「ファンシー・ザ・ゆかりん、メーイクアーップ!」
光の中から飛び出したのは、宵闇に紛れるダークブルーのワンピースに短いフード付きのマントで身を包んだゆかりだった。自宅マンションの誰も上がって来ない屋上で、ゆかりは怪盗ゆかりんへの変身を行っていた。
「怪盗ゆかりんのデビュー戦だね!」
隣でぱたぱたと羽をはばたかせながら黒ウサギのうさりんが言う。
「本当に大丈夫かなぁ。相手はプロでしょ?」
ゆかりは今の自分の不安感をどうにかうさりんに伝えようとした。
「身体は多少動くにしても、実際どうしたらいいか分からないよ」
「不安に思う気持ち。わかるよ。でも地球を守るヒロインアニメだって、主人公は普通の女の子だったけど、可愛らしさと癒しの力を持つ戦士の力を手に入れた途端に強くなるでしょう。それと同じだよ!」
「ちょっと何言ってるか分からない」
うさりんの全然足りない説得力には呆れるばかりだが、そもそもの情報源がどこなのか疑問だった。
「でも今まで怪盗として一番良い状態だった時があった」
うさりんの調子が急に真面目にはなるが、先ほどの悪い例え話の後だったのでゆかりにはどうにも信用しきれない様子ではあった。
「初めて変身した日、夢と思い込んで大胆な事したの覚えてる?先入観が捨て切れていた、あれこそ理想的な動きと言っても良い」
「夢って言うか、要は先入観を捨てれば良いってことね?」
「そういうこと!」
ゆかりは大きく息を吸い込んで、大きく息を吐いた。
「よし!ダイヤモンドは盗ませない!」
ゆかりは自身を奮起させる為掛け声を発すると同時に怪盗ゆかりんとしての覚悟を決めた。
「うさりん、力を貸してちょうだい!今まで捨てずにいてあげたんだから、その恩を全部返すつもりでサポート宜しく」
「お!いいねぇ、ゆかりん。それにボクがいれば大概どうにかなるから任せなさい」
「せっかく気合入れたのに。そんな事いうならアンタだけで出発してもいいのよ」
調子良く言ううさりんにむくれたゆかりんは、全部丸投げしてやりたい気持ちになった。ところがうさりんは彼女の背中に回って背中を押した。
「ボクとゆかりんでチームなんだから。可愛い顔が台無しだぞ」
「ホントに調子だけはいいんだから」
ビルの際に立つと、下から吹き上げてくる風がとても強かった。ゆかりんは目をつぶり両手を開くと、風を感じるままにその身を委ねた。ビルの上には誰も居なくなったが、次の瞬間何かが開く音がすると、傘に掴まった少女が風と共に急上昇し、夜空を滑空していたのだった。
「すごい・・・」
ゆかりんは息を飲んだ。傘に掴まっているだけなのに、自分は空を飛んでいる。眼下に広がる家々の灯火は流星の様に後ろへ駆けて行く。傘で空を飛ぶなど幼児の夢想止まりで、物心つけば成せない現実を知る。うさりんが腰から人工揚力だのとうんちくを垂れているようだったが、風が強いせいもあってゆかりんの耳に届くはずもなかった。ただただ夢のように思えるリアリティを心から堪能していた。
ビルを飛び立ってから数分。夜景とは一線画す黒い森が見えてきた。
「目的地まで五百メートルだよ。あの白い建物の屋上に飛び移るんだ」
うさりんのアドバイス通り、目の前に博物館らしき建物が見えてきた。徐々に近づいてはくるが、着地が間近に迫ってくるまで自分がどれくらいの速さで滑空していたのか分からなかったが、屋上に近づいてくる頃にその速さに気が付き、このままではコンクリートに激突してしまうと不安になった。
「傘の柄を引っぱって!」
地に激突する寸前、うさりんに言われるがままに湾曲した柄を持ち引っぱると、何かに傘ごと引っぱられるような強い急制動が掛かり減速した。ゆかりは何事も無かったかのように博物館の屋上に立っており、先ほどの傘は既にステッキに戻っていた。
「あのさ・・・直前に言うの止めてくれる?」
さすがに身の危険を感じ、腰から下がっているうさりんをきっと睨んで言った。
「その方が盛り上がると思って・・・」
「盛り上がるか!」
「でもゆかりんなら持ち前の身体能力で受け身を取って何ともありませんでした!ってなるから、実際大丈夫でしょ?」
「最悪はそうしようとも考えたけど、こっちはまだ初心者なんだから!秘密道具の使い方、しっかり教えてよね!」
「それはまた後でね。今はファントム・ミラージュからダイヤモンドを守るのが先でしょ」
確かにうさりんに間違いはなかったが、なんだか話を逸らされて腑に落ちないゆかりんであった。
「あそこから入れそうだよ」
と言って指したのは屋上に這い出たように佇む階段部屋だった。
「鍵が掛かってるんじゃないの?」
と言い部屋に近づくと、うさりんが何かをしているようだった。
「うーむ・・・セキュリティが切られてる」
「どういう事?」
「この手のセキュリティは扉が開けられた時、センサーが反応して監視室に通報される物なんだけど、今調べたらそれが作動していないんだよね」
うさりん自身にも様々な機能が搭載されているようで、ゆかりんは底の知れない人形の可能性に驚いていた。
「そしたら、ボクの顔をドアノブの錠に当ててよ」
「こうかな?」
腰のうさりんを取ると、顔をノブに押し当てた。
「く、苦しい!」
「あら、ごめんね」
とノブから少し離すと、そこで良いと言われたので動かさないようにした。すると、ドアの錠が動く音がした。
「もしかして、今ので開いたの?」
「もちろんだよ。その為のうさりんなのだ!」
うさりんが自信満々に言い、右手を上げて応じた。もううさりんだけいればいいのではないかと思えるほどの万能性だ。
「ここから先は誰かいるかもしれないから、気付かれないように忍び足で行こうね」
ゆかりんはうなずくと、ゆっくりとドアを開けて建物の中に侵入した。中は思った以上に静かで、彼女もそれに溶け込むように静かに階段を下りた。
葛流市立博物館は三階建ての建物ではあるが、ここは普段職員のみの立ち入りしかできない。ゆかりんたちが階段を下りて廊下に出た時にはその理由が分かった。大きなクジラの模型が廊下の半分を占領している。とてもではないが一般客が入れるはずもないと理解した。だがそのおかげで姿を隠すのにも困らないと思ったが、不思議と人気が無かったので、下層へ下りる階段を探していた。
間もなく階段が見つかり、気付かれないよう慎重に二階へ降りるが、そこからは警官らが巡回をしており、見つかれば即御用となる状況だった。ダイヤモンドの安置場所を目指して、物陰に隠れ警官らの目を盗みながら展示場の入り口までやって来た。中にも警官がいるが、その奥に安置してあったはずのダイヤモンドがなかった。ゆかりんは一度引き返そうとしたが、うさりんが小声で話しかけてきたのだ。
「一階のセキュリティルームに行ってみて」
声に出さずゆかりんはうなずくと、二階の吹き抜けから一階を覗き込み、誰もいない事を確認すると手すりを乗り越えて飛び降りた。先ほど屋上に着地したようにステッキを傘状に変形させ落下した。静かに着地が決まると、近くの鉄製の二枚扉に接近し、中を覗き見た。ここから先も一般人立入禁止区域だが、監視室があるとうさりんが言う。中は誰の気配もなかったのでそのまま進み入ったが、先ほどの三階と同様妙に静かなのだ。
「その角の手前の扉だよ」
うさりんが言うと、ゆかりんはその部屋の扉をゆっくりと開けた。
「人が・・・倒れてる?」
四畳半に満たない小部屋で大の男二人が倒れていた。どうやら睡眠薬を嗅がされ寝ているだけのようだった。
「何者かの襲撃を受けた・・・。ここで全てのセキュリティを解除すればドアは開け放題」
うさりんが呟くと、ゆかりんは多数のモニターの中から怪しい行動をしている人物を発見した。金庫の前でごそごそと解錠作業をしている黒い影だった。
「うさりん!こいつが例の?」
「ファントム・ミラージュだね」
顔まで隠れる全身黒いタイツスーツにポケットがたくさん付いているタクティカルベストを着ていた。
「冷静に考えて、予告状を出された時点で金庫にダイヤを移すのは当然の判断。ミラージュはそれを知ってこの部屋の機能を奪ったんだ」
「それなら金庫室ね!
【結月ゆかり】怪盗☆ゆかりん! THE PHANSY #8【二次小説】
5.怪盗少女、今宵現る 前編
本作は以前投稿した小説怪盗ゆかりんの前日譚にあたる作品で、
主人公が怪盗になる経緯を描いた物となります。
今年のGWは戦車に乗るJKの聖地で潮干狩りしてきました。
モンスターを狩る職に付いている私ですが、リアル採取だと
二時間で4匹(?)のアサリと中身を良く出す自己主張の
激しい貝1匹の採取に成功。
二時間で5個とかレア素材レベルじゃないか(激怒)
採取後は上手に焼かずにリリースしてきました。
そして帰宅後は日焼けで腕と足が痛くてお風呂入るのが辛い。
作品に対する感想などを頂けると嬉しいです。
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※※ 原作情報 ※※
原作:【結月ゆかり】怪盗☆ゆかりん!【ゲームOP風オリジナルMV】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21084893
作詞・作曲:nami13th(親方P)
イラスト:宵月秦
動画:キマシタワーP
ご本家様のゆかりんシリーズが絶賛公開中!
【IA 結月ゆかり】探偵★IAちゃん VS 怪盗☆ゆかりん!【ゲームOP風MV】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm23234903
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【※※ 注意 ※※】
当作品は動画「怪盗☆ゆかりん!」を原作とする二次小説作品です。
ご本家様とは関係ありませんので、制作者様への直接の問い合わせ、動画へのコメントはおやめ下さい。
著者が恥か死してしまいます。
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のの
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