「このまま帰るのも、なんかアレだしねー」


初音が呟く。
僕としては早く帰りたいところなんだけど、残念ながらこの夏期講習、勝手に帰ると先生から連れ戻され説教されるという素敵なプレゼントがあるのだ。
それに、初音が許してくれないだろう。


「というわけで神威、アイス買ってきてよ」
「まだ言うか。それに、夏期講習のときは勝手に学校出れないし無理だよ」
「はぁ?そんなん知らないし。とにかくアイス食べたい」
「そんなに言うなら自分で買ってこいよ」


初音って、そんなにアイス好きだったっけ。
いや、ただ単に、それだけ暑いってだけか。

この理科実験室は凄くボロい、それに旧校舎の教室は冷暖房完備のエアコンとかは設置されていない。
残念だけど扇風機もない。
現在の室内の気温は三十度を超えている。
少しでも涼しくなるように窓を開けているけど、外も暑い。
初音がアイスを諦めないのは、そんな理由があるからだろう。


「神威のケチ。馬鹿、最低」
「なんでそこまで言われなきゃいけないんだ」
「なんか神威は行ってくれないみたいだから、グミ行ってきて。あなたのも買ってきていいわよ、あ、でも神威のは駄目だよ」
「了解ですミク姉さん」


そう言うやいなや、グミは実験室を飛び出していった。
あいつ、財布持ってったか?
ま、いいか。どうせ入り口に立ってる体育教師に止められて、説教とげんこつをもらって帰ってくるだろう。


「それにしても、どうして出席日数ってのが必要なのかしらね?」
「さぁ?」
「授業なんかつまらないのに、なんで参加するんでしょうね、皆は」
「それが普通なんだろ。僕らは違うけど」
「こうなったら、絶対に留年しない機械とか、作ってみようかなー」
「ふーん。じゃあ、真面目に授業出たら?そうしたら絶対留年しないよ」


初音は夏期講習にぶつぶつと文句をぶつける。
そんなに夏期講習が嫌なら、真面目に授業に出ればいい話だ。

事実、僕ら三人は「授業は簡単すぎてつまらない」という理由で、あまり授業に出ていない。
僕は学校を休むことが多いけど、別に体が弱いわけじゃない。
初音はしょっちゅう遅刻するけど、ただの寝坊だったり、そんな理由が多い。
グミは…なんだったかな。まぁ、あまりまともな理由じゃなかった気がするけど。


「ところでさ神威、話は変わるんだけど」
「うん、何?」
「どうして夏期講習なんてものがあるのかしらね?」


おい、あまり変わってないぞ。
そんな僕の(心の中での)ツッコミなんて気にしないで、初音は「どれだけ夏期講習がめんどくさくて恐ろしいか」について一人で語りはじめた。
僕は「あーそう」とか「はいはい」とか、適当にツッコミを入れながら聞き流していた。
それでも、暇なことには変わりはない。
というわけで、近所の本屋で買った本(税込みで千二百六十円)を開き、本の世界にしばらく浸ることにした。





「あーもー、痛かった…」


五十ページの「主人公がおしるこの凄さについて友人に語りだす」という謎の場面の辺りを読んでいると、グミが帰ってきた。
なにやら痛そうに頭をおさえている。
…うん。


「あれ、早かったわね、グミ。どうしたの?」
「入り口で先生に止められて、説教とげんこつとジャムパンをもらいました」


やっぱりか。
っていうか、なんでまたジャムパンもらったんだ?


「あと財布忘れた」
「アホか」


それもか。
財布ないとアイス買えないだろう。
あいつは頭はいいが、どこかがぬけている。


「じゃあ、アイスは無理かー」
「まぁ、そうだろうね」


グミは先生からもらったジャムパンの袋を開け、一口。
あ、なんか好みのパンだったみたいだ。
一気に顔が明るくなったぞ。


「なんか抜け道とかあれば、勝手に出れるだろうね」
「じゃあ作ろうか、神威」
「…は?いや、僕は本読むから」
「いいや、全員参加」


初音は言い出したらとまらない。
こうなったらもう駄目だ。
僕のライフが三つぐらい減った。


「で?どうやって抜け道とか作るんだい?」
「ふっふっふ、任せて。いい方法があるのよ」
「さすがです、ミク姉さん」


初音は何か悪いことを企むような、少し怪しい笑顔を浮かべた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【リレー】僕と彼女の不思議な夏休み 2

auroraさんと再びリレー小説を書くことになりました。
八ヶ月ぶりです。
よろしくお願いします。


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前作:「僕と彼女の不思議な日常」シリーズ
日常編:http://piapro.jp/t/w8lN
校内探検編:http://piapro.jp/t/iN6E
世界編:http://piapro.jp/t/2lQB

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投稿日:2013/01/04 01:18:22

文字数:1,765文字

カテゴリ:小説

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