僕はとりあえずカイトとともにその光景を傍観していた。初音が僕のよく知る場所へ入っていく光景を、ただただ傍観していた。

気づけば、彼女が僕のいる場所に来たのが全てのはじまりだった。

彼女が僕の世界に、言い方は悪いけど土足で上がってきた。それって遠慮がちになっていたみんなよりかは素晴らしいことなのかもしれなかった。

何しろ僕はこんな感じだったから嫌われていた。先生が研究の為に理科室を解放してくれてからはそこが僕の居場所となった。僕の世界だ。それ以外の意味もなければ、他の人間にとってはただの理科室にしか見えないだろう。ただ、僕には違った。それは理科室であって世界だ。僕が僕自身で居られる唯一の場所。それが……その理科室だった。

僕の世界は僕の世界だ。だけど、彼女にも彼女の世界があったはずだった。だが、それは何処なのだろうか。神の時代ではたぶん箱庭だったんだろうけど、人間となってからは居場所が、世界が彼女には無かったんじゃないだろうか。

「……おい、神威。大丈夫か?
 今の教室にはムーンリット、初音しかいない。
 何かを聞くのは今のうちじゃないか?」

カイトは小さく微笑んで言った。なんだかんだで僕は彼を好きになれない。

僕は小さく頷いて、理科室の扉を叩いた。

「……あれ? 神威。もう帰ったんじゃなかったの?」

「いや、忘れ物があってね。
 ……ところでひとつ聞きたいことがあるんだけど」

「なに? ……ちょっと疲れてるからさ、簡単に済ませて欲しいんだけども」

「あぁ、いや。
 そんな重要な事じゃないよ。聞きたい事は一つだけ。
 なんでMGR団なんか結成しようと思ったのかな……って」

「……だから、言ったでしょ?
 地下室みたいな不思議な場所を探検するのよ。
 この学校は秩序なんてものが存在しないんだからさ」

僕はその言葉を聴いて、ふと思い出した。

『初音が向かおうとしていた場所』は何処だ?

そして初音は僕達に何をさせようとしていた?

ただ、彼女は……交流が欲しかっただけ? “世界”を共有したかっただけ?

それを、僕はどうしていた?

「……僕はどうしていたんだ?」

(無言。)

気づけば僕は、何もない暗闇にいた。けど、それには気付かなかった。

「僕は、初音にどうしていた?」

『嫌っていた。』

「違う」

『無意識に、彼女を拒絶していた。』

「……いや、僕は彼女を……!!」

『心の何処かで、君は嫌っていた。初音ミクという存在を君は受け入れようとはしなかった』

「……何が言いたいんだ!! 人が人を嫌って何がおかしい?!
 そんなのは昔からあったことだろ!!
 僕は何も悪くないっ!!」

『そうして……逃げるんだね』

「……、」

『すべてから、自分から、世界から、逃げるんだね』

「……、世界が何をしたって言うんだ」

(無言。)

「世界が僕を好きになったことがあるのか?
 世界は僕を主人公にしていたのか?
 世界は……僕の世界を否定していたじゃないか……!!」

『だから、世界を否定していいのか?
 他者を拒絶してもいいのか?』

「あぁ」

『……ならば、君には自分の世界を手に入れる権利はないよ』

(無言。)

『……君の世界は初音ミクと交わることが決まっているのさ。
 何て言うんだろう。それがトゥルーだよ。
 トゥルー以外のルートに進むことは許されない』

「僕がどう生きるかは自由だろ?」

『いや、それが違う。初音ミクが行う23491回目のリセットは……全てをリセットする。
 その力は地球を最初から創り直し、人間から何から全てが様変わりすることを言うんだ。
 世界五分前仮説を知っているだろう?』

「……この世界が五分前に作られたものではないことを証明することは出来ない、それか?」

『だから今までリセットしたらそれが適用され、全人類及び全世界に偽りの記憶が植え付けられる。
 ただし知識はすべてそのままだ。
 人の姿も変わりなければ世界の姿も変わりない。
 だが、次のリセットはそうじゃない。彼女を拒絶した世界、そのものを崩壊させ再構築させる。
 そこに君もいるかは解らない』

「……どうすればいいんだ」

『僕は君の方にチャンスを与えていたんだ。一回だけではなく何回もな。
 だが君はそれを無視し続けた。人との世界の交わりを断り続けるが故に、君は彼女を救えなかった』

「……じゃあ、どうすればいい?」

『……、』

「……、」

『……それは、自分で考えるんだな』

そう言って、世界は弾け飛んだ。





「ちょっと、神威。大丈夫?」

僕が気付くと初音が肩を何度も揺らしていた。何度も揺らしたら脳震盪を起こしてしまうだろうに。

「ん? あぁ……。
 大丈夫だ。ちょっと眠くなっちゃったんだ」

「そう?
 ならいいんだけど。
 最近インフルエンザとか流行ってるし」

「……あぁ、そうだな。
 早く帰って体を休める事にするよ。じゃあな」

そう言って僕は扉を開けた。

そこにあったのは見覚えのある学校の廊下

ではなかった。

闇が広がっていた。

けど、僕は躊躇うことなく踏み出した。

もう、躊躇ってちゃいけないんだ。

闇にはカイトはいなかった。

代わりに、いたのは。

「……グミ……!!
 何故ここに……!!」

グミが、立っていた。





「……世界は最終的にこうなる。世界の末路をあなたは今見ている」

グミは僕が何を言おうとしたか予測していたのか、笑って言った。

「世界の末路……?
 どういうことだ。君は何か知ってるのか?!」

僕は思わず声を荒げる。だがグミはそれを無視してまたも普通に呟いた。

「あなたが彼女を救うには世界を何度も繰り返す必要があった。
 つまりは心の壁、世界の壁を取り除くには何度もリセットし直して、あなたは選択肢……つまるところ30000個近い選択肢を選ぶ必要がある。
 だからリセットもその回数やり直しをする必要がある。
 けれど、それももう終了に近づいている。

 さて、影神、神威。あなたに聞く。
 ……あなたは彼女の心の壁を取り除くことが出来る?」


つづく。

―――

次回予告

彼は決断した。

そして、23492回目のリセット。彼は3回目の10月28日を迎えることになる。

果たして彼は初音を、彼女を救うことが出来るのか。


第四章
もうちょっと待ってください……(;^ω^)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【リレー】僕と彼女の不思議な世界 05 壁

第三章。

第一章:http://piapro.jp/t/i9vG
第二章:http://piapro.jp/t/pZz8

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投稿日:2012/03/18 21:50:36

文字数:2,690文字

カテゴリ:小説

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