カイトが上げた奇声で起こされた双子が食卓のある部屋のドアを開けて入ってきた。

「ミク姉ぇ、めーこ姉ぇ、ルカ姉ぇ、はよっス!」
「おはよー……ってカイト兄さんどうしたんだよ?」

リンが姉三人に手を挙げて明るく挨拶してる傍らでカイトに挨拶をしようとしたレンの視界に台所の片隅にうずくまって、指先でのの字を描きながら青い鬱オーラを背負ってるような錯覚すらみえそうに落ち込んだカイトの姿があった。

ルカに冷たくあしらわれ、手を叩かれて、高圧的に命令された上に使用人よばわりされてしまったカイトはさめざめと男泣きし始める。

この家で一番精神的に弱いのはカイト兄さんかもしれない。

レンはそう思ったが口には出さずにカイトの肩にそっと手を置いて声をかけた。

「いい年した大人の男が泣くなっ!情けない!何があったか知らないが、とりあえず朝ご飯冷める前にちゃんと食ってから泣くんなら自分の部屋に引きこもってから一人で泣こうか?な!」

「うわぁあんっ!」

レンのその言葉は、余計に逆効果だったらしい。

いい年

大人の男

情けない

引きこもってから

一人で泣いとけ

余計にわあわあ泣き出してしまったカイトを見てミクまで貰い泣きし始めてしまい、食卓はなんともいえないもの悲しい空気に包まれていた。

メイコは冷蔵庫からビールとつまみを取り出して焼け酒を飲んでやさぐれているし、リンは食卓の空気を読まずに炊飯ジャーを開けてご飯をよそっている。

そして、さらによそわれたご飯を受け取り、行儀よく箸を指先にはさんだまま手を合わせて、「いただきます」といいご飯茶碗を味噌汁椀にひっくり返し、ご飯を味噌汁の中にぶち混んでかきまわして、さらに納豆も加えてかきまわして、ねこまんま にして朝食を食べ始めるルカがいた。

朝食は洋食でパンじゃないと食べた気がしないんじゃなかったのか?

諸悪の根源な癖に、どこまでもマイペースなルカを見てメイコがため息をついてビールをかっくらいテーブルにからになった缶を乱暴に置いて、カイトの方を見遣ると一枚の紙を投げて寄越した。
レンはすかさずその紙切れを広い上げて内容をみた。

えー、何々?

5月9日はアイスの日!

全品半額売り尽くしセール!

高級アイスがすべて半額!

と書かれていた。

5月9日って今日の日付だよな?

今日はアイスの日だったのか。

これでカイト兄さんの機嫌を取れって事かよ!
そう思いレンがメイコを見るとメイコが軽く目配せしてお願い、と手を上げた。

いくらなんでもカイト兄さんもいい年なんだし食い物に釣られて機嫌がすぐに直るなんてことないと思うんだけど・・・・・。

そう思いつつもまたカイトの肩に手を置いて話かける。

「あのさあ、兄さん、今日って何の日か知ってる?5月9日」

「……アイスの日だろ…」

まあ、カイト兄さんのアイス好きは異常だから知ってるよな。

そう思いながらチラシをカイトの前に翳し、アイスクリームが全品半額の部分を指差して見せてやる。

「カイトお兄ちゃん!アイスクリーム全品半額だって!」

ミクが嬉しそうにそう言ったのを聞いてカイトの視線がチラシへと向く。

よし、あともう一押しだ。

・・・ていうかいっつも面倒事は俺ばっかり押し付けられんだから、いい加減にして欲しいと思う。

カイト兄さんにはもっとしっかりして欲しいし、いつまでたっても甘えたで天然ボケでぽやぽやしたミクもだし、リンは少しくらい女らしくして欲しいと思う。

メイコ姉さんは家の事をすべて切り盛りしてるからまだいい。

酒癖が悪いのがたまにキズだけど・・・

それから我が家一番のトラブルメーカーでわがまま放題のマイペースお嬢様なルカ。
トラブルを引き起こした張本人は何食わぬ顔でねこまんまを食べ終えて緑茶を緩んだ表情で啜っていた。

その隣で焼き魚の骨がなかなか綺麗に外れなくて格闘しているリンがいる。

「ダッツも半額だってさ。ダッツが値上がりしてからあまり買ってもらえなくなったって兄さん嘆いてただろ?」

「……………」
「今日、買い物行く時についでに好きなの買っていいってさー、メイコ姉さんが……」
「わー!よかったねぇー!カイトお兄ちゃんっ!」

そう言ったミクに抱き着かれてカイトがぴたりと泣き止んだ。

「だからさ、せっかくメイコ姉さんが作ってくれた朝飯が冷めちまったら姉さんに悪いだろう?さっさと食って片付けてからアイス買いに行こうぜ?」

レンはそう言ってカイトの手を取って立ち上がらせると食卓の席へと引っ張っていって座らせる。

ミクも後に続いて、カイトの隣の席に座った。
レンはリンの隣にやっと腰を降ろすとため息をついた。

ふと自分の席にある焼き魚を見遣ると綺麗に骨が外されていて、熱いお茶が湯飲みに注がれて用意されていた。

レンがカイトを慰めている間にリンが何かごそごそとやっていると思っていたのはこれか。

そう思ってレンがリンを見遣ると、リンは心無しか顔を少し赤くして、コホンとごまかすように咳ばらいをした。

「ミク姉ぇやカイト兄ぃとお前が格闘してる間暇つぶしにしてやっただけだ!か、勘違いすんなよっ…!」

リンはそう言いながら、ぷいっと顔を背けてぶっきらぼうに言った。

レン達が席につくまでちゃんと朝ご飯には手を付けずに待っていてくれたらしいリンを見て、レンは自然と笑みが零れるのを自覚した。

らしくない、けど悪い気はしないな、とそう思いながら、箸を手に取り「いただきます」と言って少しだけ冷えてしまった朝食に口をつける。

ミクとカイトもいただきますをして朝食をもそもそと食べ始める。

「カイトお兄ちゃん、ミクが混ぜ混ぜした納豆美味しい?」
「うん、美味しいよ。」

仲睦まじいミクとカイトを見て、また朝っぱらからよくやるわね、と言った風に呆れ顔でビールを飲むメイコ。

ルカはお茶受けに何食わぬ顔で人の分のたくあんまでぼりぼりと食べている。

ルカのとんでもないマイペースぶりに毎朝引っかき回されて、最後に残った面倒事を全て押し付けられるレン。

だが、そんな毎日にも少しづつだが慣れつつもあったりする。

とりあえずレンは、朝食を食べ終わったらミクとカイトと買い物へ行き、リンへの土産にみかんシャーベットを買ってきてやろうと思った。

顔をほんのり赤くしながら、朝ご飯を食べているリンを見て、レンは相変わらず素直じゃない男勝りの姉にも多少なりと女の子らしい部分もあるのだなぁと考えて、今朝見たリンの素肌を思い出していた。

メイコとルカを交互にみやってからまたリンを見る。

胸は全然なくてまったいらだけど。

騒がしくも平和な日常は、これからもこんな風にずっと続いてゆく。

こうしてこの家の、住人達は代わり映えのしない退屈な日常より幾分か充実した日々を送っていくのだろう。

終劇

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

アイスの日!~後編~

~初夏~とあるアイスの日のなにげない日常。
☆適当な裏設定☆


主な登場人物


メイコ/カイト/ミク/リン/レン/ルカ/ボーカロイド達が一軒家で家族みたいに共同生活を送っています。

★マスター:超多忙などっかの企業の研究員の為泊まり込みで仕事をすることが多く殆ど家におりません。

★初音ミク:天然おとぼけ、ぽやぽや夢見がち少女。
天然ぼけ気味で頼りないけどリンレンにたいしてお姉さん風をふかせたい年頃。
夢見る歌姫。
大好きなカイトお兄ちゃんのお嫁さんになるのが将来の夢!

★咲音メイコ:一家を支えるしっかり者のみんなの優しいお姉ちゃん。
不在のマスターに変わり家を管理して家事全般を担う。
みんなの面倒をかいがいしくみる苦労人だけどヤケ酒を飲み始めて泥酔すると暴走して手がつけられなくなります。
KAITOとは恋人関係。

★始音カイト:気弱で優しい青年で特にミクにお兄ちゃんと慕われている。
一家で一番繊細で傷付きやすいのでなにかとよく落ち込んだりする事が多い。
解決するキーワードは アイス。
MEIKOと恋人関係。

★鏡音リン:強気で男勝りな口がちょっと悪い女の子。
女の子らしいミクと違っていつもワイルド&パワフル!
弟分のレンを何かと、こき使ったりいぢめたりするのは愛情の裏返し。
思春期真っ最中の素直になれないあまのじゃく乙女。

★鏡音レン:リンの双子の弟で何に対しても基本的に無気力無関心な脱力大好きっコ。
何事もなくのらりくらりと日々を送れればいいというよくいる今どきの少年。
できるだけ何もしたくないのに、いつもわがままであまのじゃくな姉のリンの暴走に嫌々付き合わされ、振り回されている。

★巡音ルカ:どっかの金持ちマスターが所持していたボーカロイドでセレブお嬢様。
ルカを所持していたマスターが不況で倒産した為にルカを手元に置いておけなくなってこの一家に預けられたらしい。
世間知らずで我が儘でクールな天然お嬢様。
カイトの事を使用人と勘違いしていてなにかとこき使おうとする。
一番大好きなのは美しい自分というナルシスト気味なところもあり。

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投稿日:2009/06/23 21:59:39

文字数:2,858文字

カテゴリ:小説

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