれるんですか? 随分早いように思いますけど」
席から離れた卓の背中がビクッと跳ねる。肩越しに浮かべた卓の顔が若干強張っていた。
「いや、行く途中で友達と落ち合う約束してるからさ。そろそろ行かないと間に合いそうにないんだよ」
「……そうですか、それでは急がなければいけないですね」
「あ、ああ! そうだな!」
ニコッと笑ったミクに釣られて卓はぎこちない笑みで答えて急いで二階の自室の携帯電話と財布を取りに行く。
ドタドタと階段を登る音が遠ざかるのを確認し、その隙を突いてミクは食卓の中央でミクの皿に残っていた焼きネギに手を伸ばしていたはちゅねをむんずと掴みあげた。
「ミッ?!」
驚いてジタバタするはちゅね。しかし、ミクの眼前に運ばれるとはちゅねはひたすら拝むように手を合わせて許しを請い始めた。
『ちょっとした出来心だったんです! どうか堪忍してください!』
そんなことを言っているように見える。
だが、そんなはちゅねの懇願とは無関係に、ミクは黙って近くにあった卓の鞄へはちゅねを入れた。
「……ミミ?」
状況がさっぱり分からないはちゅねは首を傾げて『なんですか? 何をするんですか?』と言うようにミクを見上げる。
ミクはただ口元に人差し指を当てて静かに呟いた。
「尾行してください。決して、見つかってはいけませんよ?」
「ミッ、ミィ?」
聞き返すようにはちゅねが呟くが、それには応じずミクは卓の鞄のチャックを閉めて元の位置に戻す。鞄の中ではちゅねが暴れないところを見ると、一応は指示を聞いてくれたようだ。
ミクがすべての作業を終えるとタイミングよく卓が降りてきた。随分と急いでいるらしく、鞄については何にも疑問を抱くことなく肩にかける。
「じゃあ悪いけど、後よろしくな!」
そう言って卓は自分の鞄を肩にかけて玄関へと向かい走っていく。その後姿をミクが手を振って見送る。
「いってらっしゃーい」
扉が開いて卓が出て行ったのを確認すると、
「…………怪しい」
ミクはゆっくりとした動作でスカートのポケットにしまっていた携帯電話を取り出して、ある文面を一斉送信した。
「それで、不審な行動の原因を探るべく、あたし達にこんな緊急招集なんて書いたメールを送ったわけね」
メイコは玄関から入るなり呆れ顔で、メールの内容を開いた状態でミクに見せるように携帯電話を手からぶら下げる。
「いきなり物騒な単語が出てきたから何かと思ったわよ」
「すみません、急いでいたのでつい割愛したらああなってしまいました」
「別にいいわ、そんな気にしてないから。ところで他の連中は?カイトは有給使ってどこか行ってるみたいだからこないとは思ってたけど、双子はこういうの見たら飛んでくるでしょ。ネタ的に」
いつぞやのように車に乗って爆走してくる双子が容易に想像できた。
ミクもそれについては同じ意見らしく一度頷いてはみたものの、力なく笑って携帯の着信履歴を見せる。
「電話が掛かってきたので事情を説明したら、来たいけどリンちゃんもレン君も二人揃って先約があるそうなので今回はパスするそうです。とても残念がってました」
「へぇ、珍しいわね。でもまぁしょうがないわ。それじゃあ二人で卓君の足取りを追うってことでいいとして、どうやってその卓君の居場所を突き止めるわけ?」
「抜かりはありません、これです!」
そう言ってミクは改めて自分の携帯電話の画面をメイコに見せる。
そこにはGPSマップが展開されていて、見慣れたはちゅねのアイコンがちょっとずつ移動しているのがわかる。
「なるほど、はちゅねを発信機代わりにしたわけね」
はちゅねは一見するとただ小さいだけの無駄飯ぐらいかと思われるが、実は意外に多種多様な機能をそのミニマムな体に備えている。GPSマッピング機能もその一つだ。
そこに目をつける当たり、ミクの本気が伺える。
ミクが得意げにグッと親指を立てて見せる。
「さぁ、準備は万全です。早速追跡を開始しましょう!」
いつもはメイコやリンに引っ張られるような形になっているミクが、今回は意気揚々と先陣を切って歩いていく。それを見てメイコは自分のニヤケ顔を抑えられず、
「うはぁ、面白そうなことになってきたわね!」
とか言いながら軽い足取りで、ミクに並んで真夏の住宅路へと姿を消していった。
小説『ハツネミク』part.4歌って悩んで女装して(2)
3ヶ月かぁ……3ヶ月ですかぁ?!
前回からもうそんなに経ってしまったのかと驚きを隠し得ません。
今年はもう少し自由でいられると思ったんですけど、中々うまくはいかないようです。
とりあえず、もう試験は嫌…………TT
随分と間の空いた更新になってしまいましたが、続きを投稿したいと思います。今回は若干短めになりました。
頑張って早くこの章も終わりまでUPしたいと思います。
逆に最後の方が既に書き終わってしまったのは何故だろう……?
未熟者のお話ではありますが、読んで頂けたら幸いです。
コメント1
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ご意見・ご感想
トレイン
ご意見・ご感想
こんばんは~
今回も読ませていただきました。
ネタ的にってwwwwwあると思います(古い……)
はちゅねはどうでるのかや、メイコ姉がまた出てきたところや、
楽しみな要素がつきません。
次回も楽しみにしてます。
P.S. 私自身も高校生になりました。これからはUPが進められるよう頑張ります。
2010/04/07 18:38:55
warashi
トレインさんこんばんは?^^
また読みに来ていただいてありがとうございます!
やっぱりリンとレンは走り回ってる方がしっくりくるなぁ、なんて私のイメージです^^;
ご期待に応えられるように、これからも(なるべく早く)続きを投稿して行こうと思います!
わぁ!今年から高校生ですか、ということは今って入学式の時期ですね!
ご入学おめでとうございます!(^ω^)ノシ
高校生活を楽しんでください!
私もトレインさんの作品がまた見られるのを楽しみにしています。
それでは、コメントをいただきありがとうございました!
2010/04/08 01:45:50