東京の小学生について、ぼくはほとんど何も知らない。
なぜ小学校なのに制服を着ているのか。
なぜ男も女も紺色の鞄を持っているのか。
なぜ駅が小学生の大群でごった返しているのか。
なぜいいとこの学校の生徒ほど生意気な態度をとっているのか。
東京の小学生について、ぼくは微塵も興味はない。
しかし、彼女は別だ。
夕方の駅のホームで出会ったあなた。
僕は急行から各駅停車の電車に乗り換えるためにベンチに座って待っていた。
あなたはこの駅で降りるようだった。
背筋はスッと伸び、一切の迷いなく歩いていた。
制服の紺色の帽子がとてもよく似合っていた。
まるであなたのために仕立てられたもののようだった。
あなたは姿形こそ小学生の女の子だったけれど、それは借り物の衣装で、
本来の姿は正真正銘、完成された一人の女性とでもいうような佇まいだった。
あなたは歩きながら本を読んでいた。
あなたは何を読んでいたの?
あなたは一体何を知ろうとしていたの?
無垢なあなた。しかし、ある意味では完成されたあなた。
あなたに一体何を知る必要があったの?
完成された後にこれ以上何かを知ったって
欠けていくだけかもしれないのに、
損なわれていくだけかもしれないのに。
赤い表紙のその本には何が書かれていたの?
ひょっとしてそれはミシュランガイドだったの?
ミシュランガイドには何が書かれていたの?
三つ星レストランの所在が書かれていたの?
今時の小学生はミシュランガイドを読んで夕食を食べる場所を決めるの?
ミシュランガイドに掲載された三つ星レストランへ行く小学生について、ぼくは考える。
「一人よ。予約はしていないの。あいにく携帯電話はまだ持っていないの。お席はあるかしら。」
「ええ、お席はございます。ただ・・・」
「大丈夫。座面の高いお子様用の椅子は必要ないわ。」
「失礼いたしました。すぐにお席へご案内致します。」
「ねえ。荷物を預かってもらえるかしら?」
「かしこまりました。」
「重くて嫌なのよね。ランドセルって。なんだってあんなに仰々しいものを使わせるのかしら。スウェーデンじゃもっとシンプルで、それでいて一生もののデイパックを持つのよ。」
そんなことを考えている間に、
金色に輝く夕日の中へと、あなたの姿は吸いこまれていった。
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