11.思いを馳せて

 あの決意の日からはや五十年が経ったのか…… 今思うとあっという間だった気がするな。
私たちはあれから国中を旅しながら、たくさんのメルト症候群の患者を診たんだ。
でも、まるで治療法は見つからない。それどころか原因すら見当もつかなかった。
あの頃の私たちはいつも自分たちの無力さにいら立ちすら覚えていたな。

でも、それをしばらく繰り返して、やっと気付いたんだ。答えは私の中にあったんだって
今まで自分がどうして自分がメルト症候群なのに、
死ぬことなく生きているのかって本気で考えたことはなかった。

いつしかできるようになった電圧の調整 それは私たち双子が特別だったからだろうか?
そこからメルト症候群の人たちを救う方法に気付くのは割と早かったな。

あの日の事件にヒントはあった。
ロミオの怒り、私の思い、あの時はとめどなく感情がうごめいていた気がする。
今までにない力の暴走も、自分たちの感情によって引き起こされていたようで、
これまで意識してなかった力の調整も、
今思えば自分の中の感情をコントロールしてた気がする。

 感情がメルト症候群の症状のキモになっていることに気付いたのはいいけど、
問題はそれをどうやって治療につなげるか、そこが大変だった。

自分自身を実験台にして何度も試行錯誤を繰り返した。
どうやら怒り、不安、恐怖 そういう感情の高ぶりと
電圧の上昇はシンクロしているようだとわかった。

普通のメルト症候群の人々は突然陥った自分の状況に対して、必ず恐怖を覚える。
そして、その恐怖が自らの電圧を上昇させ 後はその連鎖が続き、あの壮絶な最期へといたる。

私たちは生まれながらにして、この症状を有していたから
自分の状態に対し、恐怖や不安はなかったのだろう。
もちろん、なぜ私たち家族間では感電のような状態が起こらなかったのか?
また、そもそものメルト症候群の原因はいまだにわかってはいないけれど。

とにかく、恐怖が死へとつながる原因ならそれを抑えればいいと、投薬治療を試みた。
結果は電圧の上昇は見事に抑えられた。でも恐怖を抑えるその薬は非常に高価で効果も短く
それに、副作用も強かった。それが原因で死ぬ者も多く出た。

ふりだしに戻った。
投薬以外の方法を開発するしかなかったが、私たちには皆目見当がつかなかった。

しかし、ふとしたきっかけでその方法を得ることになるんだ。
私の趣味、旅の途中で遺跡を見つけては、その中に眠るロストテクノロジーを集めてた。
実用性のあるものは乏しかったけど、中に数点くらいは実用性のあるものもあった。

まあ、私のこの刀もそのうちの一つを元に開発したんだ。
でも、今回役にたったのは、実用性の乏しいガラクタのほうだった。
『テレパス君』と私が名付けたその装置は、
自分の考えを言葉を発さずに相手に伝えることができるものだった。

原理は簡単に言えば、脳波を読み取って相手に送信するようなことだったが
相手に送信できる内容は非常に少なく、ノイズだらけでまったく役に立たなかった。

でも、今回は違った。この脳に直接作用する特性は非常に有益だった。
この装置で患者の不安や恐怖を読み取り、それを抑制するように本人にフィードバックする。
この方法なら、投薬のような副作用もないと考えたんだ。

結果は、見事に不安、恐怖を抑制して融解を回避できた。薬のような副作用もなかった。
でもね、大成功と両手をあげられる結果ではなかったんだ。

装着者は不安、恐怖だけではなく、ほとんどの感情は装置によって抑制され、
無表情・無感情で言葉も少なになっていた。
体からの放電も自らを融解させるほどではないにしろ、完全には抑えられなかった。

いくら装置を改造しても、その点はまったく改善されないなかった。
命が助かっただけでもと、言ってくれる人も多くいたが、
このままでは患者は、まともな社会生活は送れるような状態ではなかった。

ライセンス

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  • この作品を改変しないで下さい
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紅のいかずち Ep0 ~シンデレラストーリ~ 第11話 思いを馳せて

紅のいかずちの前章にあたる、エピソード0です。
この話を読む前に、別テキストの、まずはじめに・・・を読んでくれると
より楽しめると思います。
タグの紅のいかずちをクリックするとでると思います

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投稿日:2009/11/21 22:45:41

文字数:1,647文字

カテゴリ:小説

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