ちょうど私たちが歩いているところ、街の電気屋さんにあるテレビにクギ付けになっていた。理由は簡単で、最近コンサートをした流行のアイドル――まあ、私のことなんだけれど――が映っていた。アイドルがちょうどカメラのズームで決めポーズをしようとしたときにマイクをヒールで踏んでしまいずっこけてしまった様子を見て、私は我慢しきれずため息をついてしまった。なんでこの時の残ってるんだろうなあ。

「もう、どうやったって無駄なのかなあ……」

 私の隣にいたヒビヤくんが小さく呟く。そのヒビヤくんの顔はなんだか泣きそうだった。

「諦めちゃダメだよ」

 なんて言葉をかけようとしたけれど、そんな言葉じゃまったくもって多りそうになかった。

 だったら、簡単なことかもしれない。

「そしたらもっと元気にならなくちゃ、明日も眩んじゃうよ!」

 私はそれを言う事しか出来なかった。

「あ、あの……おばさん?」

「だーからー、わたしはモモだって……どうしたの?」

 ヒビヤくんの顔は私の笑顔とはうらはらに暗くなっていく。一体どうしたのだろう、と振り返ると――。


 ――如月モモちゃんですよね?! サインください!!
 ――モモちゃんhshs



 ……後ろにギャラリーが集まってるううう!! しかも、またhshsしたやついるし!! 急いで逃げよう!! 逃げるしかない!!

「ヒビヤくん、逃げるよ!!」

「え」

 ヒビヤくんの返答を待たずに私は強引に手を取り、駆け出していった。

 ああ。結局、散々だなあ――。


≪オツキミリサイタル【自己解釈】 前編≫


 フードをかぶって、私はヒビヤくんを連れて街を歩く。ああ、なんだかお腹がすいちゃったなあ。

「ヒビヤくんお腹空かない?」

「え、僕はいいよ別に……」

「あ、こんなところにファミレスが!」

「僕の意見聞いた意味は?!」

 中に入ってテーブル席に対面する形で座る。何も注文しないみたいだったので、私が注文する。

 店員さんが来ると同時に、私は注文を始める。
「あ、すいません。えーとお子様ランチとお寿司セットとアラビアータとアンチョビピザとミラノ風ドリアとコブサラダとチョコアイスクリームとバニラアイスクリームとカレーライスを一つ!」

「ちょ……そんなに食べるの?!」

「ヒビヤくんの分もだよー。あ、あとドリンクバー二つで!」

「ドリンクバーもかよっ!?」

 かしこまりましたーと言って店員さんは戻っていった。

 数分もしないうちに商品の全てがテーブルいっぱいに並べられた。うーん、美味しそう……。けれど、ヒビヤくんはツッコミをするとき以外はうつむいていて、なんだかやっぱり心配になっちゃうのだった。

「なんでもいいよ、好きなの食べて!」

「まあ……とりあえずこれ……」

 そう言ってヒビヤくんはカレーライスを取った。おお、やっぱりカレーだよね!

 ヒビヤくんはカレーを頬張りながら、呟く。

「あのさ、おばさん。僕のこと気にかけているなら別にいいけれど……僕は弱虫なんだよ。ダメなんだよ……彼女を、ヒヨリを取り戻すなんて、そんなの絶対にできやしないよ」

 そう言ってヒビヤくんは俯いた。ヒビヤくんは行方不明になったヒヨリちゃんを探すために躍起になっている。ヒヨリちゃんはトラックに撥ねられたらしいのだけれど、すぐそこには忽然と居なくなっていた。団長さんは「俺たちにしか解決できない」だなんて言ってたけれど……本当なのかな?

「ねえ、ヒビヤくん。これ食べたらゲームコーナーいかない? 私シューティングゲーム得意なんだよー!」

 だから、私にはヒビヤくんを信じることしかできない。

 君には――まっすぐ前を向いて欲しいんだ。


つづく。
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

オツキミリサイタル【自己解釈・前編】

アルバムでも好きな曲なので動画になって嬉しいです!!

http://www.nicovideo.jp/watch/sm21259575

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投稿日:2013/07/03 19:32:05

文字数:1,569文字

カテゴリ:小説

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