第二話【前篇】
ゲームスタート。
テツヤの――チーフ・バイパーの、キャプテン・ラルフの名誉を守るための闘いがじまった。
「ヘッ、どんな無様なプレイしてくれるか、お手並み拝見と行こうか!」
背後の緑頭が挑発してくる。
「…………」
ラルフは黙して見守っている。
周りのギャラリーは、ランキング1位のジュンに挑む愚かなチャレンジャーのプレイを物見高に観戦する姿勢だ。
「JUNさんにかなうわけねえのに、身の程わきまえろっての!」
「いるんだよなぁ。うまいプレイ見てると自分もできるんじゃないかって錯覚するヤツ!」
「そりゃおまえだろ!?」
「なにを~!」
しかしテツヤの耳に雑音は聞こえない。
集中する。
レバーと3つのボタンを介して、精神を「4093」の世界へダイブさせる――
テツヤがジュンに挑むSTG「4093」とは、西暦4093年の超未来の地球を舞台にした横スクロールタイプのSTGである。
ベースストーリーはこうだ。
汚染惑星となった地球を脱して宇宙に散り散りになった地球人が、新たな社会を構築してから数千年後の西暦4091年……人類の地球への帰還計画が立ち上がる。初動として先遣隊を送り込むのだが、地球に存在する何らかの脅威によって壊滅。調査船のリンケージコンピュータから受信した情報の断片からわかったことは、地球に出来上がった新たな生態系による、侵入者への排除行為がなされたということだった。それを受けて宇宙時代の政府の地球帰還計画推進本部は、その時代の技術の粋を結集して一機の精鋭偵察機「GBE-01」――コードネーム「オルカ」を開発し、4093年、再度地球への偵察作戦を実行する。未知の驚異から、地球を人類の手に取り戻すために――
敵となるのは、未来の地球の生態系そのもの。敵キャラも地形も背景も、生命力あふれるダイナミックなものとなっている。
そしてシステム面で特徴的なのは、自機となるオルカに装備される支援ユニット「オニキス」の存在で、時には武器に、時にはバリアになる万能兵器であり、このオニキスを使いこなせるかどうかが、この「4093」攻略の鍵となっていて、そこに高い戦略性があり、今もっとも熱いSTGとしてシューターを熱狂させている。
STAGE-1は、大気圏突入後の空が舞台で、成層圏から徐々に下降してゆく。背景が暗闇から青空に変わっていくグラデーションが美しいステージだ。
テツヤは順調にザコ敵を掃討しながら、パワーアップアイテムを取得。自機を強化していく。
最初のボス「クラウドディック」に対しては、支援ユニット、オニキスの攻撃特化形態で速攻。なんなく撃破する。スコアは21万点だ。
「やるじゃねえか! だがこんなもんじゃこのジュン様には届かないぜぇ!? ステージリザルトもオレ様のほうが4万点も上だ!!」
だがテツヤはSTAGE-2、3、4と進むほどに調子を上げてゆく。
「へ、ヘッ! 言うだけのことはあるようだがよ、それじゃあまだまだだぜ! まだ点差は3万もある! こっからの難所で差をつめられるもんかよ!?」
このままいけば、ジュンのスコアを超えるかもしれない……
ギャラリーの中にもそう考える者が現れ始めていた。
実際それほどテツヤのプレイは冴えていた。
だが、テツヤの顔に余裕や喜色はなかった。
(ここまではなんとかなった……。だが次のSTAGE-5。俺はこのステージの途中で何度か死んでから、このゲームはやっていない。ここから先には進んだことが無い……いけるのか?)
テツヤの頬に汗がつたう。
(さっきキャプテンのプレイで先のステージを見はしたが……見るのとやるのとじゃあ大違いだ……)
緊張からレバーを握る手に力がこもる。
「おぉ? なんだァ~!?」
ジュンが目ざとくその様子に気付いた。
「おいおい、まさかオメー、こっから先に進んだことないんじゃねーのぉ!?」
指摘されたのと同じタイミングで、テツヤは敵弾を喰らってしまう。まだSTAGE-5の序盤。小手調べ程度の、問題なく避けられた攻撃によって、支援ユニットの防御が削られてしまう。
「ヒャハハッ! マジかよ!? ってことは全クリしたこともないってか! こりゃあ話にならねぇぜえーッ!!」
動揺したテツヤの被弾に、ジュンが水を得た魚のように哄笑する。
(……くっ!)
続けて2度、3度被弾するテツヤ。
「そんなんでよくこのジュン様に挑んでこれたもんだなあ! 大方、さっきのヘタレCPRのプレイで終盤ステージを見れたから、未クリアの自分でもなんとかなると思ったのかも知れねぇがっ!」
オニキスの防御機構は、破られる寸前のところまでダメージを受けてしまった。あともう一発被弾したら、オルカは丸裸になってしまう。
「見るのとやるのとでは、大違いだぜぇーッ!」
わかりきったことを、大きな声で言うジュン。調子に乗る緑頭はプレイで黙らせるしかない。ハイスコア更新によるオールクリアによって。しかし……
「4093」は、トリッキーで唐突な敵の攻撃や、意地悪な地形トラップなどが多く、何度もミスを重ねプレイヤーが学習しながら攻略法を構築していく、いわゆる「覚えゲー」である。つまりテツヤにとって、ここから先の未プレイのステージを、残機3のみのワンクレジットでクリア(ハイスコアとして認定されるのはワンクレジット――ワンコイン分のプレイのみ)するのは至難の業と言えた。
「やっぱり誰もジュンにはかなわないんだ……」
「ジュンさんに挑もうなんて10年早いぜ!」
「この兄ちゃんもよく頑張ったが、ここまでみたいだな」
と悲喜こもごものギャラリー。
しかし、キャプテン・ラルフだけは、疑っていなかった。
テツヤの――かつての戦友の勝利を。
(魅せてみろ、バイパー。チーフの名は伊達じゃないということを)
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