6-6.

 海斗さんの家に着くころには、私は何があったのかをほとんど説明し終えていた。
 私のケータイの通話記録とメールの内容を全部調べられていたこと。パパとママが「海斗さんに会うな」と言ったこと。ママが海斗さんにあの電話をしたこと。
 まだしとしとと降り続く雨は、私の気持ちを抑える役にはたたなかった。話せば話すほどに増していく胸の痛みに、涙をこらえることなんてできなかった。
「海斗さん」
 涙に濡れた顔で、私はすがるように海斗さんを見上げる。
「私、もう家に帰りたくない」
 その気持ちが、一時の気の迷いなんかじゃないと自分に言い聞かせるために、一言付け加える。
「二度と」
 海斗さんは立ち止まって、私をまっすぐに見つめ返してきた。その瞳が困惑に揺れているのが、はっきりとわかる。でも、それでも私は。
「未来ちゃん。本当に、それでいいのかい?」
「海斗さんは――」
「俺は、未来ちゃんの味方だよ。そんな風に逃げ出したくなる気持ちだって、わかるつもりだ。でも、だから俺は聞いておかないといけない」
 そう言って海斗さんは、私のほほに手を添えた。
「それでも未来ちゃんは、やっぱり両親の庇護の元にいる。そこから離れるってことがどういうことなのかって、ちゃんとわかった上で言ってるんだよね?」
 そんなこと、わかってる。でも、私にとってはもっと大事なものがある。大事な人が、いる。
 真剣な瞳で私を見下ろす海斗さんに負けないくらい真剣な顔で、私は返事をした。
 いつだったか、私がふと思い浮かべて、くだらないなんて切り捨てたあの言葉で。強い意志を込めて、それでいて優しく、歌うように。


『私の恋を悲劇のジュリエットにしないで
 ここから連れ出して……』


 一度だけ目を閉じ、私の言葉を吟味する海斗さん。
 その姿に、少しだけ不安になる。ほほに添えられた手をつかんで握り締める。その私の手は、小さく震えていた。
「わかった。じゃあ、もうこれ以上、この話はしない」
 私の手を握り返して、海斗さんはほほ笑む。その笑顔に、私は涙がこぼれた。
「海斗さん……」
 ありがとうございます。そう言おうとして、できなかった。言葉にすることができなくて、私はまた泣いた。
 そんな私に両腕を回して、海斗さんはしっかりと、強く抱き締めてくれた。
「未来」
 海斗さんは初めて、私をそう呼んだ。「未来ちゃん」ではなく、「未来」と。
 抱き締められたまま顔を上げると、すぐそこに海斗さんの顔があった。
 私はとっさに目を閉じる。
 唇に柔らかい感触。
 初めてのキスは、涙のせいで少ししょっぱかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ロミオとシンデレラ 33 ※2次創作

第三十三話。


これより数話、かなり甘ったるい話が続きます。
読み返してたらものすごく恥ずかしくなりました。
・・・・・・これまさか本当に自分が書いた文章なのか? と、そんなことを思ったりすることがあります。

閲覧数:396

投稿日:2013/12/07 13:10:34

文字数:1,097文字

カテゴリ:小説

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