[A区画 スタートエリア前]
双子に手を引かれ、ミクは街中を走っていた。
くらくらしていた頭がだんだん戻っていく。
状況を完全に把握する。今私たちは、カイト兄さんから逃げている。
「…あ」
走っていく中で…ふとあるものが視界に入った。手を振りほどいてミクは止まる。
つい先日くぐった…スタートエリアの扉。…ここで戦いが始まってしまった。
閉ざされた扉が、何かを象徴しているように思えた。
「ミク姉、早くしないと、カイト兄さん追いついちゃうよ!」
リンがせかすが、ミクは聞く耳を持たない。
「…私、戦ってくる」
ミクは意を決したように、元来た道を行く。
「…どうして?さっきミク姉、痛い攻撃をもらってるじゃないか。今は逃げてコンディションを…」
「いいの!」
レンの言葉を遮ってミクが叫んだ。そして双子に背中を向けて歩き出した。
「待って!じゃあ私たちも一緒に戦うよ!」
リンが言ったが、ミクは振り返らず、首を振った。
「これは私の戦いなの。…それにね」
ミクは一呼吸おいてから、静かに言った。
「私は…あなたたちが信用できないの」
「…ミク…姉…」
リンが言葉に詰まった。今にも泣きそうな声だった。
ミクは一度振り返ろうとしたが…止めた。
そして、元来た道を戻っていった。私は…もうこうするしかないんだ。
[A区画 街‐1エリア]
カイトは歩いていた。耳を澄ます。どこだ…三人はどこに逃げた…。
しばらく歩いて、カイトは足音を聞いた。まだA区画にはほかのやつは来ていない。…ということは、あの三人の誰かに違いない。
そんな思考をしているうちに…足音はだんだんこっちに近づいてきた。
カイトの正面に、ミクが現れた。
カイトとミクが対峙した様子を…物陰から双子は見守っていた。二人はとある路地で対峙した。
結局、二人はミクに気付かれぬよう、こっそり後をつけてきたのだ。
「ミク姉…」
呟いたリンの目は、この戦いの結末に対する不安と、ミクに突き放されてしまったことへの悲しみにあふれていた。
「仕方ないよ。信頼されないのは」
レンは冷静に言った。
多分ミク姉は一度メイコ姉さんに裏切られてるから…あまりみんなを信用できなくなってるんだ。特に今まで…俺たちはミクにくっつくようにしていたから、逆に疑われているんだろう。
「…分かってるよ、それくらいは。…でも、大丈夫かな…」
リンの心配は、どうやらこの戦いにミク姉が勝てるかどうかに向いているようだった。
「…ミク姉を信じよう」
レンにはそれしか言えない。でも二人にとって…ここでミク姉と離れたくはなかったのだ。
ミク姉の味方をするって決めたから。
…だから…やられちゃ困る。
「…ミク一人、か?」
「そうだよ。…カイト兄さんは、メイコ姉さんを倒した私に復習したいんでしょう?だったら私一人で戦う」
なんだか一人で戦うことにした理由がおかしい気がしたが、ミクは気にしないことにした。
「私、決めたの。…もう戻れないっていうなら…私は戦う。戦って勝って、人間になるって」
「手始めに俺を倒す、と?」
迷わず頷くミク。
…以外にもカイトは一瞬、悲しそうな顔を見せた。どうしてこうなっちまうんだよと。そんな感じの…。
だが幻だったかのようにすぐにもとの暗い表情に戻った。
「…返り討ちにしてやるさ。…来い、ミク」
カイトはマイクを構えて言った。
ミクは笑う。勝算はある。
リンがさっきやったことを、ミクはくらくらしながらも見てはいた。
「『グロリアス・ワールド』!」
ミクが、カイトの足元めがけて光線を放った。
「宙に浮かせようったって…そうはいかないよ!」
カイトはジャンプすることなく後ろに下がってかわした。地面にあたった攻撃はまた土煙を生んだ。
「『時忘人』!」
だが煙の中にいるにも関わらずカイトが攻撃を撃ってきた。戦っている場所が路地であまり広くなかったので、まっすぐ撃てばあたると判断したのだろう。
事実見事にミクめがけて飛んできた。
「…!『moon』!」
対応は遅れたが、何とかあたる前に対抗することはできた。光線はぶつかって互いにあさっての方向へ反射していった。
煙が晴れかけてきた、ミクを視界にとらえたカイトが一気に距離を詰めようと走る。
だが、カイトが…何かに躓いた。それを見て…ミクは笑った。
「引っ掛かったわね!」
そう、それはミクが最初土煙を起こした時の攻撃によるもの。地面にあたった光線は、ミクの狙い通り、カイトがいた地面を…えぐっていたのだ。
それに気づかずに走ってきたカイトが…。そしてその状況が生まれたのである。
「『カゲロウデイズ』!」
ここぞといわんばかりにミクは大声で歌った。それに比例し、光線は太くなる。
「く…『FLOWER TAIL』!」
カイトも一応の抵抗を見せたが…苦し紛れに放ったものが本気の攻撃に勝てるわけもなく、
「ぐっ!」
カイトはミクの攻撃をもろに受け、しかもマイクを思わずマイクを手放してしまった。
「『愛言葉』!」
宙にとんだマイクをミクは容赦なく…壊した。
「…やるじゃないかミク。俺の負けだ…」
カイトが静かに言う。ミクは黙ってカイトを見下ろしていた。
「…だけどな…一番になるには…おまえは…リンもレンも倒さないといけないんだぞ…?」
カイトの声はだんだん小さくなっていく。
「あいつらはどうも…おまえと仲間でいたい…みたいだし…どうす…」
ここでカイトの声は聞こえなくなった。
「やったね、ミク姉!」
「すげーや、ミク姉!」
すると示し合わせたように双子が陰から出てきた。さっきカイトの口から彼らの名前が出てきたこともあって、ミクは気が動転した。
「まさか、ずっと見てたの…?」
そうだよ!というように頷くリン。
「だって、ミク姉は仲間だもの」
仲間。その言葉がミクの胸をつく。
このゲームは一人の戦い。仲間なんてない。最初にメイコが言っていたこと。
だけども。どうやらこの二人はミクを仲間だと認識しているようだ。
…いや、仲間なんて。ミクは思った。このサバイバルゲーム、仲間なんて…すぐ裏切られてしまうようなものだ。現にそれを味わった。でも、この二人は何かが違う…。昨夜特にそんな素振りはなかった。まさか本当に私を仲間としてみている…?
考えれば考えるほど…ミクは分からなくなっていった。
…ただ、一つ言うとすれば。
今のミクから見て…この二人は、歪んでいるようにしか映らない。
[E区画 街‐1エリア]
戦いは、始まってしまった。
夜。宿泊用の建物で窓の外を見つつ、ワイングラスを持って立つ桃髪の女性がいた。
このまま、誰も戦わず、平和に終わればいいと思っていた。だけどそうだと一生この空間から出られないだろうし…。
やはり誰も落ちないうちにと急いでいたが…遅かった。
なら、仕方ない。信じられる人を何人か集めて…動いてもらおう。
くいっとグラスの中の飲み物を口に流す。そしてフォンを開く。カイト脱落を示すメールが、画面に表示されていた。
ミク。…彼女は、危険だ。
BATTLELOID「STAGE2 停止不能」-(2)
※BATTLELOID「BEFORE GAME」を参照してください。
リン、レンの助けで何とかその場をやり過ごしたミク。
そして、この戦いの中、ある決心を固める。
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