「無菌室にあんなのいれていいんですか?」
「いいんじゃないの、どうせ人形なんだから」
「そうですけど、見回りのときに見たら腰抜かしそうですよ。…やっぱりあれ、アンドロイドでもないですよね。凄い古そう」
「今も出てるあの歌うロボットの古いやつじゃないかな、うん。あんな古いタイプなら、簡単な会話と本当にただ歌うことしかできないんだろうけどね」
「へぇ。ササキさん、詳しいですね」
「私も昔、欲しい時があったから」
「…」
「なに」
「いいえ、何でも。それにしても、今時あんな古い型、無菌室にまで持ち込んで何がしたいんでしょうね」
「さぁね。…古い歌が聞きたいんじゃないの」
*
消灯を知らせる単調な音楽。
心音に沿って流れる電子音。
のっぺりとした闇に包まれ、夜を感知して青の眼が固く閉じかける。彼女の名前を呼ぶと瞼をあげてぎこちない動きで反応した。
「マスター、」
使い続けて、滑らかになった伸びの良い声が響き、闇の中で彼女が微笑んだのがわかった。膝の上で大人しく重ねられていた手が、自由の効かない私の手を取った。
こんなプログラムを入れていただろうか、と近年酷く朧げになった記憶の中を探る。
思い出せないまま、暗闇の中で目が合う。
落ちた視力では彼女がはっきりと見えない。白いばかりの病室には、朧月のはかない光が差し掛かっていた。
支えるように取られた手は、やはり関節部分だけが妙に温かい。
呼吸は浅いまま、視界が酷く狭苦しく感じる。目を何度も開いては閉じるけれども、良くはならない。もう何年も前からこうだった。視界が狭まって頭が割れるように痛くなる事が度々重なった。音楽が水のように手からこぼれ落ちる。詞が頭の中に見つからない。曲が、作れなくなった。
あれはもう何年も前の秋の話だ。
せっかく彼女をこの三次元空間に作り上げることが出来たのに、結局、歌姫は大して歌う事もできずに会話ばかり。自分が、この白い箱に閉じ込めてしまった。
「…お前を何も、こんなところに、道連れにすることもなかったな。録に歌わせることも出来なくて、ごめんな」
伸びたツインテールが横に揺れた。
やけに今日は彼女の動きがなだらかに見える。いよいよ耄碌か、と心の中で自嘲する。
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