Syalt I-dyss rit melchis.
ささやかな恋をした王
わたしのあいさつから始まる祝祭は、当たり前だがとても賑やかだ。もとより、これだけの人が集まれば騒がしくなる。けれど、そんな喧騒と目の前に広がっているざわめきは違う。例えるなら……スポーツ観戦が近いだろうか?。プレーの1つ1つに喜んだり悲しむ姿は的を射ているように思う。ショットやシュートなどが決まる時の直前の静けさもまた、同じだ。
大きな行事を行うのには、大変なものだ。戦争などを起こしていたらとてもじゃないができない。この祭りを見る側ではなくもてなす側、つまりは出演者としてきている人たちは、いったいこの日のためにどれだけ練習しただろう。そんな練習もできなくなるだろう事を考えると、やはり平和とはいいものだった。
けれど、そんな楽しい事ほど、早く通り過ぎてしまうもので。後は最後の1つを残すのみとなっていた。祝祭の最後はこれと毎年決まっているので、ここにいる全員が何をするか知っているのだろう。長く開かれた祝祭で疲れつつあるというのに、それでも静かにしてくれるのはありがたかった。
国歌斉唱。
それが残された演目。
といっても、扱いでいえば図書館などで閉館間際の時にかけられる音楽と同じような扱いだったりする。一応国王でもある自分がそんな国家をないがしろにしていいのかという話だけれども、実際そんなものなのだ。
いつも同じことをしているのだから、ちょっとした決まりみたいなものもある。その程度、と思うようなことだが大切だ。
この国で一番、歌のうまい人物がそれを歌う決まり。たしか、ここ数年は世界で有名な中年のふくよかな男性が選ばれていたか。今年も、そうなのだろうか?
期待は、裏切られた。いい意味で。
舞台に上がったのは、雪菫とおなじ年頃の少女だ。緑の髪はツインテールにまとめられていて、その髪には黒の真ん中に赤いラインの入ったリボンが巻きつけられている。舞台衣装のドレスは肩と胸元のところだけ少しあいた真っ白のもの。無表情だが、きっと緊張して固まってしまっているのだろう。
――かわいい。そう思って心の中でほぅとため息をつく。顔に出すと、威厳がなくなるのでしないが。
少女が、こちらを向いてお辞儀をした。舞台に上がった人みんながそうしてきたことなのに、彼女のその行動だけが目に焼きつく。ドキドキする……。なんだ、これは。
気がつけば彼女はもうわたしの方を見ていない。国家が少女の口から紡がれる。
すこしかすれた声だった。でも、怒鳴るような汚いかすれた感じじゃない。音程も完璧で、彼女がこの国で1番の歌い手なのだと知った。いや、歌い手じゃなくて、歌姫だな。こんなに姿も歌声も美しい子なのだから。
国家は元からそんなに長さのあるものじゃない。終わったとき、物足りない、そう思った。もっと、歌声を聞いていたい。彼女を見つめていたい。
訪れてみようか、彼女のいる場所を。
Syalt I-dyss rit melchis.
ささやかな恋をした王
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或る詩謡い人形の記録 3 -賢帝の愛玩-
※この小説は青磁(即興電P)様の或る詩謡い人形の記録(http://tokusa.lix.jp/vocalo/menu.htm)を題材にした小説です。
ヤリタイホーダイ(http://blog.livedoor.jp/the_atogaki/)というブログでも同じものが公開されています。
こちらの方が多少公開が早いです。
始 http://piapro.jp/content/0ro2gtkntudm2ea8
前 http://piapro.jp/content/k5l0idp2xgcdk20j
次 http://piapro.jp/t/xhHk
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